あらすじ
泥臭い野心と権威への追従――。残念に生きたその人は、いかにして巨大かつ精緻な交響曲を生んだのか? 21世紀の今、多くの聴衆に支持され、時代と響き合うに至った作曲家の実像。その生涯から場面(エピソード)を小説化、事実記録(伝記)と組み合わせたハイブリッド評伝。【ブルックナー生誕200年記念企画】
*目次より
序
第一章 出生から教師時代まで(1824-1855)
第二章 リンツでの修業時代(1856-1868)
第三章 ヴィーンでの苦難の日々(1868-1878)
第四章 遅れに遅れた名声(1879-1889)
第五章 晩年(1890-1896)
エピローグ 死後の名声
後記
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Posted by ブクログ
「ブルヲタ」には堪えられない楽しい読み物で534頁に及ぶ大著を一気に読んだ。彼の幼少期から教師時代、教会オルガニスト時代、ウィーン大学時代、作曲家としての不遇の時代、そして晩年の交響曲作家として大成功を収め、ウィーンの誇りになった時代。ブラームスそして派・代表者ともいうべきハンスリックからの酷い仕打ちの数々が詳細に書かれている。ブルックナー支援者の指揮者レーヴィが交響曲第8番を演奏不可能と伝え、改訂せざるを得なかったとの記載は今から考えられないような話だが、当時の演奏技術、常識を破る作品だったということを示して言うのだろうか。しかし、晩年はブラームスからも評価され、ブラームスはブルックナーを追うように半年後にこの世を去ったらしい。
そして実に数多い女性たち(少女たちというべき)への恋慕と失恋!彼女たちの実名が記されていることに、事実であったことを痛感した。その中では70歳の時に出会ったイーダ・ブーツというベルリン娘との婚約の話には救いを感じさせられる。結局生涯を通して独身を貫きプロテスタントの牧師補となったイーダとカトリックのブルックナーの信仰の違いが結婚の中止を呼んだという事に、2人の信仰の忠実な姿勢を感じる。
著者の作曲家への評価が次の序の一文に集約されていると思う。「彼の耳にだけ響く別の宇宙から来たような荘厳な音楽に彼があまりにもとらわれ、どうにかしてそれを現世の音として聴こえるようこの世界にある音楽技術の限りを尽くすことに懸命なあまり、自分の生活のほとんどに気が回らなかった人であった。彼の自作改訂の多さと、ときに不見識とも言える迷い、そしていつまで経っても完成に至りえないかのような訂正の連続も、彼の内なる何かへの接近の難しさかえるならいくぶん納得がゆく。おそらくそれは近似的に表現することはできても完璧にることはできない響きなのである。」