あらすじ
本書は、「短歌&俳句は生物学の視点があるともっと面白く鑑賞できる!」をテーマに、人気の生物学者・稲垣栄洋氏が名歌&名句で描かれる生き物を解説していくものです。
例えば、松尾芭蕉の有名な一句【古池や蛙飛びこむ水の音】では、「このカエルとは何ガエルなのか」をテーマとしています。俳句においてカエルの定番と言えば、“カジカガエル”なのですが、ここは裏庭にいる“ツチガエル”と著者は考えます。その理由を生物学の視点で解き明かしていくのです。
このように名歌や名句には、生き物や自然について私たちが気付いていない新しい見方や楽しみ方が隠されており、本書は、短歌&俳句が好きな方はもちろん、生き物に興味がある方にも満足してもらえる一冊です。
<本書で取り上げる俳句&短歌の一部>
①古池や蛙飛びこむ水の音(松尾芭蕉)
→古池に飛び込んだのは、何ガエル?
②やれ打つな蝿が手をすり足をする(小林一茶)
→ハエが手足をすり合わせるには、理由がある
③ のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり(斎藤茂吉)
→ツバメはどこから亡くなった母を見ていたのか
④ むざんやな甲の下のきりぎりす(松尾芭蕉)
→カブトの中では、本当にキリギリスが鳴いているのか?
⑤ 白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ(若山牧水)
→ハクチョウはなぜ白いのだろうか
…全部で57の句・首を掲載。
<著者プロフィール>
稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)
1968年、静岡県生まれ。岡山大学大学院修了。農学博士。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、静岡大学農学部教授。中学校、高校の国語の教科書に著書が掲載されている他、昨今は入試の再頻出作家として知られている。
40歳を過ぎてから、中学校時代の国語の先生の勧めで短歌を始める。コスモス短歌会会員。
主著に『身近な雑草の愉快な生きかた』『弱者の戦略』『雑草はなぜそこに生えているのか』『生き物が大人になるまで』『生き物が老いるということ』『植物に死はあるのか』『はずれ者が進化をつくる』『生き物の死にざま』などがある。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
短歌や俳句、日本独特の感性でできているポエム。
聞いたことのある名句や名歌なのに、
その背景に関しては知らない事ばかり。
まして、植物や昆虫などの生き物からの目線は、
植物学の著者だからこそ気づくのだろう。
春の花はなぜ黄色が多いのか、とか、
蜂がどうやって蜜を集めるのかとか、
白鳥はなぜ白いのかとか、
色々な謎解きがたくさん詰まっていて、
読んでいて全然飽きなかった。
夏目漱石、小林一茶、松尾芭蕉などに、
それはおかしいだろう、と物申せるのは著者だけ?
子供から大人まで、俳句や短歌に興味がない人もある人も、絶対に楽しめる本。
コラムの作者不詳、実は・・・
Posted by ブクログ
ふと目に着いた『古池に飛びこんだのはなにガエル?』という書名。
こういう、誰も気づかないようなところに疑問を感ずることができる人を、尊敬しています。
さて、件のカエルはなにガエルだったのかというと、ツチガエルであるというのが定説のようです。
普段は陸にいるが、危険を察知すると水に飛びこむ習性をもったツチガエルとは、俗にイボガエルと呼ばれているカエルのこと。
芭蕉の時代、歌に詠むカエルといえば鳴き声のきれいなカジカガエルが一般的だったのだそうですが、そういう定番の美しさではなく、見たまま聞こえたままを詠んだ中に詫び錆を感じさせたのが芭蕉のすごさ、と言われれば確かにそう。
同じく「山路来て何やらゆかしすみれ草」という句も、すみれは野に咲く花であるという固定概念を無視して、実際に旅の途中に山道で観たのであろうすみれを詠んだもの。
これは、革命的なことだったのだそうです。
そういう、俳句や短歌の味わいを動植物を通じて解説してくれると同時に、例えばモンシロチョウはアブラナ科の、モンキチョウはマメ科の植物の蜜しか吸わない、という生物の不思議についても解説してあり、脳内「へぇ~ボタン」を連打しまくり。
しかし、作品の優劣については述べられていないのがちょっと不満。
例えば夏目漱石の「初蝶や菜の花なくて淋しかろ」という句は、私にとっては小学生にも作れそうな駄作のように思えるのですが、文学的にどうなんでしょう?
漱石の句はいくつも掲載されていますが、ということは漱石は割と観察眼が鋭いということなのかもしれませんが、対していい句だとは思えないのです。
芥川龍之介の「青蛙おのれもペンキぬりたてか」にしても、しかり。
芭蕉の句のように、ここが素晴らしいポイントだよ、と教えてほしかったです。
河東碧梧桐の「赤い椿白い椿と落ちにけり」は、私は「赤い椿が落ちて、白い椿も落ちた」と順に落ちたと解釈していましたが、もうひとつ、「赤い椿も白い椿も落ちた」という解釈があって、どちらとも言えないのが現状だそうです。
そして、椿は花が丸ごとポトリと落ちるから武士は縁起が悪いと嫌っていた、というのは後から言われた説で、実際にはそこが潔いと、武家屋敷にも植えられていたんですって。
私の好きな与謝蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」の月は、満月。
なるほど、脳内に浮かぶイメージの解像度がぐんと上がりました。
やっぱり何でも知っておくのは大切だよね。満足。
Posted by ブクログ
俳句も短歌もまだまだ楽しみ方を模索していて、そんな時に出会った本。
詠まれている植物や虫が一体何なのか?感じるのではなく推理していくというのが面白い。
しかもそういうことに全く詳しくない素人でも分かる簡単な言葉でサラッと説明してあるからとても読みやすい。