【感想・ネタバレ】中東危機がわかれば世界がわかるのレビュー

あらすじ

危機の背後で蠢く巨額マネー

暗躍する中国・ロシア

日本人には見えていない世界のリアル
ハマスの奇襲攻撃に端を発したイスラエルのガザ紛争は完全に泥沼化。イスラエルはイランとも一触即発の状況にある。第5次中東戦争の危機とも言われる中、アラブ諸国はそのオイルマネーを使って、世界への投資に注力。特に、中東のリーダーであるサウジアラビアの台頭はめざましい。また、大統領選を控えたアメリカが紛争解決に及び腰になる一方、虎視眈々とオイルマネー経済に食い込み始めているのが中国・ロシアだ。中東は、まさに混迷をきわめる世界の縮図である。中東の今を通して、世界の新潮流を理解するための一冊。

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Posted by ブクログ

アラビア語通訳官としてオイルマネー経済に翻弄される中東をつぶさに見てきた著者ならではの考察。
外交に長けていたとされる安倍元総理。ロシアやアメリカに注視しているかのように捉えていたが、この本で知った中東外交のしたたかさには恐れ入った。

中東の安定は世界の安定。

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2025年01月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

著者は26年間外交官を務められ、その館にはイスラエル、ガザ、ワシントンD.C.といった主要な在外公館でご勤務された方だそうです。アラビア語に堪能なため、高官の通訳も務められていたとのこと。2020年の退職後はビジネスコンサルタントとして、発展の目まぐるしい中東のビジネス界に関わられています。

中東問題、いろいろありますが、どの章もとても具体的な情報が満載で、興味深かったです。

1. イスラエルから日本が学ぶべきこと

ストーリーテリング。

砂漠の地で淡水化技術、水再生技術を発展させて今日のビジネスチャンスにもつながる。

点滴灌漑技術を1965年に発明。作物育成に必要な量だけ水を届け、蒸発を抑制し水利用効率を上げる。水の成分の調整でき、塩害対策も。食料自給率90%。

出生率2.9 OECD内1位。女性が45歳まで、2人目の子を得るまでの期間、体外受精、不妊治療は無料。出産前有休3か月、後2か月半。

1. サウジアラビア

「ビジョン2030」。とても大胆な取り組みがどんどん進んでいるみたいです。その中核事業のひとつが、未来都市「NEOM」。経済特区であり、4つの地域からなるスマートシティ。ベルギー国土に匹敵する大きさ。

1. 日本のエネルギーの中東依存

そもそも私たちが中東について理解する重要性について、

2日本の中東への原油依存度が95%(2022年)。うち、サウジアラビア39%、UAE38%。

オイルショック以降、石油への依存は半減はしたものの、一次エネルギー自給率は13%にとどまります(2021年)。

- 1973年時、化石燃料(石炭石油)依存度は94%:石油75%、石炭17%
- 2022年度、化石燃料(石炭石油)依存度は83.5%(石油36%、石炭26%)。

東日本大震災時に11%あった原子力発電のエネルギーは、その後2.6%に。

私たちの生活がどの地域、どの国に依存しているかを知っておくのは本当に大事ですね。

1. イランとイスラエル

__事実上、イランとイスラエルは、相手を滅ぼすことを国家としての基本方針としている 

イランとイスラエルは、代理勢力を通して戦いづつけてきた事実が示されています。

- レバノンのヒズボラ(レバノンのシーア派武装政治組織)を通して。この組織はとにかくイスラエルを目の敵にしているようで、政治組織としても近年野党で躍進しているそうです。
- イエメンのフーシ派を通して。ちなみに、この勢力は、アラブの春で退陣した大統領の後に、米国支持のハーディ副大統領が暫定大統領選で当選した後、連邦制移行を拒否し、反政府デモなどを起こし、現在もアメリカにテロ組織認定されているそうです。
- ガザのハマスを通して。1987年、PLOによるインティファーダ(ガザ地区での抵抗運動)時に誕生しています。こちらについてはさらに後の章で詳しく書かれています。

2024年4月、イランがイスラエルを直接攻撃をし、それは初の直接対決となった、とはどういう意味だったのか、少しわかりました。

まず4月1日、ダマスカスのイラン大使館にイスラエル軍によるとされる空爆 、

その後4月13日、報復としてイランが本土からイスラエルに向けた攻撃を開始 。

イスラエルは99%を撃墜したと発表。

これらの出来事について、著者は、双方の戦闘能力と意志が示された、と言います。

- イラン:精度の高い長距離攻撃
- イスラエル:ミサイル迎撃能力

日本としては、イランがホルムズ海峡を封鎖すれば、日本への原油ルートが遮断され、中東に大きく依存している電力が危ぶまれる。それ以上に、当該国の人々にとって何を意味するのかを理解することなしに、解決について議論はできないなーと。

1. ハマスとイスラエル

4回の中東戦争について説明されています。

どういう対立だったのか、その結果、どうなったのか。

1. アメリカ

来年からトランプ政権に戻りますが、

近年のアメリカの政権の中東政策の特徴が論じられ、バイデン政権については低め評価です。

オバマ政権はイスラエル入植に反対の姿勢を打ちだすと、米・イスラエル関係は史上最悪に。2016年のUNSCの入植非難決議案では棄権し、採択される。

トランプ政権は、ユダヤ人国家の認定を支持、2018年には米国大使館をエルサレムに移転。

バイデン政権は、無関心。2021年8月にアフガニスタン撤退。2022年2月のウクライナ侵攻、その他気候変動重視策で、エネルギー安全保障が危ぶまれ、脱・中東路線はとん挫。就任1年半後の2022年7月に初めて中東訪問。

前の章ではイランとの核合意の流れにも触れられています。

1. 日本

日本のパレスチナ支援は年間1億ドル以上であり、

平和と繁栄の回廊、ジェリコ農産加工団地事業などが紹介されています。

2017‐19年の間に6回中東訪問した河野外相と

湾岸協力理事会(GCC)の全6か国を訪問し、41年ぶり革命後初にイランを訪問した安倍首相を評価する一方、

就任後2023年7月になってやっと中東訪問(サウジ、カタール、UAE)した岸田首相については低評価でした。

また、ハマスの攻撃をめぐっては、欧米に追従するような日本の意思表示の在り方も批判気味です。

一国のリーダーによって各国各地域への政策は大きく揺さぶられるのだなーと、国際秩序の不安定さを実感しつつ、それは柔軟性として一つの可能性でもなるのでしょうか。

知識を皆で補い合ってよりよい対応を実現できたら本当にいいなーと思いました。

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2024年12月30日

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