あらすじ
〈社会のあり方から心的外傷が生じている以上、そこからの回復も、個人の問題プライベートではありえない。個々のコミュニティにある不正義によって外傷が生じているなら、傷を治すためには、より大きなコミュニティから対策を引きだして、不正義を修復しなくてはならない。
回復していく途上、難しい問いがさまざまに浮かび上がってくる。皆の前でこのことを話せるか? 真実を、周りのひとは受け止めてくれるだろうか? この傷は治るだろうか? そのために何を差し出さなくてはならないのか? どうして加害者と同じコミュニティに所属しつづけないといけないのか? 和解は可能か? どうやって? コミュニティはどうすれば現在の、そして将来の被害を防げるのか? この問いに答えるため、私はもう一度、話を聞くことにした。生き延びたものたちの声である。皆のための、より良い正義を求めることのために本書はある〉暴力被害者は何を求めているのか。加害者の謝罪やアカウンタビリティはどうあるべきか。補償や再発防止の具体策は、司法のあり方は。トラウマ問題のバイブル『心的外傷と回復』を継ぐ総決算の書。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
被害者の視点から被害者の回復のために、社会は何ができるかを書いた本。ここ最近で一番納得する内容が多く、一気に読み進められた。最近、性被害のニュースが多く流れるようになってから、性加害者には厳罰化したほうがよい、という意見をXでよく見かけるようになった。もちろん、憤りがあることはもっともで、でも、そこには被害者の視点が入っていないような気がして、ずっと違和感があった。ハーマンも、被害者よりも周囲の人間のほうが、厳罰化を求めると書いていて、こういうことかと。でも被害者が何を求めるかを聞き取って、それを実践していくことが被害者の方の回復に役立つのだ。それが場合によっては厳罰なのかもしれないし、修復的司法なのかもしれない。ただ、一番中心に置くべき、被害者の方の声を皆がもっと真摯に聞いて社会が何ができるのかを考え、実践することが大事だと思う。皆の思うような怒りを勝手に被害者も感じていると誤解してはならない。もっと事態は複雑だ。だって、多くの加害者は被害者と顔見知りで同じコミュニティに属していることが多いのだから。被害者が加害者に怒りだけではない、いろいろな感情を感じて当然だし、周囲の人が傍観したり、加害者よりになることへの憤りもきちんと考えてほしい。
加害者をただ糾弾したり閉じ込めておくだけでは、見ないことにしているのと同じで、社会は何も変わらない。状況に怒って、すっきりしたことにしていないか。組織や周囲がもっと変わる必要がある。読みながらそんなことを思ったのと、ハーマンのずっと被害者の方への優しいまなざしがある著作で、それが胸に来た。2023年の著作をすぐさま翻訳してくださったことにも感謝。
Posted by ブクログ
医学とか心理臨床を超えてコミュニティや法整備などの問題も大きいよなぁと改めて思った。日本語訳はこなれていて読みやすい。また繰り返して読むべき価値のある本だと思う。