あらすじ
松山地方検察庁地方支部失火事件から端を発した、検事瀬川良一の探索は、巨悪の昏い過去に迫りつつあった。
失火事件で喪われた昭和25年の大島信用金庫殺人事件の記録を復元しようとする瀬川の執念で、重要な証人、当時被疑者とされた山口重太郎の協力で、一気に核心に迫りつつあった。
だが中学を出た娘の東京のデパートへの就職についてきた山口重太郎が、瀬川の使いだと騙った一味にさらわれてしまう。信用金庫の事件の担当検事で、交通事故で亡くなったばかりの大賀庸平の娘冴子も、ようやく瀬川に協力の姿勢を見せつつあった矢先だった。
冴子が示唆した実力者「S」とは、大島信金の職員から、後ろ暗い過去を重ね、群馬の代議士夫妻に取り入り、地盤を乗っ取りのし上がった、山岸正雄改め佐々木信明なのか。
松山地検支部の火災が放火でなく失火と結論づけられている以上、支部の責任検事だった瀬川は覆して覆して、検察当局や警察の手を借りることはできない。
庸平が親しかった四谷署の平塚刑事の協力で、大切な証人は失わずにすんだものの、徒手空拳で若い検事が実力派代議士佐々木信明に迫るには、まだまだ手駒が足りなかった……。
巨匠松本清張のミステリー代表作、読みやすい新装版に!
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Posted by ブクログ
主人公の若手検事、瀬川良一の孤軍奮闘の調査により、真相まであと一歩というところで殺人事件の時効が明日成立してしまうところまで迫ってきます。ネタバレになるので結果は書きませんが、真相に近い大物の代議士は一筋縄ではいかない巨悪の根源のようなヤツです。
政治家、暴力団(反社)、 建設会社、 警察、 検察‥これらの持ちつ持たれつの関係の中で、悪人ほど高笑いする構造はこの頃も、60年経つ今もあまり変わらないのではないでしょうか。それを感じた作品でした。清張氏はこれらの組織を(今回は検察を)実によく調べて消化していることに恐れ入ります。
ただ、もっと優れた作品を知っているだけに、今回は遅々として、臨場感が薄くなったように思います。
でも、瀬川検事の頑張りと潔さが、清々しい読後感を与えてくれました。
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巻末の塩田武士さんの解説の中で清張氏の印象的な言葉があるので書き留めます。
『少しずつ 知っていく。少しずつ真実の中に入ってゆく。 これをこのまま社会的なものをテーマとする小説 に適用すれば、普通の平面的な描写より読者に真実が迫るのではなかろうか』
『私は何によらず、動機というものはすべての人間の犯す罪において、一番大事な点ではないかと思っています。 従って、動機を追求するということは、性格を描くことであり、人間を描くことに通じるのではないか』
『私は世間の主婦の方にお願いしたい。 どんなに下級の人でも、たとえば、あなた方の台所を訪問して品物を配達でもしたような場合、それが商売上の当然の行為であっても、その人間に優しい ねぎらいの言葉の一つでもかけてやっていただきたいのである。その人間はその一言でどんなに元気づけられ、希望を与えられるかわからない』