【感想・ネタバレ】プーチンはすでに、戦略的には負けている - 戦術的勝利が戦略的敗北に変わるとき -のレビュー

あらすじ

三年目を迎えたウクライナ戦争。
現下、ウクライナ軍は要衝からの撤退を余儀なくされ、ロシア軍優位な戦況にある。
さらに、プーチンは2023年3月17日、大統領選挙で圧勝し、5選目に突入した。
それでもプーチンのロシアは「戦略的な敗北」に陥ると著者は言う。
ウクライナ戦争後のロシアは、「国際的に孤立した」「『旧ソ連の盟主』の地位を失った」「中国の属国になった」うえに、最も恐れていた「NATOの拡大」も招いてしまったからだ。

本書はロシアがなぜそういう窮地に立つことになったのかを、「戦術的思考」の勝利が結果的(戦略的)には大失敗に終わった歴史上の例を挙げると同時に、プーチンの履歴と思考経路を基に考察していく。
さらに、我が国と我々にとって、将来に向けてどのような思考が必要になるのかを、明確に提示する。歴史に学んで未来を拓くための重要な指南書である。


【著者プロフィール】
北野幸伯(きたの・よしのり)
国際関係アナリスト。1970年生まれ。
19歳でモスクワに留学。1996年、ロシアの外交官養成機関である「モスクワ国際関係大学」(MGIMO)を、日本人として初めて卒業(政治学修士)。
メールマガジン「ロシア政治経済ジャーナル」(RPE)を創刊。アメリカや日本のメディアとは全く異なる視点から発信される情報は、高く評価されている。
2018年、日本に帰国。
著書に、『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』(草思社)、『隷属国家日本の岐路』(ダイヤモンド社)、『日本人の知らないクレムリン・メソッド』(集英社インターナショナル)、『日本の地政学』『黒化する世界』(ともに育鵬社)などがある。


発行:ワニ・プラス
発売:ワニブックス

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Posted by ブクログ

日本ではまだコロナ禍であった2022年2月末にロシアによるウクライナ侵攻が始まって3年も経過しました、ニュースで時々見る限りでは総合力に勝るロシアがウクライナを徐々に追い詰めているように思っています、そんな時にこの本のタイトルを見て思わず購入してしまいました。

以前の太平洋戦争で「日本は戦術・戦闘レベルでは勝っていたが、戦略的には初めから負けていた」と何かの本で読んでいたのを記憶していたからです。戦術的には勝てても戦略的に勝てないと「戦争」には勝てない、難しい考え方だと思いますが、この本にはそれらの解説がなされています。

還暦を過ぎた私にとっても、戦闘・戦術とは異なる「戦略的」な思考を身につけて実践したく、それを目指す上でも素晴らしい本当の出会いとなりました。

以下は気になったポイントです。

・戦略=戦争に勝つ方法、戦術=戦闘に勝つ方法である、戦争に勝てるかを考えることを「戦略を立てる」という、戦闘に勝つ方法を考えることを「戦術を立てる」という、日露戦争に当てはめると、日露戦争に勝つ方法=戦略、奉天会戦に勝つ方法=作戦、奉天会戦で起こる戦闘に勝つ方法=戦術、となる。戦略は戦術よりも広く大局的な概念である(p19)戦術とは、目先の戦闘に勝つ方法である(p21)

・戦略は「大戦略」と「軍事戦略」に分けられる、軍事戦略は、軍隊で勝つ方法である、大戦略は「軍隊以外に、政治、外交、経済、情報など」が加わってくる(p20)戦略レベルでは「戦争に勝つだけでなく、勝った後も相手より有利でい続けること」まで考える(p22)

・第一次世界大戦時、同盟国イギリスを支援するために地中海に艦隊を派遣して大いに貢献したが、陸軍派兵は最後まで拒否し続けた、イギリスは日本に失望し、この不義理が原因で日英同盟は、1923年に解消された、その結果、イギリスは日中戦争では中国側についた、1937年に日中戦争が始まった時、日本が戦っていたのは、中国・アメリカ・イギリス・ソ連であった(p28)

・日本は「石油の入手が最大の問題」であったので、アメリカの真珠湾攻撃をすることなく、オランダ領インドネシアを攻撃し、油田を確保するだけで良かった、このことを末次海軍大将は知っていた、直接インドネシアを抑えたら、ルーズベルトは開戦の口実を見つけられなかった(p45)

・第一次世界大戦の講和条約(ベルサイユ条約)においてドイツは、1)ドイツ領土(資源産出地帯)の割譲、2)植民地全て放棄、3)軍隊に厳しい規制、4)莫大な賠償金(結果的に1320億マルク=国民所得の2.5倍=1250兆円相当)(p47)

・ドイツは1939年9月1日ポーランド(=元ドイツ領のポーランド回廊)侵攻、イギリス・フランスはポーランドの同盟国であたので、ドイツに宣戦布告、第二次世界大戦が始まった(P52)

・ヒトラーが勝てた方法として、1)アメリカを参戦させない(=同盟国日本にはアメリカと戦うなと念を押し続ける)、2)ソ連との不可侵条約を守り戦わない、3)イギリス本国のみターゲット、4)同盟国日本にアジアのイギリス軍と戦わせて本国に向かわせない(p56)

・生存圏理論とは、生存圏=国家が生存(=自給自足)するために必要な地域を確保するために、国境を拡張することは国家の権利である、であり「生存権を確保するために他国を攻めることは「権利である」ということになり、他国への侵略は肯定される」ことになる、非常に危険な思想であり、このため「地政学」は戦後「禁断の学問」になった(p61)

・ロシアとウクライナの戦争は、もっと大きな枠で見ると「西側全体とロシアの戦争」である。イラク戦争(2003年開始、2011年12月撤退)は、アメリカとイラクでなく、アメリカと「フランス・ドイツ・ロシア・中国など」であった(p63)2000年11月にフセイン政権は石油取引をドルからユーロに転換、米国は2003年のイラク戦争後、石油取引をドルに戻した(p68)

・国際法における合法的な戦争は2つ、1)自衛戦争、2001年に始まったアブガン戦争、米国同時多発テロ事件に対する「自衛権の行使」とされた、だからイラク戦争に比べると反戦運動がほとんどなかった、2)国連安保理が承認した戦争、1991年の湾岸戦争は、安保理が承認した戦争で合法である、イラク戦争は、フランス・ロシア・中国が反対したが、アメリカは無視して戦争を始めた、ロシアによるウクライナ侵攻が違法であるのと同様(p72)

・中国とロシアに守られている「イラン」は、2007年原油のドル決済を中止した(p75)湾岸協力会議(GCC)首脳会議では、2010年までに通貨統合を達成する(=決済通貨をドルから変更する)ことを目標としていた、2008年1月のダボス会議で、ジョージ・ソロスは「現在の危機はドルを国際通貨とする時代の終焉を意味する」とコメントした、リーマンショックが起きたのは、この発言の8ヶ月後の、2008年9月15日である、これで2009年乗りアメリカ一極から「米中二極時代」に入った(p77)

・アメリカはロシアの石油最大てを確保するという野望をプーチンに阻止(2003年10月米企業に売却しようとしたホドルコフスキーの逮捕、そして、グルジア=バラ革命(2003/11)、ウクライナ=オレンジ革命(2004/12)、キルギス=チューリップ革命(2005/3)の革命が起きた(p118)これらの出来事で、プーチンは決定的に「反米」になった(p121)

・ロシアと中国はアメリカの覇権に挑戦するために、1)反米の仲間を増やす=フランス、ドイツを中心とする欧州反米勢力、2)EUを東方に拡大、3)ユーロを基軸通貨化させる、このために2000年、イラクのフセインに原油決済通過をドルからユーロに変えさせた(p126)さらに「ドル体制への攻撃」として、2006年5月に、プーチンは、石油製品をルーブルで決済すべきと発言した(p130)2006年6月、ルーブル建てのロシア原油先物取引が開始、2007年6月には「ルーブルを世界的な基軸通貨にする」と宣言した(p132)

・ハーバード大学が75年間にも渡って追跡調査を行ったところ「私たちの幸福と健康を高めてくれるのはイイ人間関係である」という結論であった、友人の人数は関係なく、たった一人でも信頼できる人がいるかが重要でる(p155)

・クリミア併合の理由1):ウクライナの民族主義者がクリミアのロシア人を虐待するので助ける、2)ウクライナがNATOに入ると、クリミアとセバストポリ(ロシアの軍事都市=黒海艦隊)にNATOの軍艦が出現することになる(p173)

・ロシアはクリミアを得たが、経済成長を失った、これが戦略的敗北である(p177)

・アメリカには「勝つためなら、昨日の敵と平気で和解する=戦略文化」がある。第二次世界大戦中、最大の仮想敵でるソ連と同盟関係にあったが、終わると敵だった「日本とドイツ」と同盟を結んで冷戦を開始、それでもソ連が優勢だったので昨日までの敵だった中国と和解して、対ソ連同盟を築いた(p195)

・ウクライナ侵攻の結果、1)ロシアは国際的に孤立(国連193カ国中、非難決議賛成=141、棄権35、未表明12、反対5)、国際的に「戦争犯罪容疑者(2023.3国際刑事裁判所が逮捕状)」に堕ちた、2)NATO拡大阻止に失敗、逆に増加した、3)旧ソ連圏の盟主の地位を失い、旧ソ連諸国がロシアを見捨てた、4)中国の属国と化した(SWIFTから除外)(p215)

・私たちは今、第二次世界大戦やソ連崩壊時に匹敵する「大激変」を目撃している、そして今後は「大混乱の時代」が続きであろう、短くて2025年、長くて2030年頃まで続く(p297)

2025年4月30日読破
2025年5月2日作成

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2025年05月02日

Posted by ブクログ

北野氏のロシア本読むのはこれで3作目。
発行から既に9ヶ月経過しているがウクライナ戦争の戦況も膠着状態なので、良くも悪くも、まだ十分に賞味期限内。

戦術的勝利が戦略的勝利に繋がらない例は枚挙にいとまがなく、歴史的審判を終えた後では誰にでも理解が出来る(例 真珠湾奇襲)が、今現在起きていることを大局的に理解することは中々難しい。

ロシアが中国の属国化している、という著者の指摘は、おそらく、数年後には世界の常識となっているかもしれない。

最後の方で出てくるアメリカ大統領の日本の核武装に関するコメントを読むと、戦争は外交の延長であり、究極の姿は、相手国の憲法を書き換えることである、という説の正しさを実感してしまう。

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2025年02月08日

Posted by ブクログ

これまでの北野氏の著作における分析を土台にして、プーチン政権になってからの四半世紀のロシア政治を解剖し、2008年までの戦略的な勝利と、それ以降を戦術的勝利・戦略的敗北と位置付けて日本への視座も提供する。非常にわかりやすく読みやすい。特に、3章・4章の後の分析のまとめは秀逸。

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2025年01月02日

Posted by ブクログ

新聞などオープンソースをベースに分析してわかりやすい言葉で書いている。
クリミア併合あたりから、プーチンの戦術脳が、ロシアに戦術的な勝利をもたらしても結局は戦略的な敗北という結果になっているということを論じている。
プーチンの半生やロシア国内での評価などわかって面白い。金正恩を高く評価しているあたり、プーチンの思考がやばいなというのがよくわかった。
最後は日本の財務省が省益のために増税し、それが日本経済の停滞に繋がっているとする含意で終わる。

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2024年07月19日

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