【感想・ネタバレ】なぜ鏡は左右だけ反転させるのかー空間と時間から考える哲学のレビュー

あらすじ

★朝日新聞書評掲載!!(2024年8月3日、評者:野矢茂樹さん(立正大学教授・哲学))

【内容】
時間と空間の身近な謎に分析哲学のアプローチから迫る!
鏡像反転、タイムトラベル映画に潜む哲学的な問いかけ数学や物理学、回転座標や宿命論、デカルト、カント、ガードナー、ブロック、ダメット、テイラー……など
あらゆる手段を駆使して論理的な答えを追求する。
〈当たり前〉を見つめ直し、世界が包有するさまざまな可能性を見出す試み!
2003年に哲学書房から刊行された『なぜ私たちは過去へ行けないのか――ほんとうの哲学入門』の改訂版。カント生誕300年を記念し、カントの空間論についてより踏み込んだ内容を加筆しました。


【目次】
まえがき
第一章 なぜ鏡は左右だけ反転させるのか
1 鏡像反転の謎
2 鏡は上下も左右も反転させない
3 ノボル君の悩み
4 鏡は上下も左右も反転させる
5 ふたたびノボル君の悩み
6 鏡の中の世界は二次元? 三次元?
7 デカルト座標と回転座標
8 鏡はやっぱり左右だけ反転させる
9 回転軸の謎
エピローグ1 カントの空間論
エピローグ2 カントの空間論をもう少し

第二章 なぜ私たちは過去へ行けないのか
1 ターミネーター2
2 限りなくおいしいワイン
3 「ターミネーター2」の謎
4 過去は引き起こせる……ロンドンの宿命論と踊る酋長
5 未来は決定している…オズモの物語
6 過去と未来の相違
7 可能性としての未来と必然性としての過去
8 私たちが過去へ行けない理由……その1
9 私たちが過去へ行けない理由…その2
エピローグ1 運命は自分で創る
エピローグ2 ダメットの逆向き因果論をもう少し
あとがき

【著者】
加地大介 (カチダイスケ)

1960年、愛知県に生まれる。1983年、東京大学教養学部(科学史科学哲学分科)卒業。1989年、東京大学人文科学研究科博士課程(哲学専攻)単位取得退学。2007-08年、ニューヨーク大学、ダラム大学(いずれも哲学科)客員研究員。専門は形而上学および論理哲学。
主な著書に『もの ―現代的実体主義の存在論―』(春秋社、2018年)、『論理学の驚き ―哲学的論理学入門―』(教育評論社、2020年)、『穴と境界:存在論的探究 [増補版]』(春秋社、2023年)などがある。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

本書のタイトルになっている命題について考えた時、人間の両目が左右に並んで付いているからかな? と私も著者と同じことをまず直感的に思ったが、もちろんそんな単純な話で終わるわけはなく、しっかりと納得がいくように理屈で説明してくれる。
ただ個人的には、紹介されているネッド・ブロックの主張から演繹できる理屈によって充分腑に落ち、そのあとに続くデカルト座標を用いた解説等よりも、大多数の人にとってはイメージすることが容易なのではないかな…と感じた。
回転軸云々についても、後半に展開される説明は実に難解。
"パリティ対称性の破れ"については初めて知り、勉強になった。

タイムトラヴェルに関して論じる第二章では、特にまとめにかかるあたりから、種々の理論を広範に紹介するという形を取りつつも、詰まるところ著者が明確に主張したいところへと多少の強引さを以て引っ張っていく、力業のような印象を持った。
自然科学の観点に立って論ずるのではなく、あくまで哲学者である著者が語る論理であるから当然と言えるのかもしれないが、いわゆる思考実験に終始しており、恣意的な解釈で煙に巻かれたような? とはあまりにネガティヴな評価に過ぎるか…?

いずれにせよ、哲学と数学や物理学は不可分だということを、通読して改めて感じた次第。
論理学にまつわる議論でさえ、物理法則と密接に絡み合っているではないか。
また、旧版は編集者の意向により第一章と第二章が逆だったそうだが、新版を出すにあたり著者本来の企図に従う順に戻したとのこと、こちらが明らかに正解だろう。
第一章に敬意を表し、星4つ。

旧版あとがきを読み、形而上学というものも一度きちんと学んでみたい、と思った。

「私たちの『背骨』ことが空間認識における回転軸となっていると考えられるでしょう。~中略~
 私たちは決して鏡像を『デカルト座標的に』あるいは『物理学的に』『宇宙論的に』見ていません。『回転座標的に』あるいは『生物学的に』『環境論的に』見ているのです。」
「いぜれにせよ、やはり結局は、左右にまつわる問題に回答するためには、『空間とはそもそも何か』という空間の『本質』についての考察が求められることとなるでしょう。」

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2024年08月01日

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