あらすじ
追悼 山田太一さん
「魂の話をしましょう。魂の話を!」
「キルトの家」
震災から1年。
旅先で震災に遭遇した若い男女と
独り暮らしの老人たちの物語。
「時は立ちどまらない」
3年後。
津波で被害を受けなかった一家と
家族を失った一家の鎮魂の物語。
「五年目のひとり」
五年後、
震災の記憶を引きずる男が
亡き娘の面影を追うファンタジー
あの大震災を前にフィクションに何ができるか?
を考え続けた著者の、最晩年の傑作三作品を収録。
【著者紹介】
山田太一(やまだ・たいち)
1934年東京浅草生まれ。脚本家・作家。
早稲田大学を卒業後、松竹大船撮影所入社。木下惠介監督に師事。1965年脚本家として独立し、テレビドラマの世界で数多くの名作を書く。
1983年「ながらえば」「終りに見た街」などで第33回芸術選奨文部科学大臣賞、同年「日本の面影」で第2回向田邦子賞、1985年第33回菊池寛賞、1988年『異人たちとの夏』で第1回山本周五郎賞、1992年第34回毎日芸術賞、2014年『月日の残像』で第13回小林秀雄賞、同年朝日賞などを受賞。
2023年11月29日永眠。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
東日本大震災から1年、3年、5年のそれぞれの物語。
作者が取材を重ねて作り上げたという。
実際に取材をしなければ見えない場面や人間模様、震災に対する個人個人の思いの違いなどをリアルに表現できるように作られていると感じた。
残念ながら、放映されたドラマを見る機会がなかったが、この作品に出合い、まるでテレビ画面を通じて語られているような感覚を持つことができた。
Posted by ブクログ
山田太一さん(2023年逝去)は、脚本家・作家として多くの名作を手がけました。本書は、東日本大震災を題材としたドラマのシナリオ集で、昨年3月に追悼作品集として刊行されました。
シナリオなので、ストーリー展開の詳細を書き表す必要上、「柱」(場所と時間帯指定)、「ト書」(状況や人物の動作やしぐさ)、「セリフ」(登場人物が話す言葉)が連なっています。当然ながら、普段読み馴れている小説とは全く異質な印象です。
◯「キルトの家」 NHK(2012年放送)
震災から1年。東京の古い団地で一人暮らしをする老人たち。そこへ、仙台での震災から逃げて来た訳あり若夫婦。老人たちの切ない胸の内と、若夫婦との交流が描かれます。
◯「時は立ちどまらない」 TV朝日(2014年放送)
3年後。結婚目前だった男女。両家は震災で花婿・母・祖母と家を失った側と、花嫁含め家族も家も全く被害のなかった側に分断されます。この落差の大きさと葛藤が描かれます。心の溝を埋め、両家の真の交流は可能なのかが問われます。
◯「五年目のひとり」 TV朝日(2016年放送)
5年後。津波で家族を喪った中年男と女子中学生の交流が描かれます。喪失感を拭いきれない被災者が亡き娘の面影を見ているのでした。この交流は、再生への道となるのでしょうか? 真の絆の意味が問われます。
シナリオを読んで、東日本大震災に思いを馳せるのは初めての経験でした。ト書やセリフに馴れるほど、逆に想像の幅が広がる印象でした。
放送時に観ておらず、ぜひ実際のドラマを視聴したいと動画配信等を検索しましたが、3作とも見つからず残念でなりません。
「喪失」と「時間」の題材は、なぜか直前に読んだ吉田篤弘さんの『それでも世界は回っている』に通じていました。巡り合わせって不思議です…
立ちどまらない"時"として、震災1年、3年後、5年後を描き、被災者の心情の揺らぎと移ろいがセリフから立ち上がってくる、切なくも感動的な3部作でした。