あらすじ
「ええっと……今日は何をするんだっけ」
イルカナ公爵領当主ミシェルには憂鬱な時間があった。
それは、寝る前に書いた日記を見返すこと。
イルカナ公爵領はそれまで人と獣人が共存する珍しい土地だった
――15年前までは。
ある事件ををきっかけにその平和な共存関係は終わりを告げた。
ミシェルは事件の影響で記憶を失い、その後ところどころ記憶の欠落が見られるようになった。
自分が何者であるかわからなくなってしまう恐怖に襲われていたミシェルにとって、
過去の自分を知る国王の言うことが唯一すがれるものだった。
それが、民に対してどんなに厳しい政策を行っていても逆らうことができなかった。
しかし、そんな日常はある出会いをきっかけに変化していく――。
国境付近で不審者を捉えたと報告を受け確認に行くと、
そこにいたのは美しい白い耳と尾を持つ半獣人の男アランだった。
本来であれば、半獣人は処刑しなければいけない。
けれど、ミシェルは初めて会ったはずのアランを不思議と殺すことができなくて、
出した答えは――。
美しき半獣人と記憶を失った青年の儚くも美しい愛の物語……。
感情タグBEST3
緻密な物語前半
壮大な物語の上巻です。
獣人が追放されていくシーンから始まる物語。
序盤のうちはあのシーンにどんな意味があったのかは分かりません。ただ恐ろしく惨い事件があり、主人公のミシェルが記憶に障害を抱えているということだけ。そして白狼の獣人アランと出会い、ミシェルは少しずつ自分と領地の過去を取り戻していくことになります。
その物語の紡ぎ方がお見事です。ひとつひとつのエピソードが縦横に絡み合い、緻密なタペストリーを織り上げるかのようなストーリー展開に惹き付けられ、あっという間に読み終えてしまいました。
BL作品という枠に囚われず、ファンタジー作品として読んでいただきたい物語です。