【感想・ネタバレ】宇宙安全保障 宇宙がもたらす恩恵と宇宙の軍事脅威増大の相克のレビュー

あらすじ

宇宙空間の安全と宇宙の支配=「制宙権」のゆくえは?
宇宙空間の安全を脅かすのがスペースデブリの増大と宇宙の軍事化の拡大だ。デブリは人工衛星に衝突することで、重篤な損傷をもたらし、宇宙開発に於ける深刻な問題となっている。一方、中露は米国とその同盟国の弱点が衛星通信、精密攻撃能力、情報・監視・偵察資産を利用する「宇宙能力」への依存であると深く認識し、弱点を攻撃する能力を確実に向上させている。対する民主主義国家群の反撃のシナリオとは? 国家安全保障を理解するためには欠かせない書。
本書では、ロシア・ウクライナ戦争において、民間の宇宙関連企業の活躍が目覚ましいことなども紹介する。とくにイーロン・マスクが設立したスペースXのスターリンクが戦争に絶大なる影響を与えていることを考察した。米宇宙軍は2024年4月10日、「商業宇宙戦略(Commercial Space Strategy)」を発表したが、いまや宇宙安全保障における軍と民間企業の密接不可分な連携は欠かせない。

序 章 宇宙の安全保障に関する基本的事項
第一章 イーロン・マスクとロシア・ウクライナ戦争
第二章 米国の宇宙安全保障
第三章 宇宙強国を目指す中国
第四章 ロシアの宇宙安全保障
第五章 我が国の宇宙開発

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Posted by ブクログ

アメリカ、中国、ロシア、日本、それぞれの国での特に宇宙安全保障に関する政策の方向性や、組織構造について説明されている。
各国の宇宙政策の方向性や主要組織の要点は以下。

# アメリカ
- 宇宙政策は一貫して、「宇宙におけるリーダーシップの維持」
- 主要組織は、民生分野は米航空宇宙局(NASA)、軍事・安全保障分野は米宇宙軍(USSF)
- NASAの任務は「すべての人々の利益のために宇宙の秘密を探究すること」
- 宇宙軍の任務は「宇宙軍は、統合軍と連合軍の戦いを強化するグローバルな宇宙作戦を実施するためにガーディアンを組織化、訓練、装備の責任を負い、同時に国家目標を達成するための軍事的選択肢を意識決定者に提供する」

# 中国
- 中国共産党の権力独占を維持することが最優先の目標
- 一部の民生分野や科学研究を除き、ほとんどが軍の統制化にある
- 宇宙を制するものは地球を制するという信念があり、宇宙における覇権の阻止を狙っている
- 主要組織は、中国人民解放軍。特に、戦略支援部隊の役割が大きい。戦略支援部隊は、宇宙、サイバー、電磁波領域の情報を統合する責任を持つ。
- 戦略支援部隊は2024年4月に解体され、情報支援部隊、サイバー空間部隊、軍事宇宙部隊が編成

# ロシア
- 自国の宇宙開発を国際舞台においてリーダシップを発揮する貴重な手段であると考えている
- 軍事ドクトリンによると「宇宙は戦闘領域であり、宇宙における覇権を獲得することが将来の紛争に勝利するための決定的な要因になる」
- 衛星や有人宇宙船を破壊できる地上発射の対衛星ミサイルを開発している
- 軍事と民間の宇宙組織はほぼ分離しており、民生分野をロスコスモス、軍事分野をロシア航空宇宙軍(VKS)が主導

# 日本
- 憲法第九条に起因して「宇宙の平和利用」に重きを置いている
- 国際的には「平和目的の宇宙利用とは、防衛目的の軍事利用を含む」であるため宇宙戦の面では遅れている
- 2008年の宇宙基本法により、宇宙開発利用は宇宙条約等の国際約束に従い日本国憲法の平和主義の理念に則り行われるものとする、となった。宇宙条約は防衛目的の軍事利用を禁止していないため、これにより宇宙により防衛目的の兵器を配備できるようになった
- 宇宙安全保障の目標は「我が国が、宇宙空間を通じて国の平和と繁栄、国民の安全と安心を増進すること。同盟国・同志国等とともに、宇宙空間の安定的利用と宇宙空間への自由なアクセスを維持すること」

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2025年01月03日

Posted by ブクログ

宇宙安全保障の最近の趨勢と各国の取り組みがよくまとまっている。
デブリの増加やSSA、スターリンク、宇宙の軍事利用などの基本について1章でまとめ、2章はウクライナ戦争と宇宙の軍事利用で、これも気になっていたことがちゃんとまとまっている。やはりマスクのような個人が戦争の流れを左右することが特異なのではという思いは筆者も有していた。
3章以降はアメリカ、中国、ロシア、日本の宇宙安全保障政策についてで、各国軍の宇宙関連部隊の編制だったり白書など公刊された文書をうまく簡潔にまとめている。

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2024年10月17日

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