あらすじ
戦前から戦後にかけて、狼をはじめとするイヌ科動物を独学で研究し、雑誌『動物文学』を立ち上げた平岩米吉という人物がいた。
動物行動学の父・ローレンツに先駆けて自宅の庭で犬、狼、ジャッカル、狐、ハイエナと暮らしながら動物を徹底的に観察。
「シートン動物記」「バンビ」といった動物文学を初めて日本に紹介し、フィラリアの治療開発に私財と心血を注いだ、偉大なる奇人の物語。
本書は在野の研究者や作家が多彩に活躍していた時代の記録でもある。
文庫化にあたり、往時の様子を収めた貴重な写真と作家の直筆原稿を収録。
第十二回小学館ノンフィクション大賞受賞作。
解説/村井理子。
■内容
第1章 狼に憧れた神童
第2章 白日荘のにぎやかな住人
第3章 動物文学に集う人々
第4章 愛犬の系譜
第5章 戦火のなかの動物
第6章 犬は笑うのか?
第7章 狼との対話
第8章 奇人先生の愛した犬たち
文庫版あとがき
解説 村井理子
■著者について
片野 ゆか(かたの・ゆか)
1966年、東京生まれ。
2005年に『愛犬王 平岩米吉伝』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞受賞。
犬をはじめとする動物に関わる本を手掛け、『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』『ゼロ! 熊本市動物愛護センター10年の闘い』『動物翻訳家 心の声をキャッチする、飼育員のリアルストーリー』『平成犬バカ編集部』(以上、集英社)など著書多数。
話題を呼んだ『北里大学獣医学部 犬部!』(ポプラ社)は映画化、コミック化されている。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
犬を飼ったことは無いが(猫は飼ってる)犬の賢さ愛情深さは少しは知ってるつもりだったけれど、狼やハイエナが人に慣れたりこんなにかわいいなんて思いもよらなかった。そもそも彼等のご主人である平岩米吉氏が抜群に面白いのだがご家族もみな器量と愛がデカ過ぎる!
村井理子、高橋源一郎、高野秀行の帯に惹かれて手に取ったのだけれど、とにかく最初のエピソードから引き込まれ驚かされ、一気読みさせられる事間違いなし!写真も楽しい。
Posted by ブクログ
日本の動物愛護と動物文学を支えた、こんな人がいたとは。知らなかった。狼や海外の動物を家で飼育するという、今なら様々な法律で阻まれて無理そうなことをやってのけている。交友関係も多岐にわたる。南方熊楠やまどみちおの名前が突然出てきて面食らった。戦前・戦中・戦後と時代の移り変わりに翻弄されながらも、最終的にはフィラリアのライフサイクルが突き止められ、今の予防方法が確立されたということはもっと知られも良い。研究機関に属さず自身で研究を続けられる人が、かつては存在したという証でもある。現在では非常に稀な存在だと思う。
Posted by ブクログ
<目次>
プロローグ
第1章 狼に憧れた神童
第2章 白日荘のにぎやかな住人
第3章 動物文学に集う人々
第4章 愛犬の系譜
第5章 戦火のなかの動物たち
第6章 犬は笑うのか?
第7章 狼との対話
第8章 奇人先生の愛した犬たち
エピローグ
<内容>
戦前の日本には「奇人・変人」が数多いたようだ。南方熊楠然り、牧野富太郎然り…。この平岩米吉もその一人。彼らは裕福な家に生まれ、その財力で自由気ままに自分の興味を掘っていった。それだけで無く、ちゃんと成果を出したワケだ。米吉は犬の生態から狼やハイエナの生態まで。さらにちゃんとした動物文学の紹介まで。人口に膾炙したところでは、『シートン動物記』の紹介か。片野さんは「イヌ」など動物への視点が温かい。
Posted by ブクログ
裕福な家庭に生まれた米吉が動物を愛護して動物文学を手掛けるノンフィクション
それと同じ頃には以前読んだ「アラシ」の主人公は北海道の山奥でとても賢い狼犬と生活していたのを思い出す
自由が丘の裕福な家庭の犬でもアイヌの犬でも主人への忠誠心は同じなんだよな...
Posted by ブクログ
こんな人がいたのかと驚きながら読み進めた。自宅の庭で犬はもとより、キツネ、オオカミ、ジャッカル、ハイエナなどの動物とともに暮らし、深い愛情を持ってその生態を観察し、研究を続けるとともに、雑誌『動物文学』を立ち上げ、日本に真の意味での動物文学をつくろうと努力を続けた人物。晩年には「犬奇人」と呼ばれていたそうだが、犬の愛好家と言う人は結構いるとしても、普通の常識では考えられないという意味で、「奇人」という言葉に相応しい人だったのだろうと思う。
今でこそ犬の寿命は延びて10年以上生きるのは普通になっているが、平岩米吉の愛犬の多くは数年で亡くなってしまっていた。その大きな原因の一つが、蚊を媒介とする寄生虫フィラリアだった。多くの愛する犬を見送ることとなった米吉の悲しみ、それを詠んだ短歌が何首か収められている。どんなにか辛い別れだっただろう。
一匹くらいの犬ならともかく、何頭ものシェパードに加え馴染みのないオオカミやジャッカルの世話をするのは大変だったろうし、家のドアは傷だらけ、襖、障子は破れ放題という生活に耐えたというのはスゴイこと。もちろん本書の主人公は米吉であるが、その研究を支えた妻、そして長女の献身振りもしっかりと描かれている。
現代では、ペットは家族の一員として大事にされるようになってきた。それもこのような先人の努力があったこそなのかと、本当に頭が下がる思いがした。庭で遊ぶ愛犬たちと米吉ら家族の写った写真や、懐いているオオカミやハイエナと一緒のところ、愛犬との散歩風景などは微笑ましいが、最も愛した愛犬の死に顔のスケッチ、見ていて切なくなる。