あらすじ
芸歴40年の落語家が伝授する秘伝の暗記術!! 「毎日一行の日記」「リズムとメロディーで覚える」「長屋の間取りやキャラの趣味まで考える」。人はなぜ覚え、せっかく覚えたことをなぜ忘れてしまうのか。つまらないことをいつまでも覚えているくせに、肝心なことをコロリと忘れてしまうのはなぜなのか。落語家の日常生活、接している人、意識していることから、「暗記の真髄」について縦横無尽に語り尽くす。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
ハウツー本だと思ったら違っていました。タイトルを見たら、覚える方法と、覚えたら忘れないようにする方法を教えてくれる本だと思ったのです。著者はたくさんの噺を記憶している落語家ですし、きっと何か良い方法があるんだろうなぁと。でも、違いました。
本書に書いてあるのは、覚えたり忘れたりが付き物の落語家のエピソード集みたいなものです。
固い話ではなく、気楽に読めばいい類の本です。
記憶し、忘れないためのヒントくらいにはなるかもしれませんが、そこに期待しすぎてはいけません。
本書で面白かったのは、むしろ名人といわれる落語家たちのエピソードでした。落語好きの方ならすでにご存知の話でしょうが、初心者の私には面白いものでした。
ある高座で「戸を開けないで家に入っちゃった」と演ったとか、「寝ちゃった」ことがあるという古今亭志ん生。天衣無縫、落語の登場人物さながらの方のようでした。
志ん生の息子二人、馬生と志ん朝のうっかり間違いの話もありました。
文楽の最後の高座での絶句もありました。
いずれのエピソードも面白かったのですが、とても笑えるものではありません。振り返れば、大なり小なりそういう経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
あの名人でも多くの客の前でしくじったことがある。どんなに焦ったことだろう、なんて想像してしまったら身につまされて笑えないのです。笑ってもらうのが本望の落語家ですが、普通なら笑われてしまうような失敗をしたとき、笑われるどころかかえって悦ばれたり感心されてしまうところも名人の為せる業なのですね。
失敗した時の対処法、悪く言えば胡魔化し方には、それぞれの人柄が覗きます。面白いところで、ここなんかは忘れた時の対処法のヒントになる気がしました。
志ん生と文楽は実に好対照だったのですね。
融通無碍の志ん生は「草書の芸」精密機械のような文楽は「楷書の芸」そう言われていたそうです。うまいことを言うものですね。正反対の二人ですが、私はどちらも好きです。
立川談志一門の落語協会脱退騒動。
本書の著者・立川談四楼が落語協会の真打昇進試験に落ちたのに談志が激怒した結果だったんですね。寄席に出れなくなるなど、弟子たちは大変だったようです。それでも現在、立川一門には人気の落語家がたくさんいます。独演会のチケットが取れないという話を聞きます。人気は努力、実力なくして得られません。落語界の事情はよく知りませんが、協会脱退も良い方に転がってなによりです。いや失礼しました、転がったのではなく、立川一門の皆様が奮闘努力したからこそ成しえることができたのですね。