あらすじ
野村良太さんが分水嶺縦走中に地形図の裏面に書き記した日記を柱として、これまでの登山を振り返るルポルタージュ。
北海道大学WV部での登山との出合い、山仲間との登山と単独行の目覚め、知床・日高の単独冬季縦走、そして北海道登山の総仕上げとしての北海道分水嶺縦走を達成するまでをつづる。
■内容
プロローグ 襟裳岬
第一部 山の世界で生きていく
一 野球に明け暮れた大阪時代/二 北海道大学ワンダーフォーゲル部/三 休学届/四 単独行/五 計画/六 用品サポートと、テレビ番組/七 一度目の分水嶺
第二部 北海道分水嶺縦断
一 宗谷岬を出発する/二 北見山地/三 北海道の屋根を行く/四 日高山脈へ
エピローグ 襟裳岬再び
あとがき
■著者について
野村 良太(のむら・りょうた)
1994年、大阪府豊中市生まれ。日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ、スキーガイドステージⅠ。
大阪府立北野高校を卒業後、北海道大学ワンダーフォーゲル部で登山を始める。2019年の「史上初ワンシーズン知床・日高全山縦走」で「北大えるむ賞」受賞。
2022年2~4月、積雪期単独北海道分水嶺縦断(宗谷岬~襟裳岬670km)を63日間で達成。同年の「日本山岳・スポーツクライミング協会山岳奨励賞」「第27回植村直己冒険賞」を受賞した。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
サブタイトルが、「積雪期単独北海道分水嶺縦断記」とある。
北海道分水嶺とは、この場合宗谷岬から襟裳岬までを結ぶ、中央分水嶺、まさに北海道を縦断する山旅。
2022年2月26日宗谷岬から出発して4月29日襟裳岬まで、実に距離にして670㎞、日数63日間の記録だ。
小・中・高は野球少年、そんな彼が北海道大学に進学をし、山に出会い、のめりこんでいく様子、先人の山行記録などを読み、今回の挑戦となっていく経緯を読むにつけ、山にとりつかれてしまったらそうなっていくだろうなと納得しつつ読み進める。
毎日、天候とにらめっこしつつ、量に制限のある同じ食料を食べ、深い雪と格闘しながら、少しづつ歩を進める。
日記に愚痴を書き連ねながら。
すごく辛そうで、心が折れてしまいそうな出来事も何回か起きるけど、何が彼を突き起こしていたのか・・・
実は、この山行は、まとめられているけど全行程NHKで放映されて、私は先に見ていた。
彼自身が自分でカメラを回していて、一日の終わりテントの中でその日のことを話していた。
そこでは、どんなに疲れていても、空腹でも、ストックが折れてしまっても、それは本当に過酷なことだと思うのに、彼の人柄なのか、性格なのか、飄々と人の好い笑顔を浮かべて語るものだから、悲壮感がまるでない。だから見ているこっちも安心してみていられる。
書籍でもそれは変わらず、読み進められるのだ。
そして、晴れてあたりの山々を目の前にしたときとか、彼は本当に幸せそうな顔をしていた。このためだけに苦労してここまで来たのだというように。
そしてレミオロメンの「3月9日」を気持ちよさそうに歌いながら歩く。
私はこの青年をしばらく注目していようと思った。
彼はこの業績で、第27回植村直己冒険賞を受賞。
史上2番目の若さで、国内での活動としては初の受賞。
Posted by ブクログ
積雪期単独北海道分水嶺縦断記。 670km
63日の縦走をやり切った青年 野村君。
実は 偶然一度お会いした事もあり
一文一文 噛み締めながら読みました。
困難な時 真摯に自分に向き合う勇気と発想の素晴らしさを教えられました。 山を登った経験がなくても
その勇大な自然になす術がなく 呆然とする姿や
晴れた時の山の神々しさが伝わる感動的な本でした
Posted by ブクログ
山行の凄さとか、筆致のみずみずしさとかではなく、生々しい日記に記された苦しさや葛藤、そして幸せの表現が生き生きしすぎていて、心に刺さる。
エピローグは幸福と感謝に満ちあふれていて、涙腺が緩むのを押さえられなかった。
Posted by ブクログ
NHKで放映された番組をみていたことがきっかけで本書を手に取った。
本書を読んでいて思い出すものがある。私が学生時代にサイクリングしていた時の旅日記だ。テント泊や野宿を重ね約2か月を旅していた頃の日記は、天気が良ければ鼻唄を口ずさみ、雨が降れば不幸を嘆き、風が強いと世界を呪い、また、自分の将来や旅の意味について書かれている。そう、旅の記録ではなく若い青年の心情描写だ。還暦を迎えた現在のサイクリング旅日記は気分の抑揚が感じられず、日誌のようでつまらない。
本書は北海道の宗谷岬から襟裳岬まで分水嶺を単独でたどった冒険の記録だが、まだ若い著者の想いが詰まった青春記でもある。将来を切り開こうとする青年の青春記が面白くないわけがない。ちいさな足元の出来事に幸せを感じ、悪い状況に気落ちする様は『ヨシタケシンスケ』さんの絵本を読んでいるようで、微笑ましくもある。
とんでもない冒険行の記録だが、著者自身に興味の対象が向くエッセイのような読後感の残る面白い本だった。