【感想・ネタバレ】限界の国立大学 法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか?のレビュー

あらすじ

修士以上でも「年収300万円~」
「研究時間が1秒もない」、教職員の83%が意欲低下傾向……。
現場のリアルな声でわかった衝撃的な実態とは――。

東大の授業料引き上げ、
「もう限界です」と訴える国立大学協会の異例の緊急声明。
今、国立大学で何が起きているのか?

法人化20年という節目に、
学長・教職員500人弱へ行ったアンケートに綴られていたのは、
「悲鳴」にも近い声だった。
日本の国際的な研究力低下が叫ばれる背景には、どのような要因があったのか?

長年にわたる取材で浮き彫りになった、
法人化とその後の政策がもたらしたあまりに大きな功罪とは――。

(目次)
第1章 国立はなぜ“残酷立”と揶揄されるのか
トイレが改修できない!/節電の波、図書館にも/運営費交付金をめぐる攻防/命名権を売却する大学が続出/なぜ東大が授業料値上げ?/苦境に立つ学生の願いは/他の国立大への影響はあるか/私大に溜まる「国私間格差」の不満

第2章 研究をする時間がない研究者たち
書類作成に追われる研究者たち/「トップ10%論文」はG7で最下位に/研究時間を圧迫する複数の要因/研究費獲得はクラウドファンディングで/私大に移る国立大研究者も/社会の理解をどう得るか

第3章 不安定化する雇用
修士以上でも「年収300万円~」衝撃の求人条件/問題化する非常勤の雇い止め/研究者の海外流出も/博士課程をあきらめる若者たち/女性研究者へのしかかる困難/コラム 法人化とは何だったのか? 元文科官僚の独白/「世界の常識とかけ離れた」日本の大学/教育、研究、社会貢献のバランスが改善/民間的発想、教職員に違和感/なぜ運営費交付金は減額されたのか

第4章 低下する教職員のモチベーション
教職員の83%が意欲低下傾向/批判根強い「傾斜配分枠」/論文数か、大金を引っ張ってこられるか/広がる専門分野間の格差/研究・教育の多様性が失われつつある/ひずみ大きい教育単科大学/「選択と集中」から「知の総和」へ/外部資金の獲得に大きな差/「究極の選択と集中」政策がスタート/能力の高い教員を増やすには

第5章 誰が「大学の自治」を奪うのか
なぜ憲法で「学問の自由」が規定されたのか/学術会議問題を想起させた法改正/研究費求め国の重点分野へシフトも/「文科省や中教審は、官邸の下請けになった」/学生を「人質」に大学改革強要/学長権限強化で「自治奪われた」/学外者による運営関与の功罪/「大学の自治」が尊重されるために

第6章 持続可能な国立大学とは
「法人化を推進したのに裏切られた」/多くの学長が20年で「悪い方向に進んだ」/20年間で「最も悪かった」政策/「法人化は、まだ道半ば」/厳しい財政事情のなか直面する課題/社会に研究内容を伝える試みを/「限界です」の先に希望はあるか

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Posted by ブクログ

ネタバレ

2024/12/7 メトロ書店御影クラッセ店にて購入。
2024/12/11〜12/13

2004年に国立大学が国立大学法人化され、20年が経った。その間日本経済は停滞し続け、日本の研究力の低下がますますひどくなってきている。その裏側を、朝日新聞の取材班が探る内容。文部省はある程度守ろうとしているが、財務省が予算をどんどん削ってしまい、絶望的な状況に。「選択と集中」がもたらす弊害が本当に大きいように思う。一体、財務省は日本の将来をどう考えているのだろうか。

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2024年12月14日

Posted by ブクログ

国立大が法人化から20年でどう変わったかを、主に学長や教職員へのアンケートから現状をとらえたレポート。やはり、というか残念ながら大学は悲惨になっているのがまざまざと示されてます。
ただ法人化と運営費交付金の削減があまり分けてとらえられてないのと、ではどうすべきか、というところまであまり掘り下げてはいないので、アンケート結果からの現状紹介にとどまってる感がもったいないかな。
大手新聞社さんなので、もっと主張を持って意見を述べて欲しいですね。その方が共感なり疑問なり持ちやすい気がします。

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2025年08月03日

Posted by ブクログ

結局、国立大学はどうあるべきかは見えてこない。これから少子化が進むとますます現在の国立大学数を維持するのは難しくなる。大学の先生になることを夢見ても不安定なら誰が夢見るだろう。疲れて貧しい教員に教えられる学生は何を学べるんだろう。教育や研究を自由に余裕を持ってやれて、大学行って学んでよかったと子供たちが思えるゆとりや遊び心を維持できるほど日本って豊かじゃないと再認識させられた。

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2025年06月15日

Posted by ブクログ

運営費交付金の削減による人件費のコストカット、研究時間の減少、任期付き教員の増加など悪影響が限界に達していることは事実であり、そのことは何よりこの20年の日本の研究力の低下として明らかになっている。
ただ本書でも学長と教職組合員で評価の分かれるのが大学の自治とガバナンス。朝日新聞としては大学の自治が危機に瀕していると訴えたいようだが、やりたい放題だった過去に戻るのが適当でもあるまい。
財政面とガバナンスの問題は切り分けて論じるのが公平ではないか。

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2025年05月25日

Posted by ブクログ

2004年に国立大学が法人化されて以降20年が経過、この間、国は「選択と集中」をスローガンに運営費交付金の減額と、競争資金の増額を進めてきた。
本書は、これが結果的に国立大学の研究力の低下や疲弊を招いたとして、学長や教職員に対する数々のアンケートも踏まえ、警鐘を鳴らす。
運営費交付金は教職員の人件費や研究費、光熱費などに充てられるもの。これが04年度から15年度の間に1470億円削減された。これにより、一部のトップ大学を除き、地方大学は疲弊、若手の研究者が期限付きの雇用となったり、施設や設備改修ができなくなったりしているという。
足りない分は、競争的資金や企業との共同研究、寄付といった外部資金の獲得で対応することになるが、ここにも問題点がある。 
まず、競争的資金を得るための書類準備や事務作業に多大な労力を要し本来の研究の時間が奪われること。
このため、私大に移る研究者もいるという。
次に、予算の獲得が期待できそうな、短期間で成果が出やすい研究が優先され、基礎研究や「多様性」への対処について弱体化を招いていること。
さらに、19年度に導入された共通指標による傾斜配分枠は人材や設備が確保できている大学や外部資金が獲得しやすい研究分野が強い大学に有利で地方大学や教育単科大学に不利に働くという批判が出ている。
運営費交付金はあくまでも大学運営の基盤的経費に充当するもの。それを一律に毎年1%削減すれば、いずれ歪みが出るのは明白。それを大学側の創意工夫や地域貢献で補えといっても、置かれた立場から華々しい成果を出せない大学もある。大学側のアピールも必要だろうが、申請書類に時間がさかれるというのは本末転倒な気がする。
さらに、運営費交付金の抑制が続けば、多くの国立大学は授業料の値上げに踏み切らざるを得ない。
また、多くの大学で少人数での対話型授業が増え、学生支援が手厚くなっているが、このことが研究環境の悪化につながるケースも見受けられるようだ。
教育や社会貢献、資金獲得に時間をとられ、研究時間が減り、運営費交付金の減少で教職員が減らされたり、雇用が不安定化するなど、これらが日本の研究力低下を招かないか心配になった。

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2025年01月24日

Posted by ブクログ

自分自身が国立大から私大に転じた1人なので興味深く読んだが、出版社および著者の特性からか、大学問題に被せて政府批判になっている。

また、国立大から私大への教員の転出について目次にありながらも、本文で触れているのはわずかである。地方国立はもともと首都圏や関西の私大へ教員が転出する傾向はあったが、近年ではそれが加速している。また最近ではいわゆる上位と呼ばれる国立大でも特に文系でその傾向が見られる(聞いた話では、一昨年、一橋大学から複数名の教員が一気に私大へ転出したという)。

さらに地方国立大では教員を公募しても応募者が集まらず流れる傾向が目立つ(自分の場合も後任人事が一度流れて、退職の翌々年度まで非常勤で授業を担当した。その後ようやく補充できたようだ)。この要因として、本書にも書かれている昨今の国立大の状況の厳しさと、年俸制にある。年俸制は従来の月給制より不利だというのが多くの教員の認識となっている。現職教員の多くが年俸制に切り替えないのもそのためだ。

そうした国立大の状況について、取材が足りないのではないか。私大へ転じた教員への取材も必要だったと思う。

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2025年01月05日

Posted by ブクログ

腰掛けで所属した程度だが、国立大学の現状はオワコンである。基幹予算の運営費交付金は漸減し、競争的予算獲得を文科省から尻を叩かれつつ目指すも、場当たり的かつ経営能力の欠如した執行体制で将来ビジョンすら覚束ない。

そんな国立大学の窮状は、2003年の独立法人化に端を発する。小泉改革における規制緩和と国立機関民営化の流れを受け、国際競争力と科学立国としての研究力を高めるために、自立的に運営することが国立大学にも求められた。

そういった美辞麗句とは裏腹に理系と文系の対立や、とくに医学部の力が地方国立大学では強く、実質的に医学部長から学長になるといった慣例が常態化している。研究する時間は減って会議と書類に追われる日常が教職員を疲弊させ、能力が高い者ほど海外や有名私大へと転出していってしまう。

一方で公共性を求められる機関として、女性教員を理事や副学長に登用したり、SDGs対応を迫られる場面も多々あった。しかし執行部の大半は1950−60年代生まれの高齢男性であり、価値観の根底に差別意識や時代錯誤な面を感じる点もあった。

まさに本音と建前の狭間で、組織としても人員としてももはや持続不可能に陥っている国立大学に明日はあるのだろうか。少なくとも47都道府県すべてに駅弁大学と揶揄される総合大学は維持できる時代ではない。

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2024年12月26日

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