【感想・ネタバレ】国家の総力(新潮新書)のレビュー

あらすじ

国家の総力をあげて、中国を食い止めよ! 台湾有事が現実的な懸念となった近年、軍事面での議論はなされるようになってきた。しかし、国家間の戦いがグレーゾーンから始まる現在、総合的に有事を想定しておかなければ実際の戦闘には対応出来ない。エネルギーと食料安保、シーレーン防衛、特定公共施設と通信、そして経済・金融への影響などの観点から、有事における日本の問題を考える。

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Posted by ブクログ

エネルギー安全保障
•アメリカはシェールガス開発により中東依存を低下。むしろエネルギー資源国としての強みを持つようになった。
•ただし、イスラエル保護の立場は維持せざるを得ず、中東完全撤退は難しい。
•日本は国力の低下もあり中東関与を深めにくいが、石油依存は依然大きく、一定の関係維持は不可欠。



食料安全保障
•戦後、日本人のカロリーの約4割を米が占めていたが、今は約2割にまで低下。
•小麦の多くをアメリカやオーストラリアから輸入している。
•これらの国との関係が維持されている限り、一定の食料安全保障は担保されている。



再生可能エネルギー
•北欧諸国(スウェーデン、デンマーク)が主導。
•中国も大気汚染を契機に再エネ導入を加速。
•台湾有事を見据え、海上輸入ルートに依存しない体制構築が重要視されている。



人材と安全保障
•他国では退役後も民間で一定の地位や待遇を得られる仕組みがあり、人材循環に寄与。
•日本はその仕組みが弱く、人材活用に課題。
•アメリカ防衛研究では予算規模が日本の数倍以上。政府がベンチャー投資し、成功時はリターン、失敗しても一定の吸収が可能。
•技術者の約8割は通信・ネットワーク系、残り2割が戦略や対策業務を担当する構造。



通信・量子技術
•国際通信の多くは海底ケーブルに依存。
•量子コンピュータによって将来暗号が解読されるリスクがあり、過去通信も含め安全性が崩れる恐れ。
•日本ではNICTが量子暗号を研究する一方、予算減少や半減期問題で弱点となっている。



イスラエルの事例
•イスラエルには8200部隊というサイバー精鋭部隊がある。
•数学的才能ある若者を兵役で選抜 → 部隊経験 → 退役後にベンチャー設立。
•国家全体としてサイバー分野が強化される仕組み。

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2025年09月23日

Posted by ブクログ

「日本人ファースト」に混ざり込む排外主義の匂いが一部に警戒感を、一部に高揚感を与えるようだ。誰かが、愛国者というポジションは会費も資格も要らない、最も安上がりな求心力だと言っていた。そもそも、日本人ファーストであるべきは当然で、「日本人セカンド」を主張する派閥は論外だとしても、私が気になるのは〝敢えて言うべき状況こそが問題である“という事。日本人ファースト以外は、国家的法益に対する罪ではないか。その上で排斥差別が起こらないようにすべきだ。尚、それをコマーシャリズムに用いるやり方も気に入らない。結局、私は何もかも気に入らないが、ポピュリズムこそが大衆動員の最短距離だ。

さて、国家の総力について。これは兵器のスペックや総力で比較されるだけのものでは無い。それを扱う人的資源、エネルギー供給、外交、食料自給と広範囲に及ぶ。それを数値で解説するのが本書であり、一読して学ぶべき内容だ。

石油の戦略備蓄は、官民で半年持ちこたえられる量を蓄えているが、タンクが攻撃されたらどうなるのか。日本経済を回すには、20万トンタンカーが毎日2~3隻必要。小笠原沖を迂回中のタンカーが中国潜水艦に1隻でも攻撃されたらその航路は使えなくなる。

カロリーについて。昔は1日のカロリーの半分、だいたい4割ぐらいをお米で取っていたのが、今は2割しか取っていない。米の自給では国民のカロリーにおける2割を守っているということにしかならない。他のものを合わせて38%というのが今のカロリーベースの食料自給率。

航空燃料には軍用規格があり、旅客機など民間規格とは違う。知らなかったが言われると、そうだろう。規格のJP- 4は主に陸・空自、海自では主にJP-5。民間空港での燃料調達の容易さなども考慮して、できるだけ民間と同じものへと標準化していくが、昔は、JP-4とJP-5の燃料の区別がつかないまま補給して、きちんと動けなくて困ったことがあったらしい。補給の面から見ても事前にいろんな飛行場のことを実際に確かめるというのが重要。

今の日本を転覆させるのに軍事力は不要で、じわじわと、経済的、大衆心理操作、政治的に入り込んでいけば良いと誰かが言った。詐欺メールや電話が増えている。一つ一つの判断を誤らないように、見抜いていかねばならない。

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2025年07月19日

Posted by ブクログ

中国による台湾有事を念頭に、安全保障の観点から食料、エネルギー、資源、経済の在り方を霞が関の元幹部たちが議論する。
省庁は安全保障の観点に立って、政策を考える必要がある。台湾有事の最前線に立つのは、自衛隊かもしれませんが、食料、エネルギー確保はもちろん、食料自給率のアップも考えないといけない。
経済面からも、安全保障に絡む分野には国が積極的に補助金を付与する必要がある。
各省庁への自衛官や防衛省幹部たちの派遣や人事交流も大切だし、各組織が連動して有機的に動けるようにする。
日本の力だけで、中国に対抗できなくなった現在、事態が発生した時に、生活がどれだけ制限されるのかを真剣に考えないとですな。
安心と安全は過去のものになりけりですね。

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2024年09月27日

Posted by ブクログ

兼原さんが主催して対談するシリーズは結構あると思うんだけど、直接的な防衛だけでなく総合力での安全保障という観点で、エネルギー安保と食糧安保、シーレーン防衛、特定公共施設と通信、貿易と金融について、経産省、財務省、農林水産省、総務省、防衛省国土交通省出身の官僚OBと話す。
有事への備えというか心構えのようなものは経済官庁の官僚も持つようになっているけど、訓練とかでの実体的な協力が少ないという現状がよくわかった。

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2024年08月01日

Posted by ブクログ

エネルギー安保、食料安保、公共施設、海底ケーブル、経済安保、金融など安全保障の裾野が広がっており、課題が山積していることについて官庁OBが座談会形式で議論する。

論点がわかりやすく提示されており、新たな課題もあれば昔からの課題もある。現代日本が抱える脆弱性がよくわかる一方、現役時代にもっと取り組んで下さいよ、との恨みも残る。

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2024年07月03日

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