あらすじ
《バベルの塔》《ネーデルラントの諺》など,時代を超え多くの人々を魅了する作品を遺したピーテル・ブリューゲル.風景表現の頂点とも評される連作「季節画」はどのように醸成されたのか.先例となる彩飾写本や版画などに描かれた人々の季節の営みや月暦図像を半世紀以上にわたり渉猟してきた研究者が,その連環を解き明かす.※この電子書籍は「固定レイアウト型」で作成されており,タブレットなど大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています.また,文字だけを拡大すること,文字列のハイライト,検索,辞書の参照,引用などの機能は使用できません.
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Posted by ブクログ
「芸術新潮」2013年3月号は豪華な特集号だった。ブリューゲルの作品40数点がカラーで一挙掲載、そこに森洋子先生の解説がついていた。ページを繰るたびに、いまも新たな発見がある。
その文中には、ブリューゲルの季節画をテーマにした著書を「準備中」とあった。そして待つこと10年、ようやく本書が出た。600ページ、圧巻。
ブリューゲルの季節画の連作はもとは6点あったようだが、現在残るのは≪暗い日≫、≪干草の収穫≫、≪穀物の収穫≫、≪牛群の帰り≫、≪雪中の狩人≫の5点。制作年は1565年。それまでブリューゲルは、都市部の民衆の生活を描いていたが、ブリュッセルに居を構えてからは、周辺の農村に出かけて、その風景をテーマにした。本書では、このブリューゲルの季節画を中核に据えて、その時代の月暦画、農事や年中行事との関係が論じられている。詳細ながら、過不足ない筆致。円熟した研究とはこういうものを指すのだろう。
森先生は、ブリューゲルの季節画がご自身の故郷、新潟・高田の風景に重なるという。≪穀物の収穫≫は稲穂の垂れた越後のたんぼ、≪雪中の狩人≫は冬の妙高山や頚城山脈。そのように見ると、確かに、昔どこかで見た風景、懐かしい風景のように感じられる。