あらすじ
日本書史の碩学が、近年の新たな研究成果に基づき、日本の書がもつ多様性と深みを新視点から明らかにする。わが国の書の原点を稲荷山古墳鉄剣象嵌銘や聖徳太子「法華義疏」に見、近年中国で見つかった吉備真備の李訓墓誌銘などを例に挙げつつ、その発展史を辿る。さらに三筆・三跡と呼ばれる平安期の能書家、儒者、西行・寂厳から良寛に至る僧侶、頼山陽ら文人の書から、中国基軸の漢字文化史とも異なる、自由で伸びやかな日本独自の文字文化の歩みとしての書道史を描きなおす。
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Posted by ブクログ
数々の新資料と、書法への深い洞察から、「法華義疏」は聖徳太子の筆ではない(ものの、当時を代表する傑作である)、光明皇后の「楽毅論」は王羲之作の臨書ではない、などの新説(研究者の間では既に定説?)を披露する。書道を学ぶ人にとって書史と言えば、中国書法史のことであり、かなをやる人は三筆だの三蹟だのは勉強するだろうが、それでも世尊寺流あたりを過ぎるとあとは明治時代まで「見るべきものはない」とスッ飛ばされたりもする。それもそのはず、日本書史は伝・紀貫之とか伝・小野道風とか、「(その作者の筆でないことは明らかにもかかわらず)そう伝えられてきている」という類のものが多過ぎて、長らく歴史研究の対象となってこなかったという背景がある。きちんと研究し、書作の背景にある人物像や思想が明らかになれば、日本書史はもっと面白くなるはず…とは著者の弁。