あらすじ
たしかなことはなにもない――。十年ぶりに故郷の墓を訪れると、死んだ幼馴染の声が語りかけてきて……。不確かな暴力の記憶と土地の呪い。静かな戦慄と衝撃が走る、第61回文藝賞受賞作。
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Posted by ブクログ
文章の上手さが異常。
導入部分は平易に思えるが、徐々に難解になり、後半は何がなんだかわからなくなる。
にもかかわらず、文章の上手さから言葉は確実に読み手の脳に注ぎ込まれ、脳が強制駆動させられる感じ。
テーマはなにか? そもそもテーマはあるのか?
一度、読んだだけではわかりませんでした。
読み手により景色が変わる騙し絵的な作品なのかもしれない。
ですが、以下のあたりに作者の思いがあるように感じます。
“子供という殻が破られて、すべてがすっかり変質し、ほとんどべつのものになることで大人になるのではなくて、子供時代というのは、琥珀のなかに閉じこめられた昆虫のように、ずっとそのままのかたちでそこにあって、その外側をべつのものが包んでいるだけなんだ”
その、閉じ込められ忘れ去られた子供時代の記憶を徐々に引き出していくわけですが…。
カフカの小説のように真実がグラグラ揺らぐので、論理的に理解することが困難。真偽不明のパーツから無理矢理全体像を描くような読書体験をしたい人にオススメです。
Posted by ブクログ
頭の中に広がる景色は白っぽく柔らかい光に終始包まれているのに、不穏さが流れ続ける小説。
前触れなく「おれ」として語りかけてくるキイちゃんがこの作品のびっくりポイントだけど、個人的にいちばん怖かったのはバイト先の店主の無差別殺人。直前に退職金(?)渡してくるのも怖い…ネットニュースで知るのも怖い…そりゃ寝逃げするしかない。
キイちゃんと主人公の主張は段々と食い違っていくが、キイちゃん側を信じれば、主人公は幼い頃、暴力的で、それを抑えられなかった子供であったことが分かる。(いじめを受けたり家庭も良好ではなさそうだから、色んな理由はあると思う)
主人公自身のエピソードを読んでも、たぶんそっちが本当だったんじゃないかなと感じる。
そもそもキイちゃんとの会話は主人公の自己内省というか、脳内会議というか。蓋をしていた記憶を掘り返す作業なのかなあ。子供時代の後悔(キイちゃんを結果的に殺した?こと)、その矛盾を正当化したい気持ちと、事実を思い出そうとする大人の自分と、自己弁護でもなんでもなく、何が真実だったのかもう分からなくなっている現在と。カオス。
ラスト、それまで比較的穏やかな語り口(?)だった主人公が、「わたしはそれをしたい」と、衝動的だった子供時代のテンションに戻る。小説は終わるがそのあと本当に墓を掘り返しまくったんじゃないかと思わせる。不穏が爆発寸前のところでブツっと終わる。
まあでも文学はよく分からないや。しかし楽しみの範囲を広げていきたいので、興味を持った本はこれからも読んでいきたい!
Posted by ブクログ
わたしがどんな人か分からないのがおもろかった。キイちゃんも分からなければ私がやったことも分からない。過去の憧憬と現在が入り交じってふわふわする感じ、読みにくくは無かった
Posted by ブクログ
初めて読んだ文藝賞受賞作品。
静謐な空気感と精神の異常性がすごくアンバランスなんだけどそれが流れるような文章で入ってくるから、読んでてフラフラしてくる。
まるでめちゃくちゃゆっくり進むジェットコースターに乗ってるような感じというか、今まで体験したことのない不安感を覚えた。
普段よく読むミステリは、エンタメとして面白ければそれで良しだったけど、純文学系は読み終えても「つまりどういうこと??」ってなって感想の出力ができないのであまり読んでこなかったけどこの本は最初から最後まで面白くて読めた。
でもなぜこの本を面白いと感じるのかさっぱりわからないから、感想を言語化して整理せざるを得ない、そんな小説だった。