【感想・ネタバレ】平等についての小さな歴史のレビュー

あらすじ

3000ページの達成を250ページに凝縮。「格差に対処する野心的な計画を提示している。…政治の未来についての議論の出発点だ」マイケル・J・サンデル(ハーバード大学教授|『実力も運のうち』)「ピケティにとって、歴史の弧は長く、しかも平等に向かっている。…平等を成し遂げるには、つねに無数の制度を[再]創造しなくてはならない。本書はそれを助けるためにやってきた」エステル・デュフロ(2019年ノーベル経済学賞受賞者)「不平等から平等へと焦点を移したピケティが示唆しているのは、必要なのは鋭い批判だけではなく、回復のための治療法だということだ」ジェニファー・サライ(『ニューヨーク・タイムズ』)公正な未来のために、経済学からの小さな贈り物。「〈あなたの著書はとても興味深いです。でも、その研究について友人や家族と共有できるように、もう少し短くまとめて書いてもらえるとありがたいですが、どうでしょう?〉このささやかな本はある意味、読者の皆さんにお会いするたびに決まって言われたそんな要望に応えたものだ。私はこの20年間に不平等の歴史について3冊の著作を世に出したが、いずれもおよそ1000ページにも及ぶものになった。『格差と再分配』『21世紀の資本』『資本とイデオロギー』の3冊だ。…こうして積み重ねられた膨大な量の考証を前にすれば、どんなに好奇心旺盛な人でも意気消沈してしまうことだろう。そこで私はこれまでの研究を要約することにした。本書はその成果である。しかし本書は、こうした研究から得られる主な教訓を総論的に紹介しているだけではない。…自分の数々の研究を通して深めた確信に基づいて平等の歴史についての新たな展望を示している」(謝辞より)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

北側諸国(残念ながら日本含む)が植民地から搾り取った資本をさんざん貯め込み、戦争が終わったり独立した後も補償をすること無く、復興のスタート地点から回復し難い差をつけた。
それにとどまらず、今度は自由主義と市場主義の名の下に、貯め込んだ資本をさらに投資して利益を吸い上げ、援助と言う名の投資すらも自らの利益として還流するシステムを作り上げてきた。
ついにはr>gが決定的となり、自己フィードバックでますます資本が集まるような強固な国際体系が完成しつつある。
これが、自由と平等を謳う民主主義が国際協調の美名のもとに行ってきたこと。ピケティの母国で、自由の国と見られがちなフランスも、例外ではないどころかその最右翼(ピケティは偽善的とまで言っている)。

富の不平等も、その副産物としての成長の限界も、もうこれ以上放置出来ない中で、どうすれば良いか。
これ以上、市場主義を進めても南側諸国へのトリクルダウンは起きない事は十分以上に証明されており、政治的な不安定化、ポピュリズムというより孤立主義の台頭、自然環境の疲弊を考えれば、市場の前提となる社会が崩壊しかねない。

ピケティが提案するのは、一言で言うなら資本の共同管理、と言えるかと思われる。
最大90%以上にもなる所得税の累進性の強化、遺産をいったん公的機関にプールして皆に分配する「みんなの遺産」、グローバル企業への国際的な課税と得られた収益の貧困国への分配、これらで得られた収益を公教育、住居を始めとしたベーシックサービスに徹底的に配分すること。
一見、共産主義としか見えないラディカルな主張だが、あくまで提案されるのは、参加者の合意に基づく資本の管理であり、寡頭制による独占ではない、としている。故に、実効性を持たせるには国際的な枠組みを作ることが必須となる。常任理事国が拒否するであろう国連ではないのだろう(明記されていないが、そうならざるを得ない)。
昔、沈黙の艦隊で日本の共産党に似た政党のキャラクターが言っていた、世界社会主義、と言うのに近いかも。確か作中では、「国連を中心に管理すべきは軍隊では無く資本だ」と言われていた(選挙で負けてたけど)。

リバタリアンでなくとも、ここまでの資本集約は、普通の人なら疑問を感じるだろう。かつての社会主義国のように、イノベーションを削ぎ、パイオニアの意欲を奪い、経済を停滞させるのではないかと。基本的人権の剥奪ではないかと。

本書の特徴として、著者の過去の膨大な研究から抜粋されたデータを引いて論を進めているところがある(故に、ちゃんと読まないとならず、グラフや数値が苦手だと辛いかも)。過去、アメリカで累進所得税の税率が非常に高かった時代の経済成長率はむしろ高かった、としている。累進税による事後的な分配だけでなく、資本化が節税として資産を圧縮する結果、放出された資産が結果として分配される事前分配の効果もある、と説明している。
もしかすると著者の他の著作に詳細な説明があるのかもしれないが、これについては時代の違い、人口構成の違い、主たる産業と要求されるスキルの違い、といった変数があるので、税率のみで比較して良いかはなんとも言えないように思われる。だが、少なくとも十分な報酬が無ければイノベーターや経営者、労働者の意欲を削ぎ、経済が停滞する、との固定観念に疑問を持たせるデータではあるだろう。

むしろ問題となるのは、こういった資産監視を行う国際組織を造りうるのか、に尽きるだろう。ピケティ自身も難しい事は認めているが、現代の社会を構成する有力な国自身が自分たちの優位性を放棄し、過去の清算を否応なしに行わせる(ついでに人道色の化粧も剥ぎ取る)組織の設立など口にすら出すまい。途上国も一致団結するには国内事情の問題が有りすぎて厳しいし、途上国内でも某国のように途上国仲間のはずが援助の振りをして、資本支配を進めようとする国が出て来るだろう。

それでもなお、と言い得る政治家が存在するのかどうか。可能性があるとすれば、巻末に述べられているように、我々市民が経済(大学での経済学では無く、今の世界の成り立ちとしての経済)に関心を持ち、人類が滅亡しないために行動出来る政治家を表舞台に送り込み続け、かつ、常に彼らをチェックする意思を持ち続けるしかないのだろう。これ自体、多大な精神的エネルギーを要する事だ。
ピケティ自身、困難であることは認識しつつも、不可能なことではなく、平等に向かって少しずつでも、時には後戻りしながらも進んできた人類の歴史を振り返りながら進めていく事でそれは可能だ、としている。間に合うかどうかは分からないし、必要性について合意出来た時には手遅れなのかも知れないが。

本書の内容を空論と退けるかどうかは、最終的には個々人の信念によるのだろう。少なくとも、r>gの式だけ流行的に終わらせるよりは、考えて、出来る所から行動出来る市民であれればと思う。

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2025年06月07日

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