あらすじ
生活を書く、それがエスノグラフィの特徴です。そして、もっとも良質なエスノグラフィの成果は、苦しみとともに生きる人びとが直面している世界を表し出すところに宿るものです。もともと人類学で発展したこの手法は、シカゴ学派を拠点に、社会学の分野でも広がっていきました。本書では、5つのキーワードに沿って、そのおもしろさを解説していきます。予備知識はいりません。ぜひ、その魅力を体感してください。
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すごくわかりやすく、とても勇気づけられる入門書。最後まで読んで、それは、著者が本書で取り上げている日常生活批判という視座(p126)を徹底的に血肉化していることによるのだなあ、と感じ入った。北海道大学の遠友学舎(p271)、初めて知った。北大、札幌を訪れた十数年前、余った時間でキャンパスを歩きまわったことがあったけど、存在知らなかったなー。今度訪れることがあれば、ぜひ寄りたい。
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挿入される研究者たちのエスノグラフィによる記録は、ありふれた内容にも関わらず、小説の一編のように魅力的だ。
暮らし、書くという考える行為、
わからなくなっていくにも関わらず、その深みの奥にあるものをもっと知りたくて沼ってしまう。でもおそらく楽しいのは、その行動自体。調べた先にあるものじゃなくて、何も結果が出ていないの経過の中で体験したり、感じたりすること。そこに生きることの芯の部分があるのを本能的に感じている。だからやめられない。だから私はずっと暗い方から明るい方を見たいのかもしれない。
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エスノグラフィという言葉を初めて知った
不可量のもの、生活を書く、時間に参与する、対比的に読む、事例の記述を通して特定の主題について説明と結実させる
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基本的にはエスグラフィーを書くことになる学徒を読者対象に想定はしているものの、そうでない門外漢の自分にも興味深く読み進めることができました。
スタンスをとって、バイアスがあることを併記しつつその視点を描くという書き方はエスノグラフィーに限らず普遍的なスキルとして認知されても良い気がしました。
個人的には、
水の中で彼はとても速かった
という部分になんだかハッとさせられて暫く心奪われました。主題の部分ではないのですが。
あと挿絵がとても良いです。
Posted by ブクログ
既知の知識が多くはあったが、改めてエスノグラフィーの基礎がわかりやすく解説されていてよかった。
「質的社会調査の方法」では、文献の活用の仕方の部分の記述が物足りなかったように思うので、具体的にどのように文献と往復するのかが示されていたのは参考になった。
やはり、私が人生で一番したいことは、中国でエスノグラフィを書くこと、中国でどっぷり参与観察をして「政府こわい」「貧富の差がすごい」「ハイテク発展もすごい」じゃないもっとリアリティのある中国人民の生活を活写することなのだなと、改めて思った。
読みながら考えてたけど、中国社会を描いた優れたエスノグラフィはあんまりないんじゃないか。
「チョンキンマンション〜」は香港だしタンザニア商人だし、田原さんの中国農村の話は面白いけどがっつり生活を描いたエスノグラフィというのとは少し異なる気がするし(直感でそう思うけどどう違うのかな?生活じゃなく選挙、政治参加というところを切り取ってるからかな?)、「最後の猿回し」は大変大変面白いのだけど、私的には猿回しの一行という中国社会の極端に外側にいる人たちより、もう少しだけ「ふつう」の人の内実を捉えてみたいという気がする。
改めてそれに気づき、言語化できた点においても本書の功は大きい。今私の人生はそれとは全く関係ないことをしているけど、長い人生でいつかやり遂げたく、文献をこつこつ読み続けようと思う。
「優れたエスノグラフィを書くには、優れたエスノグラフィを読むこと」というのはシンプルだけどいいアドバイスだ。
Posted by ブクログ
石岡丈昇「エスノグラフィ入門」(ちくま新書)
著者はフィリピンのスラム街のボクシングジムで10年以上関与観察をしている。エスノグラフィ(ethnography:民族誌)はもともと文化人類学の用語だが、社会学者がシカゴのスラム社会を描くのに使って以来、社会学領域でも使われるようになったとのこと。統計を駆使する定量的な社会分析に対して、対象とする社会に深く入り込んで長期に観察・調査することで人々の生活のありようを描き出すことが目標。
著者は、自らもボクシングジムに入門し、練習を共にすることで、はじめてボクサーたちの行動の意味が理解できたという。
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本書の冒頭に近い部分に、「エスノグラフィとは何か」についてが書かれている。
【引用】
エスノグラフィは、経験科学の中でもフィールド科学に収まるものであり、なかでも①不可量のものに注目し記述するアプローチである。不可量のものの記述とは、具体的には②生活を書くことによって進められる。そして生活を書くために調査者は、フィールドで流れている③時間に参与することが必要になる。こうしておこなわれたフィールド調査は、関連文献を④対比的に読むことで着眼点が定まっていく。そうしてできあがった⑤事例の記述を通して、特定の主題(「貧困」「身体」など)についての洗練させた説明へと結実させる。
【引用終わり】
これだけを読んでも、なかなか分かりにくいと思うが、本書は、上記の中身を順番に説明していく構成で成立していて、最後まで読むと、上記で説明されている内容が、それなりに理解できるような仕掛けとなっている。
私は修士1年生で、修了までに修士論文を書く必要がある。修士論文を書くための、自分なりのテーマアイデアにまつわる勉強も大事なのであるが、それをどうやって書くのか(広い概念として。テーマをどうやって決めるか、どうやって関連事項を調べていくのか、それを論文の形にどうやって落としていくのか、等)についても、色々な本を読んでいる。その方法論の一つとして、この「エスノグラフィ」というものが紹介されていて興味を持ち、読んでみたもの。
エスノグラフィというものが、上記のように、順を追って説明されており分かりやすいし、読み物としても面白い。また、エスノグラフィの代表的な作品も本書中に紹介されており、それらを含め、もう少しエスノグラフィというものについて、追いかけてみようと思わせてくれた本であった。