【感想・ネタバレ】ハーモニーのレビュー

あらすじ

〈ベストセラー『虐殺器官』の著者による“最後”のオリジナル作品〉これは、“人類”の最終局面に立ち会ったふたりの女性の物語――急逝した著者がユートピアの臨界点を活写した日本SF大賞受賞作。※本文中にHTMLタグのような表記がありますが、これは本書の仕様です。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

伊藤計劃の長編の素晴らしいところは、「人間を人間たらしめるのはなにか」という本質を突きながら、常に“社会的生物としての人間”という集団にフォーカスしている点だと思っています。

長編第一作『虐殺器官』では、「言葉」が虐殺のための臓器として描かれていました。デマ、欺瞞、対立──それらは言葉によってもたらされ、人間は集団の中でいかに安易に誘導されうるか、その危うさが描かれていたように感じます。

今作『ハーモニー』では、大災厄を経た後の社会が、WatchMe に代表される総監視社会・究極の合理社会として描かれ、その中に生きることについての思考実験のような要素を強く感じました。WatchMe による健康の完全な管理は、人間から「死のおそれ」をほぼ完全に取り除いてしまう。そしてそれはやがて、体だけでなく精神までもコントロールするようになり、人間は決められたタイミングで怒り、決められたタイミングで落ち着く、管理された行動しかとれなくなっていく。

人類の進化において「ウイルスや細菌が絶滅すると人類も絶滅する」と言われるように、害悪と免疫は表裏一体です。同じように、社会もまた、人間の苦悩や葛藤をもたらす社会的な「害」と、それを乗り越えていく精神の「免疫」との関係によって、人間が人間たらしく生きているのだと、この作品を読んで強く感じました。

ここでひとつ興味が湧き、自分なりに思考実験してみたくなります。
完全に苦悩という感情を失った人間、葛藤を完全に失った人間は、果たして「意識」すらも失うのだろうか、という問いです。

ラストで、ミァハはハーモニープログラムを発動させ、トァンはミァハの命を奪います。これはトァンがミァハの作り出した「完全に調和のとれた存在だけがいる世界」を受け入れながら、ミァハには「不完全な人間としての意識と個体を持ったままその生を終わらせる」というある種逆説的な行動でした。その後、トァンは意識を消失し、人類は「意識を持たない、管理された個体」として淡々と生きるようになって物語は終わります。

苦悩や葛藤を失うということは、結果として喜怒哀楽も失うことにつながる。
それは、人間としての「感性」を失うことと同義であり、感性を失うということは、「感じる」という感覚そのものがなくなることでもある。感じることがなくなれば、考えることがなくなる。考えない人間には、もはや“記憶する”必要もなくなる。

そうしたプロセスの先にある「究極の退化」を、この物語はあえて「進化」として描いている。そのねじれた構図に、とても強い興味深さを感じました。

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2025年12月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

文体が綺麗で、残酷。
「調和」と「意識」という哲学的なテーマで、こんなにも惹かれるとは思わなかった。「意識の消失は死なのか」という命題に、真っ向から勝負している。
病気が根絶され、「福祉」という公共的な優しさで満たされた息苦しい社会。
苦痛や自殺を悪と見なし、「セラピー」という論理的な優しさで抑えつける社会。
まるで予言書のようで恐ろしかった。
結末がハッピーエンドかバッドエンドか、どっちとも解釈できるのが魅力的だった。

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2025年09月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

体の中に入れられた「WatchMe」のおかげで病気がなくなった世界。
危険な事も先回りして勝手に回避され
個人情報も常に公開されている社会の中で、人々はお互い慈しみ支え合い暮らす。そんな少し未来の話。
3人の女子高生、トァンとミァハ、キアンの関係とか、ミァハの存在感に掴まれます。
トァンの退廃的でちょっと投げやりな感じ、そしてミァハに傾倒している感じも…ビジュアル的にも「真紅のコート」だし!
こんなふうにキャッキャと読んでも、雰囲気やストーリーに浸れて、うすら寒さも感じて、ホントに面白いのですが
何やらわかる人にはわかるものすごい仕掛けがあるらしいですね!
〈えー?〉
どなたかの解説を読んで
〈鳥肌〜〜〉
となりました。
〈あまりわかってはいない〉

伊藤計劃が病床でこれを書き上げたと思うと、さらに複雑な気持ちになります。

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2025年09月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ふとした時に読み返したくなる、大好きな作品。
私にとって、この小説の世界はユートピア風のディストピアである。そんな不穏な世界を読んでいるとなぜか心が落ち着く。
極端に行き過ぎた世界を目の当たりにすることで、むしろ自分が本当に望んでいるものと、そうでないものとがはっきり浮かび上がってくるからかもしれない。

「WatchMe」と「メディケア」によって基本的に事故と老衰以外で人が死ななくなった世界。国家や政府がなくなり、自分と他人の健康を最大限に尊重する〈生命至上主義〉が前提となった世界では、争いも起こらない。

若くして病気で亡くなった著者の伊藤計劃さんにとって、誰よりも健康な身体は切実に欲しいものだったはず。ところがこの物語は、その完璧な健康管理システムに馴染めず、あえて反発する主人公トァンの一人称で語られる。
人工的にコントロールされた絶対的に平和な世界がもたらす、目に見えないストレス。
「真綿で首を絞めるような、優しさに息詰まる世界」という表現が、まさにしっくりくる。

「俺は人生を愉しみたいんでね、システムの穴はできるだけ探し出すことにしている」
トァンの協力者が放ったこの台詞がとても好き。
どんな世の中になろうとも、自分自身で良し悪しを判断し、決定権を手放さないことこそ、人間らしく生きるということなのだろうと思う。

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2025年08月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

重いSF(想像の域を超えすぎているもの?スターウォーズみたいな、もうそれはその人にしか思いつくのも無理や!みたいなの)は割と苦手で、SFという先入観で読み入ったので自分に合う作品かかなり不安だったけどとても面白く読めたので嬉しかった。
ただ、本の前半35%ぐらいは割と世界観の説明づくしで物語としては詰まらなかったかな。後半はその世界の解像度がグンと上がってテンポよく読めたのでおすすめ。

内容は人類がほぼすべての病気を克服したらどうなっていくだろうという思考実験を物語にしました!みたいな感じ。

伊藤計劃は初めて読んだので、とにかく理屈と予測が丁寧でそれでかつ読みやすいように没頭しやすいように物語として登場人物でまとまりとフローを作り上げている作品だなと思った。

2010年の作品とは思えないぐらい、当時から社会の片鱗というか流れが変わっていないのか伊藤計劃の予測が卓越していたのか。両方だろうな。読んでいる最中から終わりまで現代のSNSとか社会の在り方を考えられる作品だったかなと思う。

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2025年08月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

『ハーモニー』、めちゃくちゃ面白かった!
世界観の設定がぶっ飛んでるのに整合性がとれててすごすぎる。意識とか、「わたし」であることの意味を改めて考えさせられて、かなり楽しかった。意識のないユートピアが最後には実現されていたけど、だからこそ私は意識の非合理性の美しさを再確認した。ハーモニーっていうタイトルの意味がわかったとき震えた。極論で理想論的なものではあるけど、そんな世界が実現したら本当にこんな感じなんだろうなぁとリアルに感じられて凄かった。ジャンルはSFではあるんだろうけど、それ以上の重いテーマを感じられてかなり良かった。
あとは、文章の表現やテンポ感が面白くて好きだった。コードで表現されてるのは言わずもがなだけど、要素を列挙したり、ある要素をいろんな言い方で表現し直していたり、音の表現が印象的だったり、この作家さんの特徴なのかもしれないけど新鮮でワクワクした!登場人物たちの名前が現代社会の日本人のものとは違うのも、SFっぽいというか、平行世界のような感じがして好きでした。

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2025年06月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 私はこの本を読んだ、が、物語を受け入れられなかった。どうしてだろうか。この物語の中で世界は見せかけの優しさと倫理に支配されている。絶対的な健康を強制され、全てが管理される社会。そんな社会の中で主人公が感じている閉塞感が私にとって他人事には思えないからだろう。誰も傷つけないように、自分も傷つかないようにと他人との深い関わりを拒み、全てを薄いオブラートで包み始めている。私達の社会が迎える結末も案外この本と同じなのかもしれない。それが良いことなのか悪いことなのか、まだ私には判断がつかないけれど。

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2024年08月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

久しぶりに紙の本でSFを読みました。そのため、読み疲れしました。ただ、この世界から病気というものがなくなったらどうなるのかということが書かれていて面白かったです。作者が36歳でなくなっており、賞を受賞しているが、直接受け取っていないことが解説に書かれていました。そういう背景もあり、この小説に繋がったのかも知れないと想像すると色々考えるものがありました。

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2025年08月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

虐殺器官とはまた違った趣。より哲学に振り切った内容になっていた。管理社会だったり、人間の意識の必要性など、十年以上前の作品とは思えない斬新さ。SF苦手って人でも読めると思う。

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2024年05月03日

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