あらすじ
二十世紀前半,物理学が大きな発展を遂げた時代に活躍した物理学者,リーゼ・マイトナー.なかでも「核分裂の発見」という業績は後世に多大な影響を及ぼしたが,第二次世界大戦後,発見の栄誉は共同研究者に奪われてしまう.ユダヤ人差別,女性差別に遭いながらも研究を続けた,「人間性を失わなかった物理学者」の生涯をたどる.※この電子書籍は「固定レイアウト型」で作成されており,タブレットなど大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています.また,文字だけを拡大すること,文字列のハイライト,検索,辞書の参照,引用などの機能は使用できません.
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Posted by ブクログ
核分裂の概念を提唱し、発見に貢献したある科学者のお話(発見したのか、それとも概念の提唱にとどまるのかの明言は控えます)。
マイトナーが物理学に真摯な態度を見せ、ひたすらに研究していきます。大学に入って苦労したり、当時のナチ党から迫害を受け逃げたり、核分裂が軍事利用されそれに困ったり……「マイトナー」という一人の人間の人生ドラマとして、読み応えのある面白い作品でした。
彼女の、なんとしても勉強・研究する環境を勝ち取っていく姿勢は感心し、また参考になりました。自分が身につける姿はここかな、と思います。
Posted by ブクログ
男女差別や人種差別に冒されながらも、ただ真理を追い求めようと信念を持って研究に勤しみ、最期まで自身の人生を全うした一人の女性のお話です。
所々に挿絵があったり、最後のページには本編に登場する人物の説明など記載があり、マイトナーについて解像度が上がりました。そして隠蔽してはならない事実のような気がします。
Posted by ブクログ
ドイツ帝国時代のユダヤ人としての苦労や、科学界をはじめ女性の地位の低さなどの困難の中、驚くべき発見をした事に感動した。彼女の他の伝記も読みたいと思った。
Posted by ブクログ
「核分裂」という現象を発見し、誰よりも早く『ネイチャー』誌に論文を掲載しながら、「助手」扱いされて、ノーベル賞も受けられなかった物理学者、リーゼ・マイトナーの伝記。
そもそも女性が大学に入ることもできない時代に生まれ、どのステージでも「女性に門戸がひらかれた第1期生」のような存在。伝記全体から伝わってくる控えめでシャイな人柄にもかかわらず、その揺るぎない実力で時代にあらがいながら自分の居場所を作っていったことには、ほんとうに敬服する。
それでもユダヤ人の彼女にとって、第二次大戦へと向かう時代の嵐は過酷すぎた。当時の資料や書簡をていねいにたどっていて、マイトナーがぎりぎりまでベルリンにとどまりながら、最後、命からがらオランダへさらにはスウェーデンのストックホルムへと逃れるあたりは、胸の鼓動が伝わってくるよう。でも、現代でも同じような思いをしている難民の人たちはあちこちにたくさんいるんだよなあ。
核分裂発見の経緯(マイトナー自身は、このころ、実験器具も何もなかったので、ベルリン時代の同僚である化学者のハーンがおこなった実験を手紙のやりとりで「解釈」した)や、西側諸国が、ドイツの核開発を恐れるあまりマンハッタン計画に突っこんでいくあたり、そして終戦後、ドイツの物理学者たちが保身のため自己正当化をはかるあたり、どれも資料の裏付けがあって読みごたえがあると同時に、現代もあちこちで起きていることばかりだなと思わされて、うううとなる。
Posted by ブクログ
リーゼ・マイトナーはウィーン出身の物理学者。
まだ女性が学校で勉強する事、大学に入って研究を続ける事などがほとんど無かった時代、大学が女性の入学を認めていない、いくら研究に協力をしていても女性を論文の協力者として名前を載せる事が無かった時代に、物理学者として研究者の道を歩み、第二次大戦中は原子爆弾研究の基礎となる核分裂という現象を発見する原動力となった女性。
原爆開発のノンフィクションの白眉である「原子爆弾の誕生」(リチャード・ローズ)の中でも彼女がドイツの化学者オットー・ハーンに協力して大きな力となっていた事には多くの頁がさかれている。
ボーアなどの当時の物理学界のリーダーたる人たちがハーンの行った化学実験の結果の解釈に困惑している時に、リーゼがそれを「核分裂」だと見抜くところは原爆開発の大きな第一歩として描かれている。
彼女の共同研究者であり、ナチスの協力者でもあったオットー・ハーンが、論文の核となる部分はリーゼが考えついた事であるにも関わらず、ユダヤ人であり女性であることから共同研究者に彼女の名前を書かなかったために、ハーンだけがノーベル賞を受賞し、彼自身はリーゼの業績に言及しなかった。
「原子爆弾の誕生」の中でもこのあたりの理不尽さには触れているが、本書はリーゼが苦労して研究者となる経緯、その後も女性である事、ユダヤ人である事などの理由によって日があたらない道、危険な道を歩かざるを得なかった事が語られている。
科学者も決して合理的な人たちではなく、「こうあって欲しい」という自分の思いに引きずられる存在であることをリーゼ自身が身をもって実感して、諦観すらしている事が語られる。
リーゼ・マイトナーはもっと注目を浴びてよい研究者だと思うので、どちらかというと青少年向けと思う内容だが、こういう本が出版され、日本語訳もされていることは嬉しい。