あらすじ
2002年群像新人文学賞評論部門優秀作となった「神々の闘争――折口信夫論」を軸に、書き継ぎ推敲を重ねた論考が2004年にまとめられ、文芸評論家・安藤礼二の最初の単行本『神々の闘争 折口信夫論』となった。
その後の2008年に雑誌掲載された「『死者の書』という場(トポス)」という短い評論に作家・大江健三郎が目を留め、高く評価する。その出会いが2009年安藤礼二の『光の曼陀羅 日本文学論』(2016年に文芸文庫版を刊行)による大江健三郎賞の受賞につながっていく――
折口信夫の文学と思想の源泉を探る問いかけは、やがて折口の生きた時代を共有した井筒俊彦、大川周明、北一輝、石原莞爾、西田幾多郎といった思想家たちの言葉を参照することにつながっていく。それは世界におけるアジア、アジアにおける日本を考えることにつながる。
第二次世界大戦以前の君主制日本、それは「天皇」の存在を抜きにして何かを考えることは不可能な時空間だが、そのような状況下での権力のあり様の本質を、昭和天皇の即位を契機に定義したのが折口信夫だった。
著者は論を進めるうち、やがて折口信夫の背後にある平田篤胤の神学の存在に至る。
折口信夫という孤高の文学者・思想家をその特殊性で理解するのではなく、つねに普遍性を備え同時代に生きて闘う存在ととらえる本書は単行本の刊行から20年を経て、新たに戦争状態が世界を覆っているかのように見える現在こそ読まれるべきなのかもしれない。
知られざる折口信夫の姿――衝撃のデビュー作
本書は、あたかも「本格探偵小説」を読むような、スリリングな読書時間を味わわせてくれる。
あちこちにちりばめられた、細かな謎の集積とその解明。もちろん真犯人は最初からわかって
いるはずなのだが、本書を読み終えたとき、その「真犯人」の姿は、まったく違って見えてくる。
――斎藤英喜「解説」より
目次:
第一章 神々の闘争――ホカヒビト論
第二章 未来に開かれた言葉
第三章 大東亜共栄圏におけるイスラーム型天皇制
第四章 戴冠する預言者――ミコトモチ論
第五章 内在と超越の一神教
あとがき
初出一覧
補論 『死者の書』という場(トポス)
著者から読者へ
解説 斎藤英喜
年譜 著者自筆
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
特に最初の出だしが難しいが20P超えたあたりからだいぶ読みやすくなる、途中哲学がやたら出てくるところも難しい。自分の理解した内容を記述。
ホカヒビト=乞食者。台湾蕃族慣習調査報告書、沖縄での体験から。蕃族においては結婚、戦争、狩猟はみな同じ霊的コミュニケーション。古代日本と台湾蕃族、沖縄。南の方からきた海の遊牧民であり他界への信仰を布教する伝道者でもある海部。組織的にわたってきた集団が天孫族。
ミコトモチ。言霊=霊的力を持った言葉。流動言語、喩。語根、言葉の意味の根源的なもの。
象徴言語:包括的→仮絶対→曖昧→無意義→暗示的→象徴的
エルンスト・マッハの感覚一元論、折口と親密な関係だった藤無染から教わったぽい。大学時代、同性愛。
フッサールの現象学、折口の言語情調論。斜聴、完全な断絶はない、過去と未来につながる。
言語を生成させる神と霊魂を生成させる神を結びつける、産霊。呪言の神。興台産霊神(コトドムスビノカミ)、中臣氏の祖先の天児屋根命はこの神の子。
思兼神、たくさんの心を兼ねて思う心を完全に表現する祝詞を案出する神。
ミコトモチ、神の言葉を預かる者。最高位のミコトモチが天皇。
大東亜共栄圏におけるイスラーム型天皇制。
超国家主義、日本型ファシズム。
北一輝は天皇と労働者が直結する社会主義的な戦闘国家を目指す。
大川周明は回教諸国連盟を中心とするもの。
石原莞爾は満州中心の東亜聯盟を昭和維新の核とする、天皇は盟主だが日本国は盟主ではない。
折口の天皇論、神道の宗教化、天皇制の一神教化。ミコトを預かるミコトモチ。
「国文学の発生」ミコトモチの初出、ホカヒビト論の完成。言霊と産霊概念の提示。
「ほうとする話」ミコトモチと「まつり」(祭=政)の本義論。
「神道に現れた民族論理」最もまとまったミコトモチ論、言霊と産霊概念の結合。
「大嘗祭の本義」霊魂論としての天皇論の完成、威霊としての天皇霊。
「古代人の思想の基礎」ミコトモチによる政治と宗教の統一、産霊概念の完成。
一神教的な神道の構築、平田篤胤への共感。