あらすじ
探偵小説にとってトリックとは何か?
戦後、江戸川乱歩は海外作品を渉猟し、「なぜ小説を書かぬ?」と揶揄されながらも、独自のトリック研究に没頭した。
物理トリックは本当に出尽くしたのか。これからのミステリが進むべき道とは……。
多くの追随者を生んだ、全推理ファン必読の名篇「類別トリック集成」、およびその随筆版として自身が編んだ『探偵小説の「謎」』。ほか、乱歩のトリック論を精選し、初めて一冊に。
巻末に、トリック研究の只中に行われた横溝正史との対談「探偵小説を語る」(1949)を付す。
さらに、乱歩没後、松本清張指揮のもと研究を引き継いだ中島河太郎・山村正夫による「トリック分類表」(1969)を書籍初収録。
「類別トリック集成」という伝説を乗り越え、来たるべき探偵小説を模索するための、文庫オリジナル。
『江戸川乱歩座談』(中公文庫)に続く生誕130年記念刊行。
【目次】
1 類別トリック集成
2 探偵小説の「謎」
3 トリック各論・補遺:珍らしい毒殺の話/微視的探偵法/自動車と探偵小説
4 トリック総論:探偵小説のトリック/トリックを超越して/「謎」以上のもの/トリックの重要性/一人の芭蕉の問題/本陣殺人事件/探偵小説と子供心/創意の限度について/探偵小説の特殊性への執着/トリックについて
5 トリック分類表(中島河太郎・山村正夫)/探偵小説を語る(対談・横溝正史)
解説 新保博久
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
続幻影城は未読だが類別トリック集の存在は知っていた。本書の様にテーマを絞って貰えるのは非常にありがたい。
作品名は伏せてあるがネタバレ大全集ともいうべき内容で大御所だから許されそうな雰囲気だが昭和4年には既に収集を開始している(多分もっと前からしている)から本人にとっては関係ないと思われる。それぞれのトリックを簡潔明瞭に書いてあるがその一行を書くために相当な本を読んでいるはずでありこの人は評論家としても優れている気がする。本書にある横溝正史の『本陣殺人事件』批評も自分が書けない憂さ晴らしのようにも読めるが原作を読んだ後だとけっこう的を得てるし同氏の『鬼火』をキチンと傑作と認めているから優れた目を持っていることが分かる。
逆に言うとこれがあるから眼高手低と本人が自嘲する事態になったともいえる。江戸川乱歩は自身の著作について解説も書く人だけど、自分としてはトリックよりも(勿論トリックが良いのも多い)語り口調の様な非常に読み易い文体が真骨頂だと思うのでトリック集が呪縛になった感がある。
末尾には江戸川乱歩没後の別氏達による新たなトリック集も掲載されているのも良い。ただし仕事でやっているのか乱歩の様な熱を感じない。同じようにトリックという要素を並べているだけなのに不思議な事ではある。
コレも手元に置いておきたい本。
Posted by ブクログ
江戸川乱歩の生誕130年記念で刊行された、文庫オリジナルの江戸川乱歩の座談・対談・鼎談集。中公文庫から出るというのは意外だが、江戸川乱歩の小説や随筆は現在でも比較的容易に読むことができるが、座談や対談・鼎談などは単行本に収録されることは希で読むことが難しい。現在でも入手可能な光文社文庫版の江戸川乱歩全集には座談や対談・鼎談は収録されておらず、光文社文庫版全集の前に出た講談社の江戸川乱歩推理文庫の64巻は「書簡 対談 座談」ではあるが、収録されているのは本書にも収録されている長田幹産、徳川夢声との対談、佐藤春夫・城昌幸との鼎談の3編のみのうえ1989年刊なので新刊での入手は難しいだろう。それ以前となると言わずもがな・・・
という訳で、江戸川乱歩の座談、対談、鼎談が全て網羅されている訳ではないが、文庫オリジナルである程度まとまった形で書籍化されたのは大変ありがたいことだ。
収録されている中では、「『新青年』歴代編集長座談会」が面白い。博文館の雑誌「新青年」の初代編集長だった森下雨村から横溝正史、延原謙、水谷準といった歴代編集長経験者に、長年、表紙を描いてきた松野一夫らを招いての座談会で、戦後に行われたものだが皆、キャッキャウフフと当時を楽しげに回想しているのが良い。特に横溝正史と松野一夫のくだけた感じの語り口が良い。ちょっとイメージと違う感じの・・・
あと、幸田文との対談「幸田露伴と探偵小説」もすこぶる面白かった。まだ、露伴が探偵小説好きだったという話しは判るけど、幸田文も好きで父親の「新青年」を読んでいたとか、少女時代、父の露伴と来客の様子から来た道のりなどを推理して遊んでいたなんていうシャーロック・ホームズみたいなエピソードまで飛び出して、自分の中での幸田文の好感度が爆上がりですよ。今市子あたりが、少女自体の幸田文と父露伴が主人公の怪異ミステリを書いてくれないかしら。
Posted by ブクログ
ミステリ小説において、「トリック」は最も注目される、華やかなポイントだと思う。
日本の推理作家の元祖とも言える江戸川乱歩先生は、(主に外国の)ミステリ小説を読みながら、出てくるトリックをつぶさにメモしていったという。800件を超すトリックを蒐集したというのだから、驚きである。それを分類したのは尊敬しかない。
「やむなくネタバレ注意」のただし書きあり。それは仕方がないだろう。
昔の外国の推理小説のトリックは、ずいぶん大胆で、レトロなロマンを感じる。
トリックに関しての文章は、重複した記述も多い。あちこちに載せたエッセイを全部集めてくるとこういう事が起きがちだ。
「トリック」の分類だけでなく、「動機」にもさまざまなものがある。犯罪心理の分析も面白い。探偵小説や、犯罪捜査の歴史にも迫る。
後半は本格的な研究書の感が増してくるにつれ、読むのが難しい部分もあった。
中国の裁判の記録は、興味深い。実験をしてみて容疑者のウソをあばいた例は、現在でもドラマにできそう。
「指紋」が各自固有なものという研究発表がされると、それがすかさず推理小説に使われる、その後に実際の警察の捜査に取り入れられることになる。
乱歩先生は、トリックはすでに書き尽くされており、新しいトリックが案出される余地はない、と書かれていたけれど科学は日々進化し、使えなくなるトリックも出てくるけれど、新しい文明の利器が登場したり、社会情勢が変わったりすることで、そこに新たなトリックとしての利用法が考え出されているのでは?
新しいミステリ小説は続々と生み出されています。「動機」や「犯罪心理」も繊細に描くことで、娯楽要素ももちろん、社会的な問題も絡めて、傑作が生まれています。
それでも「トリック」にこだわる乱歩先生にかかると、現代のミステリ小説もいろいろとダメ出しされてしまうのかな?
「資料」の部分にある、中島河太郎・山村正夫の両氏による『トリック分類表』は、乱歩先生の記述の部分とは違ってエッセイ的要素もなく、小説の人間関係も分からず、ただ「手口」だけが延々と書かれていて、読むのはかなりつらい。
小説で読みたい!!!
・・・と思ったら巻末資料にネタ元の小説のリストが載っていました。
このようなトリック集を読んだすれっからしの読者がいたとして、今読んでいる推理小説の謎解きには、あのトリックが当てはまるのではないか?!
などという使い方をしても面白いのではないかと思う。
Posted by ブクログ
生誕130年記念刊行の文庫本。
戦前戦後のミステリー文学をかなり詳しく分析されている。
密室でのトリックなどの説明を読んでいると、かつてのドラマや映画を思い出す。
こんな風にして小説を組み立てているんだと、改めて尊敬する。
横溝正史との対談や、松本清張の話しも興味深かった。