あらすじ
夜の仕事に就く理由は様々だ。失業のため、虐待から逃れて生き延びるため、大学の学費や病気の治療費のため、ホストやバーの売掛金の支払いのため。性風俗で働くことには、昼の世界よりも圧倒的に高額な報酬を手にすることができる可能性がある反面、ストーカー被害や性感染症、社会的な信用といった面での大きなリスクが伴う。彼女たちはなぜ性風俗産業で働きはじめ、どのようにして卒業したのか。実際の体験談から脱がずに生きる方法を模索する。
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Posted by ブクログ
以前、駅のプラットフォームで、電車に轢き殺されたハトの死骸を、カラスが無感情に淡々と貪っていた光景を目撃したことがある。ただ立ち尽くし、まばたきすら忘れるほど見入ってしまった。目の前で起きている現実に、恐怖と同時に「新しい何か」が自分の中で静かに芽生えるのを感じた——あの感覚に、少し似ている。
この本『風俗嬢のその後』を読んで感じたのは、まさにその「既知の輪郭が崩れていく」ような感覚だった。これまで私が生きてきた日常の延長線上には、絶対に存在しないであろう現実。風俗という世界の中で働いた女性たちの、その後の人生——家庭を持った者、風俗に戻った者、起業した者、孤独に生きる者。どれもが一様ではなく、“風俗嬢”というレッテルでは到底括れないほど多様で、苦しく、美しく、そして強く生きていた。彼女たちの語る言葉には、どんな美辞麗句も入り込む隙がないほどの切実さと、剥き出しのリアルがあった。
読んでいるうちに、気づけば私は彼女たちの”その後”を追いかけながら、自分自身のこれからを照らしていたように思う。言葉にならなかった感情、名前のない憧れや不安——そんなものに触れるたび、自分の輪郭が少しずつ広がっていくのを感じた。
また、この読書体験は、例えるなら「本という媒体が、私の経験値の限界をあっさり飛び越えさせてくれた」ような感覚でもあった。現実の私は、彼女たちのような人生を生きたこともなければ、その業界に触れたこともない。でも、本を通してその内側に深く潜っていくことで、自分の手の届かないはずの”経験”を疑似的に体験することができた。ゲームで言うならば、自分のレベルでは到底太刀打ちできない敵を、一冊の本によって倒し、その経験値を自分の中に取り込んだような、そんな感覚だった。
私はこの本を読まなければ、一生知ることのなかった人生に触れ、一生交わることのなかった視点を得た。たとえば、風俗嬢という仕事に就いた理由、そこから離れる決意、また戻ってくる葛藤。それぞれの背景には、家庭環境、恋愛、金銭、自己肯定感といった複雑な事情が絡み合っていて、それがまるで、「人間の生」に対して正面から向き合うための問いかけのようにも感じた。
何かを強く批判するでも、美化するでもない。むしろ、こうした人生も確かにここにある、という事実を突きつけられたとき、自分の価値観や倫理観が問われるような気がした。そんな風に、読後しばらく私は静かに何かを見つめていた。言葉にするのが難しいけれど、確実に何かが自分の中で変わった。それは、自分の輪郭がもう一段階広がった瞬間でもあった。
この本は、「知る」ということが、いかに人間を豊かに、そして静かに変えていくかを教えてくれた一冊だった。
Posted by ブクログ
「風俗産業でなぜ働き始めたのか、そしてどうやって卒業したのか」を13人の女性が語る。
ここで語られた方たちは、うまくいった人たちだ。彼女たちによると風俗業を卒業するには
①良い店を選ぶ ②目標をもつ ③専業にしない ことだという。
これができるのは限られた人たちで、大方はもっと厳しい。経済的に追い込まれると尚更であり、一般の社会に戻るにも、風俗で働いた期間が履歴書上では空白になりやすく再就職の道を険しくする。女子大生が語った、「就職するには『ガクチカ』が大切だけど、それは時間と金のある人間ができること」の言には胸が締め付けられた。
Posted by ブクログ
さっき書いたのが消えたので手短に。元風俗嬢へのインタビュー集です。
僕のイメージ、精神病の人で、多数とセックスしても大丈夫な人しか務まらない職業と思っていた。まあ実際にそういう人も居るのだけど。両親が医者で(成功者で)、家庭で愛されてなくて、中学生からパパ活して、そのおじさんが『やさしい人』と表現したりとか。ボーダーっぽい人。自分が男性の性欲でしか価値が無いとか書いてた気がする。自傷のついでにお金をもらいたいっとかもね。
でも他のタイプの人も居た。留学費用溜めて博士課程取ったり、大学の学費の分だけ働いて止めたりとか。それで精神的なトラウマもない。こういう人にとってはただの割のいい仕事なんだろう。
あとは、男性を見ると性器が思い浮かぶようになったとか、好きな人とセックスできなくなったとか副作用も書いてあった。
衝撃的だけど面白い本だった。でも何か読んだあと傷ついた感があるかな。
Posted by ブクログ
脱ぐ仕事をしたきっかけや辞めたきっかけを追うルポ。暗いその後を勝手に想像していたが、資格取得や結婚といった形で新たな道を見つけている(そもそもインタビューに答える人だから不幸せな人は少ないのかもしれないが)。風俗という選択肢のあり方を考えさせられる渾身のルポだ
Posted by ブクログ
様々な対象への取材を元に、風俗嬢としての活動とその後についてを渉猟しているが、インタビューに応じられている時点で上澄みとして捉えるべき部分もあるように思う。
貧困問題等におけるルポライターの筆に比べて、より社会学としての学問上のアプローチに近いものを感じるが、アウトリーチの活動家として答えにならない答えを求める奮闘も見受けられる。
Posted by ブクログ
学んだことの一部ですが、下記引用しました。
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性風俗の現場は
「労働」なのか「道場」なのか
自身の「性」と「生」で悩んでいる男女にとって、性風俗の世界が性愛に関するコミュニケーションの学びの場「道場」になっていることは、間違いない。
出会いと労働の境界線が曖昧になっているがゆえに、多くの男女が惹きつけられる場となっている、と言える。
性的同意やセクシャルハラスメントの防止など、性愛をめぐるコミュニケーションに求められるスキルや配慮の水準が高まる一方で、それらを実践的に学べる場が極めて限られている現代社会の中で、性風俗の世界は、労働と道場の境界線を曖昧にすることで多くの人を吸引しているのかもしれない。
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特に、恋愛弱者だと自認している場合は上記が当てはまると思った。
Posted by ブクログ
やむに止まれず、その道に入ってしまったり、抜ける為に苦労してる事について書かれた本で、自分は恵まれてるのだと気づかされました。
最後の章で
Lonly(孤独)だけれどもAlone(一人ぼっち)ではない
と書かれた部分が心に残りました。
Posted by ブクログ
「本人の責任だ」という意見もあるだろうが、人は家庭環境を選んで生まれて来られるだろうか。風俗嬢に限らず、自分が変わるには他者からの信頼が要る。体験談を読むことで、イメージで一刀両断する危うさを考えた。
Posted by ブクログ
インタビュー部分が生成AIで作文したかのように平板なのが残念だった。とはいえ、就業におけるサポートが(100%を満たすほどに効果的でないとしても)ニーズとして顕在化しているように思う。平たく言うと、夜職一本は危険なのだが、昼職に耐えられない人々をどうするのか……。
Posted by ブクログ
<目次>
第1章 自分を傷つけずに働ける場所
第2章 時計と窓のない世界
第3章 私を支えてくれる人
第4章 誰もが「脱がずに生きる」ことのできる社会とは
<内容>
性風俗で働く女性のための生活・法律相談事業「風テラス」1を開設した著者の、風俗関係者の様子を世に知らしめる本の一つ。今回は「その後」にスポットを当てるが、インタビューに答えた女性はいずれも風俗世界を抜け出れた人物。なので悲惨さがあまり伝わらない。無論その過程ではいろいろと泥を被ったのだろうが、さらっと書かれている。何時の時代にも合った風俗だが、現在も世の中からドロップアウトした女性の受け皿になってしまっていることが問題。服を脱げば、技術もさほど無くても短期間で稼げてしまう業界。
最後に書かれていた一言がよかった。皆がある程度幸せで生きられる社会とは、「We are lonely , but not alone.」