【感想・ネタバレ】アファーマティブ・アクション 平等への切り札か、逆差別かのレビュー

あらすじ

「積極的差別是正措置」と訳されるアファーマティブ・アクション。入試や雇用・昇進に際して人種やジェンダーに配慮する取り組みだ。1960年代、公民権運動後のアメリカで構造的な人種差別解消のため導入されたが、「逆差別」「優遇措置」との批判が高まる。21世紀には多様性の推進策として復権するも、連邦最高裁は2023年に違憲判決を下した――。その役割は終わったのか。アメリカの試行錯誤の歴史をたどり考える。

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Posted by ブクログ

差別を直視しない日本ではまだ始まってすらいないが、差別是正という根本となる目的を忘れず多様な手段を取っていければいいと思う。

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2024年10月31日

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ネタバレ

すべての人間は平等の下、合衆国は奴隷制は維持される中、1865年に奴隷制が廃止、しかしながら黒人と白人が公共施設、学校などで隔離するジム•クロウ制度の為に人種不平等が続いた。ローズヴェルト大統領のニューディール政策下白人への優遇は続き、ジョンソン政権下1964年公民権法制定とともにジム•クロウ制度は解体。ただし人種を理由とした隔離、雇用とサービス提供の拒否の禁止するだけでは今までの不平等は放置されるだけで何も変わらない。これらの不利な立場の中で能力を発揮できない人を支援しようと言う新たな人種正義の実現に向けてアファーマティブ•アクションが生まれる。1970年代に入りマイノリティを優遇する政策が逆にマジョリティから見ると逆差別にあたり、1971年ワシントン大学法科大学院不合格になったユダヤ系の白人学生デフニスの裁判、1974年のカリフォルニア大学医学部不合格のアランバッキ、1995年ミシガン大学学部入試不合格になった白人女性な裁判によるAA批判が続く。第4章以降はなぜ廃止になったのかまで一冊読むとアファーマティブアクションを一通り学ぶことができる。とてもわかりやすく説明されておりオススメの一冊です。

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2024年10月29日

Posted by ブクログ

アメリカにおける差別撤廃とアファーマティブ・アクション(以下、AA)の苦闘の歴史を紹介・解説した本。
面白くて、めちゃくちゃ勉強になります。
いろいろと紹介したい内容も多いのですが、ひとまず二点のみ、私的感想。
①AAは、アメリカでは決定的な事例で違憲とされた判例もありますが、かと言って過去の遺物として全否定できるものでは当然なく、わかりやすく低コストの施策として、今後も条件付きで一定の有効性は認められると思う。
②AAは多様な観点から評価されるべきもので、例えば男女差別といった一面だけをとり上げて実行するのは難しい…というか、基本的にすべきではない。差別や格差もまた多様なので、AA実行の前提として、そのような細やかな分析は欠かせない。そして、分析結果に基づき複合的に実行するにせよ、やはり割を食う人がいることを忘れてはならない。

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2024年10月05日

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アファーマティブアクションが、アメリカにおいていかに必要とされ、どのような変遷を経て、2023年違憲判決が出て廃止に追い込まれたか、その歴史とその意義について書かれた本である。

違憲判決が出たのは、白人側からの「逆差別」だという反発があったのは想像できたが、最後の引き金になったのはアジア系アメリカ人、特に中国系エリート移民が信じるメリトクラシーにA.Aが反するということで起こされた裁判であったのは、ちょっとショック。

しかし、AAを取り入れて成功している国もある。カナダである。そこに1つの希望がある。

さらにアファーマティブアクションの考え方に変わり、「インターセクショナルリティ」(特定の属性を特権化せず、複数の要素を考慮する考え方)を提示してくれていることも、不平等がまかり通る世界に闇雲に進んでいくわけでは無いのだなという、ほんの少しの希望も感じる。

とはいえ、日本は、その議論のスタートラインにさえ立っていないと著者は言う。日本は制度的基盤も虚弱であり、「法の下の平等」の理念を実質的な制度に落とし込むための包括的な差別禁止法も成立していない。なので、構造的不平等のパターンを可視化することも難しい。なのに、逆差別だという議論ばかりが先行するのは奇妙だと。

たしかに…。

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2025年08月22日

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差別是正が、別の不平等を生むというジレンマ

本書は、アメリカで長年にわたり議論されてきた「積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション=AA)」について、その誕生から現在に至るまでの経緯を丁寧にたどった一冊である。

1960年代の公民権運動を契機として導入されたAAは、単なる差別の禁止にとどまらず、過去に不利な立場に置かれてきた黒人やその他のマイノリティを積極的に支援するための施策として始まった。その後、大学入試などの領域でも、多様な人々が参画できるようにする制度として定着していく。

近年では、企業や大学において「多様性・公平・包摂(DEI)」という概念が重視されるようになり、AAはその一環として制度化されてきた。

しかし2023年、アメリカ合衆国最高裁判所は、ハーバード大学およびノースカロライナ大学の入学者選抜における人種考慮が憲法違反であるとの判断を下した。特にアジア系の学生に対する入学機会の制限という問題提起が、大きな論点となった。

本書は、こうした複雑な歴史的経緯を通じて、AAが果たしてきた役割と、現在直面する課題とを浮き彫りにしている。エスニシティごとの入学者比率は概ね人口比率に近づきつつあるものの、人種に関する本質的な格差が解消されたとは言い難く、Black Lives Matter運動に代表される社会的なうねりとともに、その意義は再び問われている。

差別是正の制度が、別の不平等を生みうるというジレンマ――本書は、その葛藤と現代的課題を、簡潔かつ多面的に読み解いてくれる一冊である。

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2025年07月08日

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アファーマティブ・アクションと逆差別,結局自分たちの利益を守りたい人の都合のいい理屈に踊らされているような気がする.アメリカでのAAの歴史,変遷が分かり,勉強になった.

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2024年11月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

①黒人の技能職の雇用で目標達成を求める。
②入学枠に特別枠を設ける。
③選抜に際して高校の成績、SATの成績、などと合わせて人種を考慮する。
2023年に③のような穏健なアファーマティブ・アクションも違憲とされた。
クォーター制やバリテ制度は世界で今でも議論されている。日本では理系大学に女子枠を設けた。

奴隷制廃止以降、「分離すれども平等」という原則のもとジム・クロウ制度で隔離政策が続いた。1964年の公民権法以降も、表面的な差別が解消されても平等にはならないことが現実化した。負の連鎖でマイノリティが不利になる。
制度的な意図はなくても、その蓄積として統計データに表れる。
ジョンソン大統領が積極的差別是正措置を求めた。

1924年移民の排斥のため国別割当制度を創設。アイビーリーグなどのユダヤ人クォーター制でユダヤ人入学者を制限した。1950年代まで続いた。ニューディール期の社会福祉事業は実質的には白人労働者を対象にしていた。

1971年のグリックス判決で、能力本位の選抜試験であっても、以前の差別的な雇用実践が生んだ現状を凍結するような制度は違憲、とされた。
雇用や昇進に数値目標を設けることは反発も大きかった。
黒人の多くは歴史的黒人大学(HBCU)に進学した。SATは、受験勉強の準備が必要であり黒人には不利。中立的ではあるが、教育環境の格差を助長する試験。

デフニス裁判は逆差別を争ったワシントン大学法科大学院の裁判。
バッキ判決は、差別是正措置としてのAAは否定したが、多様な学生集団を獲得するためにやむにやまれぬ目標として正当化できる、というもの。成績だけでなくスポーツ、出身などと同じように人種を判断材料にすることは可能。
ウェーバー判決は、民間企業の自発的なAAを合憲とした。

1970年代末ごろから、黒人のリーダーからもアファーマティブ・アクションに反対する声が聞こえ始めた。黒人の貧困問題として有効なのか、という疑問。アンダークラスの登場。既存の労働者のさらに下の階層。AAの恩恵を受けられない人たち。AAは優遇なしには対等な競争ができない、という差別的偏見。偽りの代償。
一般市民から住民運動が起こった。カリフォルニア州のAAは実質的に廃止となった。

人口動態では、アングロサクソン系白人が半数以下になることが予想されている。多様正の爆発。
1996年テキサス大学法科大学院では、AAが違憲とされた。人種のみを理由に加点することはできず、数ある要素のひとつとして考慮できる。多様性とは人種に制限されることはない広い概念である。しかしその後住民運動で廃止された。

オバマとその家族は、白人保守派にとって逆差別と優遇の象徴。オバマの成功がフェアだとはいえない。どうして金のかかる大学院に行けたのか。
アジア系の大学入学希望者に対する差別の声が上がっている。なーバード大学とノースカロライナ大学のAAを違憲とし、人種を考慮するアファーマティブ・アクションの集権を迎えた。トランプ大統領が任命した保守派の判事が多数であったことが影響した。

ミシェルオバマ、コンドリーザライス国務長官のような社会のリーダー層の変化には意味があった。
白人エリート層には、市立名門校からアイビーリーグに進学し初めて多様性にふれる学生もいる。
私立の営利大学にはマイノリティが多く、奨学金の多額になっている。
人種によるAAの廃止は、スポーツや課外活動などを考慮する入試には手が付けられず、人種不平等の是正からは遠ざかっている。

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2024年09月30日

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積極的差別是正措置と訳されるらしい。
入試や就職・昇進などの場面で人種やジェンダーに配慮する取り組みを指す。
日本でも大学入試の理工系で女子枠が用意されている。AO入試(今は総合型選抜って言うけど)も差別改善の側面を有している。
でアメリカでは2023年にアファーマティブ・アクションは平等を謳う憲法に反するという最高裁の決定が出てしまった。逆差別の方にはかりが振れたわけだ。
アメリカを追随してきた日本は今後、どうするのかね? アメリカほど差別是正のための仕組みを作ってこなかった日本は何もしないってのがオチだな。

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2024年09月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本書は、不平等という社会課題に対し、アファーマティブアクションという手法がどのように位置づけられ、活用されてきたかを歴史的に検討している。冒頭では、アメリカにおけるアファーマティブアクションの成立から2023年のSFFA判決に至るまでの経緯が詳しく解説されており、制度が果たしてきた役割と変遷を理解できる内容となっている。最終章では、日本の現状についてもアメリカと対比しながら論じられており、日本における制度的遅れが指摘されていた。 読後の考察として、アファーマティブアクションは時代背景や社会状況に応じてその定義や意味づけが変化していくものであると感じた。そのため適切に運用するには、まず不平等を禁止する法律の整備と、客観的に格差を可視化できる統計データの構築が不可欠である。その上で政府が制度設計を行い、市民に十分な説明責任を果たしつつ実施する必要がある。また導入後には、社会に与えた影響を政府主導で検証し、うまく機能しなかった点は改善していくというプロセスが重要である。ただ日本においては、不平等を是正するための統計的基盤と法制度を先行的に整備した上で、初めてアファーマティブアクションの是非を検討できる段階に立てる状況なので今後に期待する。 最後になるが本書を通じて、アファーマティブアクションに限らず、社会制度全般において「唯一の正解」は存在せず、データに基づく検証と透明性の高い説明責任、さらに改善の継続が不可欠であることを学ぶことができた。

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2025年09月05日

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