あらすじ
三日の旅終へて還らす君を待つ庭の夕すげ傾ぐを見つつ――
昭和から平成の終わりまでに詠まれながら,これまで私たちの目に触れることのなかった四六六首を収録する.よろこび,悲しみ,ときに言葉にできない驚きや共感…….うつろう時間の中で三一文字に凝縮された豊かな世界.その扉がいま開かれる.解説・永田和宏.
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Posted by ブクログ
美智子上皇后の歌集ですね。
ご自身の歌集としては二冊目になります。
この歌集は、解説の永田和宏さんが深く携わってこられたそうです。
『美智子さまは、令和六年(二〇二四年)十月二十日、卒寿の誕生日をお迎えになりました。これを一つの節目として、昭和から平成の終わりまでに詠まれぬがり、これまで私たちの目に触れることなく眠っていた四六六首の御歌が、歌集『ゆうすげ』としてまとめられますことを、私も一読者として喜ばずにはいられません。』と、語られています。
いち早く木叢(こむら)は萌ゆる緑にて
照り葉まばゆき島の昼なか
みづみづとさあれ危ふく幼な子に
萌え芽ぐむもの限りもあらず
静かなる園の夕に暮れ残る
すずらん揺れて鳴るかと思ふ
紅葉せる蔦の細道君と来て
しばし聞き入る草雲雀の声
若き吾子の寄りて仰げる桜木は
如月にして花芽だちたり
羽いまだ幼き揚羽飛ぶ庭の
ひとところ群れて芙蓉花咲く
いち早く百合咲きいづる育みし子の
旅立ちの近きこのあさ
夕づける時ほのかにも匂ひ立つ
白き風蘭の花のかそけし
去年(こぞ)の夏蛍飛びゐしあたりにて
今山吹の花盛り咲く
「雪」といふうまごの声に見し窓に
まこと雪かと花舞ひしきる
我が生れし季節に入れば石蕗(つはぶき)の花
咲きてうれしその道をゆく
初(うひ)にして君にまみえし高原(たかはら)に
ハナササゲは赤く咲きてゐたりし
細やかな情感と温かな心根を感じます。
自然と家族を慈しみ、愛情を注がれる気持ちが仄かに伝わりますね(=゚ω゚=)
Posted by ブクログ
皇后という立場から詠んだ歌も多いけれど、印象に残ったのはむしろ妻として、母として感じたことを詠んだもの。
若芽萌ゆる柳細枝のしだり枝に隠れて小さき子の手の招き(昭和四十七年)
「小さき子」とは現天皇陛下か、秋篠宮殿下か。
三日の旅終えて還らす君を待つ庭の夕すげ傾ぐを見つつ(昭和四十九年)
君、すなわち夫、当時の皇太子さまが「三日の旅」に出られた。それを一人御所で待っている折の歌。
かと思えばこんなのも。
行くことの敵わずありて幾度か病む母のさま問ひしこの電話
皇室に嫁いだ身。実の母の病状に気をもむが、見舞いに行けず電話で様子を聞くしかない。
など。
歌集タイトル「夕すげ」はじめ自然や植物を詠んだ歌も多い。
巻末解説の永田和宏の勧めがあって「美智子」の名前で歌集にまとめることになったらしい。