【感想・ネタバレ】マヤ文明 ――密林に栄えた石器文化のレビュー

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Posted by ブクログ

マヤ考古学者によるマヤ文明の解説書。主に古典期(前250年~1000年)のマヤ文明を中心に、都市王朝の歴史や文化、社会構成などを概説している。
本書は初学者にも理解できるように非常に分かり易く説明が行われている。各都市の歴史やその社会構造、農民や貴族階級の暮らしを考古資料に基づいて説明しており、マヤ文明の最新の学術的研究成果を知る事が出来る。著者自身の体験談も交えて語られるマヤ文明の姿は、所謂「マヤの終末預言ブーム」において世間一般に広く流布された「謎と神秘」に毒されていないもので、彼が語るように「世界六大文明」の一つにして「究極の石器文明」たる高度な文明の姿である。私自身、マヤ文明についての知識は皆無に等しかったので、本書は非常に参考になった。
「マヤ終末預言のXデー」も過ぎた今、真面目なマヤ文明理解をしたい方にお勧めの一冊。

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2013年01月02日

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マヤ文明の概略、特に最も興味のある文明の盛衰がコンパクトに整理されている。

マヤ地域では古期の紀元前1800年まで狩猟採集が主で、雨季と乾季に移住する生活を続けていた。先古典期中期の前1000年頃に大きな穂軸と穀粒のトウモロコシが生産され始め、トウモロコシ農耕を基盤とした定住生活が各地で定着した。

マヤ文明は石器を使い続け、鉄器は用いなかった。車輪の原理は知られていたが、大型の家畜がいなかったために荷車や犂は発達しなかった。「ピラミッド」はウィツと呼ばれる山信仰と関連する宗教施設だった。後世の王は、神殿ピラミッドをより大きく更新することによって王権を強化した。支配層に仕えた書記兼工芸家は、天体観測、工芸品の製作、戦争、行政などの複数の社会的役割を果たした。法律文は見つかっていない。

ティカルでは乾季に水が不足するため、建築物や地面を漆喰で舗装して貯水池がつくられた。コパンでは、5世紀に大規模な建設が行われたために森林が破壊され、7世紀頃から建造物の外壁は漆喰彫刻に代わってモザイク石彫で装飾されるようになった。マヤ低地南部の都市が衰退した直接的な要因として最も重要視されているのは、人口過剰、環境破壊、戦争。8世紀に人口がピークに達し、宅地や農地の拡張、薪採集によって森林が減少し、農耕によって疲弊した土地が広がった。しかし、王たちは自らの権威を正当化するために神殿ピラミッドを更新続けた。戦争が激化して王朝の権威が弱体化・失墜した証拠がある。

一方、マヤ低地北部では、マヤ低地南部の多くの都市が衰退した古典期末期(800〜1000年)に全盛期に達した。後古典期(1000年〜16世紀)には海上遠距離交換が発達し、商業活動が盛んになった。芸術や建築に代わって大量生産が行われるようになり、マヤ文明は16世紀にスペイン人が侵略するまで発展し続けた。

内陸の芸術や建築を中心とした文明から北部海岸部の海運交易による経済へと移行したと説明している点が興味深い。人口増加による環境破壊は外部との交易によって解決されてきた歴史を物語っているように思える。

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2018年10月31日

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マヤ文明に対する見方が良い意味で変わる本。マヤは間違いなく大文明の一つであることが分かります。マヤ時代の建物や文字についても書かれていて、相当高度な文明であったことが想像できます。
この本を読んでも思うのですが、都市を維持拡大していくのがいかに難しいか。その点も考えさせられました。

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2015年01月31日

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ネタバレ

第一線の考古学者がマヤ文明の概観を自分の研究をベースに記述。著者の専門の石器の話や考古学的な詳細が新書の割に多く、わかりにくいもののそれが逆に本気度を伝えている。正しいマヤ文明の理解を伝えることが、著者のライフワークの一部とのこと。
マヤ文明は、ユーラシア諸文明のように大河のほとりで大灌漑事業をベースに絶対王権が栄え牧畜、鉄器などの文明を発展させたものではない。分散された都市国家が、牧畜はせず、ユーラシアの米や小麦よりも高効率なトウモロコシなどを栽培し、天文学文字を含む石器文明、交易を発展させていった。そう聞くとギリシアやキリスト教以前のヨーロッパ北部に近いものかと思うが、海上交易は少ないようだし、その比較は本書にはない。
著者が携わるようにマヤ文明に関する知識は更新され続け、昔マヤのピラミッドは祭祀用とされてきたが、王墓も中にあるものが多いことは知らなかった。

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2012年07月15日

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 マヤ文明と言えば2012年に流行った終末予言とか、インディジョーンズで有名なクリスタルスカルなど、謎めいたことばかり語られることが多く、かつて栄え、今は滅んだ謎の文明のように思われている。
 終末予言に関して言えば、マヤの暦は西洋的な直線的時間観ではなく、循環暦なので、様々な周期が複雑に組み合わさっているため、ある周期ではひとつの区切りになっていても、別の周期では区切りでもなんでもないということがある。そもそも2012年に世界が終るなんてマヤの暦のどこにもないらしい。ただのガセネタというの去年証明済だ。



 クリスタルスカルについても、スミソニアン博物館での電子顕微鏡での検査で、ダイヤモンドで研磨されたことがわかっているし、つくられたのはおそらく19世紀のドイツということまでわかっている。別に古代人が未知の技術で作ったわけではない。


 そして最大の勘違いは、マヤ文明は滅んだ、ということだ。
 
 確かにピラミッドなどの巨大神殿をつくった王朝文化は廃れて無くなった。でも別にマヤ人が消滅したわけではない。マヤの文化は現代でも、変容を続けながら子孫たちに受け継がれている。メキシコなどでは混血が進んでしまったが、マヤ遺跡が数多く存在するグアテマラなどは人口の過半数はいまだにマヤ人だ。 
 
 ピラミッドや神殿などの宗教施設は、権力者にとっては必要なものだった。王の神秘性を信じ、加護が期待できた時は臣民も頑張って神殿でもピラミッドでも造った。だが、天変地異や他国との戦争に負けたりして神秘性が疑われることが続くと、誰もそんなもの造ろうとしなくなる。そして、こんな王のもとでは暮らしていけない、といってその都市を棄てて別天地へと去ってしまう。
 
 マヤの遺跡でも特に有名なパレンケやウシュマル、チチェンイッツアなどの巨大建築はスペイン人に侵略される前からすでに廃墟となっていたことがわかっている。
 しかし、マヤ文明がスペイン人の侵略によって滅んだと考えている人は多い。それは同じく巨大石造建築で有名なインカ帝国やアステカ帝国と混同しているからだ。チチェンイッツアに関しては、マヤの様式と、アステカ文明の影響を受けた様式が近接した土地で並び建っているから、なおのこと混同しやすい。


 アステカやインカと違ってマヤは巨大な統一国家というものがなかった。諸王国の乱立だった。だからスペイン人側からすると征服は困難を極めた。アステカやインカでは皇帝の首を獲ればよかったが、マヤの場合は一筋縄ではいかなかった。密林の奥地に生活基盤を構えるマヤ人たちの最後の都市タヤサルがスペイン人に征服されたのは、コロンブスの新大陸「発見」から数えて実に200年以上経った1697年だった。それまでにスペイン人の持ち込んだ天然痘になどの疫病によって、マヤ人は激減していたため、これ以降、組織立っての抵抗はなくなった。しかしマヤ人たちは植民地社会の最底辺に置かれ、服従と搾取を強いられながらも、マヤ人としてのアイデンティティは失わなかった。 


 マヤ文明に関する研究は、最近とくに進んでいるような気がする。 
 20年前にはスタンダードだった本も、今では事実と違うし、謎が謎でなくなってきている。180度変わっていることもある。


 最新の教科書的な本として、お薦めしたい。

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2017年08月15日

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ネタバレ

マヤ文明とインカ帝国あたりをごっちゃにしている人が多い。
マヤ文明は「未開の文明」としてくくられているが、四大文明とは異なるものさしで測れば相当進んだ分明であったと考えられる。
石だけですべてのものを作る、その技術を評価する視点を持つべき。

著者の主張はだいたいこんな感じ。
南米の文化を勉強するときは、本当にスペインの関わりの大きさを実感させられる。
いい勉強になりました。

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2012年05月26日

Posted by ブクログ

商業主義的メディアからしか入らない「神秘」のマヤ文明情報。
ちゃんとした学者さんから、ちゃんとした情報は一度は入れておきたい。
・・・・と思わせてくれる著書です。
スペインに対しては、客観視を忘れてしまう「憎っき・・・」という印象もありますが、本当に、振興の西洋人は、モンゴロイドの世界制覇をぐちゃぐちゃにしてしまいましたよね。

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2012年05月16日

Posted by ブクログ

マヤ文明の最新の研究成果を知るのにも、考古学の一端を知るのにも、好適な一冊。

四半世紀をマヤ文明の調査研究に費やしている著者は、マヤ文明に四大文明とは特徴を異にする一次文明をみる。考古学の成果などから、マヤ文明がどのような文明であり、そこに住む人々がどのような生活をし、日本の事象で例示するなどして、わかりやすく解説する。現代にどうつながっているのかを解き明かす。
そして今日の我々は、どのようなことをそこから学べるのかを考える。

考古学的研究の一端も覗き見ることができ、とても面白い。垣間見える西洋至上主義批判も楽しい。
この書をとって、神秘ではないマヤ文明の世界に一歩足を踏み入れてみては如何。

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2012年05月02日

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