【感想・ネタバレ】ほんとうのことは誰にも言いたくないのレビュー

あらすじ

わかりあえない。それでも

『くいもの処 明楽』から『違国日記』まで、ヤマシタトモコ全編語り下ろしインタビュー本

全コミックスを作者自身が振り返るのみならず、幼少期や学生時代、同人活動、デビュー前夜など漫画家へと至る歩みを述懐

変わらないもの/変わっていくもの、社会に向ける眼差し、物語の核にある思い……20時間以上にわたる取材から浮かび上がるヤマシタトモコの現在――

BL誌、青年誌、女性誌とさまざまな媒体で多種多様な人たちの「名前のつけられない」関係を描いてきた漫画家ヤマシタトモコ。全編語り下ろしとなる本書は、幼い頃から「フィクション」に惹かれてきた彼女が、自身の全コミックスについて語るのみならず、幼少期や学生時代、同人活動時代、雑誌への投稿を行っていた時期など、漫画家へと至る歩みも振り返る内容となっています。

20時間以上におよぶ取材では、代表作である『違国日記』や『さんかく窓の外側は夜』はもちろん、商業デビュー作の『くいもの処 明楽』、『このマンガがすごい!2011』オンナ編で1位、2位をそれぞれ獲得した『HER』『ドントクライ、ガール♥』、年に5冊も刊行していたBLコミックスなどを現在の視点から述懐する中で、社会に向ける眼差しや物語の核にある思いなど、作り手としての姿勢が立ち上がってきます。また、影響を受けた作家や作品、作品の発想源となった音楽、そして『違国日記』が完結したあとのことも述べられています。

インタビュアーはBLに造詣が深く、これまでにヤマシタへの取材や登壇イベントの司会を多数行っているライターの山本文子が担当。デビュー単行本刊行時から取材を行ってきた山本の質問によって、ヤマシタの軌跡が生き生きと浮かび上がってきます。
装画はヤマシタの描き下ろし。デザインは『違国日記』でもタッグを組んでいる川名潤が担当しています。

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Posted by ブクログ

『作品によっては私自身にとって特別な意味をちょっと持っていたりするものもありますが、そのことは作品そのものには意味をもたらさないですし長編だろうと短い読切だろうと、自分が描きたいことはだいたい描けたから全部受け取ってくれくらいの気持ちで世に送り出しています』―『プロローグ 岸に残る者と夜明けに向かう人』

ヤマシタトモコが語る本をもう一冊。こちらは「違国日記」後に語ったロングインタビューをまとめたもの。やっぱりこの人の価値観のようなものが気に入っていると再確認。人は判り合えると簡単に総括しない、とは言え諦めている訳ではない。しかしそれを語る時には肯定と否定が逆になり、人とは解り合えるかも知れない、けれどやっぱりそれは幻想に過ぎない、となる。完全な諦観ではないものの、其処は彼となく冷めた気持ちがどこかにある。けれど分かってもらえないことに対する沸々とした怒りの感情がその諦めの底には存在する。それは次の引用の中の言葉使いにも表れる(などと解ったようなことを言うとこの作家に怒られそうではあるけれど)。

『槙生の詩が登場する最終回でさえ、私は世の中の在り様を怒りながら描いていたんですね。もちろん、その怒りをそのまま出しはしませんので、私が感じている怒りが伝わらない読者の方もいます。あるいは、私の怒りを感じとったうえで腫れ物に触るような扱いをする方も。ただ、それはそれで捉え方ですから』―『プロローグ 岸に残る者と夜明けに向かう人』

長い長いインタビューの中で、しばしば家族という言葉の周りで思考が踊っている。インタビューの中で繰り返し言及され、次の引用の中でも語られているように、家族というまとまりを無条件に武装解除の前提としたくない気持ちがどうやらこの作家にはあるらしい。そんなことを考えたりすると、直ぐに「違国日記」の中の父親像と作家の父親に対する思いを重ねて見たくなったり、作家自身の母親との関係性を作品の中の母娘の関係性を通して見てみようとしてしまうが、そうではない、と作家は言下に否定する。もちろん、作家自身の体験や価値観やトラウマのようなものが作品の底辺にあったとしても、と断った上で。それはそうだろうと思いつつ、幾つかの作品に共通する家族観のようなものがあるとも思うし、それが作品を生み出す原動力の一つにはなっているのではないかとも思ったり。

『家族だからという言葉と、そのあとに続く言葉を何も知らず直結はできない。そんなことをしたら、家族という繋がりの中でひどい目に遭っている人のことを無視することになってしまう。その怒りはずっとあったけれど、この話を描いて余計に気持ちが強くなった気がします。鈍くならないよう自戒を込めて描いたのかもしれないです』―『第4章 転んでも立ち上がる少女たち』

だからと言って作家が家族に対して否定的な感情を持っているという訳ではもちろんないだろうけれど。

『それと、インタビューをしてくださる媒体や相手によっては、聞きたいことが明確にありすぎるときがあって、私に聞きたいというより言わせたい内容がすでにあるような気配がすると、それをどうにか避けようとして不毛な攻防が始まるので(笑)。そうすることで、自分がそのときに考えていたことが強化されてしまうのが嫌なんですよね』―『エピローグ 変わらないテーマとぼーっとする才能』

自身の思考に対する未確定な感覚を大事にする、というところが、恐らく自分がこの作家に惹かれる最大の要因なのかと思う。自分の考えを過信しない、ということ。それは考えている内容の精度の問題ではなくて、どうやってその考えを抱くに至ったかをきちんと見極めたいとの思いにも繋がる志向。もちろん、全てが自意識の下で決定されている訳ではないし、一々前提条件を吟味しながら決定している訳でもないと理解した上で、それでもどうしてそんなことを自分が無意識の内に考えたのか、思ったのか。ある価値観を未確定のままにしておいて考えることはできない、というようなことを自問自答する。そしてその思考の先にあるであろう本のタイトル「ほんとうのことは誰にも言いたくない」。そんな作家の態度に魅せられる。

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2025年11月20日

Posted by ブクログ

偉国日記にハマって、本作も気になり購入。
他の作品も読みたくなった。
こーゆーふうに考えて描いてたんだーとか、作者の意図とは違うふうに読んでたなーとか色々感じれて面白かった。

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2025年02月21日

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