【感想・ネタバレ】国家の命運は金融にあり 高橋是清の生涯 上のレビュー

あらすじ

生後間もなく里子に出され、渡米留学するも「奴隷」になり、帰国後は「芸者のヒモ」に落ちぶれ、ペルーの鉱山開発でスッテンテンに。何度も人生のどん底を味わいながら、日露戦争の資金調達に成功して日本を救う。金融史の専門家が『自伝』で描かれたエピソードの虚実を検証し、従来の是清像を大きく塗り替える圧倒的評伝!

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Posted by ブクログ

思いつくだけでも、寺の小姓、奴隷、お尋ね者(所属藩が賊軍のため)、教師、芸者のヒモ、翻訳家、相場師、仏教研究者、特許局の役人(創業者に等しい)、ペルーとの鉱山合資会社の現地代表、ニート、日本銀行総裁、貴族議員、大蔵大臣、総理大臣と職業の振り幅が大きい偉人の伝記上巻。この巻だけで自伝を網羅しているかなりのページ数。
この人の自伝がめちゃくちゃ面白くて愛読しているのだが著者によると「盛っている」らしい。それでも自伝との差はかなり小さい気がする。奴隷事情や日露戦争の公債の件なども本人でない故か客観的で奥行きがあった。
一見すると周り道だが全部人生経験としてどんな境遇からも必ず頭角を表すのが凄い。偉人の生涯というと綺麗事になりがちだが、酒好き女好き大食らいと欲望に直球なのが良い。更に言えば稼いだ金を元々タンパクなのか自分の欲以外にも使っている。
読んでいて飽きないし、文庫版が出たら購入したい。

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2025年06月22日

Posted by ブクログ

高橋是清の評伝。上巻だけで500ページ超とかなりの長さだが、その長さに見合うほどの波瀾万丈な人生である。
元々昭和初期の名財政家程度の認識だったが、若い頃ここまで破天荒な人物だったとは…あの財政家としての力は好奇心と生存力に裏打ちされたものなのかもしれない。日露戦争において公債発行を一手に任され、WASPやロスチャイルド(と聞くと陰謀論の香りしかしないがそんなものは一切ない)相手に丁々発止で渡り合う姿は「もう一つの日露戦争」と言って差し支えないものであろう。
…しかしこの本を読み進めれば進めるほど日露戦争は戦闘・財力においてギリギリの戦いであったことを痛感させられる。なぜ日本はこんな(ある意味では太平洋戦争以上に)無茶な戦争を成功体験にしてしまったのか…理由の一端は本書に書かれているが、それでもなんとかならなかったのかと思わずにはいられない。

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2024年11月21日

Posted by ブクログ

2010年代の前半頃から、市井の経済学愛好家を中心に「リフレ派」と呼ばれるグループが現れ、財政・金融論壇を賑わせてきた。そのリフレ派の模範として度々名前が挙がっていたのが高橋是清であったが、残念ながら私は経済学徒でありながら日本史や経済史の学習にはさほど熱心でなく、高橋是清が成した財政・金融政策や当時の経済情勢を詳しく知らなかったため、リフレ派vs反リフレ派の論戦をただ傍観しているだけであった。
今般、高橋是清の評伝が出版されたことをSNSで知り、十数年の時を経て改めて学び直そうと思い、本書を手に取った。

上巻は出生から日露戦争終戦までの半生が綴られている。
米国での「奴隷」生活や芸妓のヒモ生活、ペルーでの銀山投資失敗などのエピソードも読み物として面白いが、やはりハイライトは日露戦争での戦費調達である。
大規模化する戦闘に比例し膨らむ支出により金が国外へ流出する中、戦費確保と金本位制維持に必要な正貨調達のため、米国・英国での外債発行を任された高橋是清。当初、極東の新興国である日本への信用は極めて低かったが、米英銀行団との粘り強い交渉とリレーション構築により、初回の外債発行は何とか成功。その後も戦況や欧米各国の経済情勢、外交バランスの推移により刻々と発行条件が変わる中、都合6度の資金調達を成功させた機敏な立ち回りは圧巻であった。
阪谷芳郎の「戦争とは7割が財務、残りの3割が戦闘」の言も強ち嘘ではないと思わせる、著者の描写ぶりも素晴らしかった。

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2024年05月06日

Posted by ブクログ

明治時代の金融政策の基礎をつくり、日露戦争では外国から巨額の戦費調達、昭和恐慌を乗り越えた“日本版ニューディール”の立役者など、高橋是清は「金融のスゴイ人」である。
 
だが、その昭和恐慌後の経済再建で軍事費が膨張して財政が破綻しそうになったため軍事費削減を主張したことが軍部の反感を買い、二・二六事件(1936年)で青年将校に暗殺された。

さらりと流すとこんな感じ。あまり覚えていないが、教科書でもこの辺のエッセンスが語られるだけだったはず。だが、それだと勿体ない。高橋是清の人生は波瀾万丈、奴隷として売られたり、放蕩生活の末、ヒモ生活を送ることになったり、至る所に子供を作っていたり、酒に溺れ、ワガママ三昧に仕事を放り出したりと、起伏の激しい“見どころ満載“の人生なのだ。

で、この辺の面白さは本人が自伝に書き尽くしているみたいなのだが、多少大袈裟に“盛って“書いているようなので、本書はそこんとこ冷静に書きますよ、という仕立て。

え。折角本人が面白おかしく語ってくれた内容を精査しちゃったら、面白くないのでは。真面目か、みたいに思ったが心配無用。十分面白いので、ならば自伝は更にパワーアップして面白いのかと逆に心配になるほど。

—— 伝記作家の重鎮小島直記は、伝記を通じて古今東西の人物に学べと説いた。しかし一方で「自
伝信ずべからず、他伝信ずべからず」とも説いた。これから綴る高橋是清の物語は、自伝の内容とは少し異なるものになるだろう。

上下巻だが、高橋是清の場合、前半の人生の方が破茶滅茶で面白く日露戦争の戦費調達も上巻だから、断然上巻の方が面白いのではと心配になる。円熟した後の下巻に期待しつつ。

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2025年11月03日

Posted by ブクログ

嘉永7(1854)年に⽣まれ、昭和11(1936)年の ⼆・⼆六事件で⾮業の死を遂げるまでの81年間におよぶ⾼橋是 清の⽣涯は、掛け値なしに波瀾万丈と⾔ってよい。前半⽣のクライマック スは、⽇露戦争時の外債発⾏に奔⾛し、それを⾒事に成功させる場⾯である。まさに 「国家の命運」を握った是清の国際⾦融の舞台での⼤活躍に読者は⼿に汗を握ること になる。

しかし、是清は⾦融の天才では決してない。それどころか、⻘年期の放蕩三昧の⽣活や怪しい投資話に⼿を出しての失敗など、普通であればそこで終わっ てしまうようなエピソードに事⽋かない。そこがまた⼈を惹きつけてやまない 魅⼒となっている。

魅⼒的な個性のまわりにこれまたさまざまな才能をもった⼈々が躍動する。その代 表格が、⽇銀の深井英五、⼤蔵省の森賢吾といった⼈々である。またグイド・フルベ ッキやアラン・シャンドといった「お雇い外国⼈」たちとの⻑く深い交流、森有礼、 前⽥正名からの影響も⼤きい。とくに前⽥の紹介で知遇を得た⽇銀総裁の川⽥⼩⼀郎 は、是清の⼈⽣を⼤きく変えた。これらの⼈々から重層的にネットワークが形成さ れ、最後にクーン・ローブ商会のヤコブ・シフを動かす⼒へとつながっていく。

後半⽣のクライマックスは、⽼⾻にむち打ちながらの⾦本位制即時停⽌の断⾏と昭 和恐慌からの脱却、そして軍部の要求に屈せず、公債漸減策へ転換する場⾯である。し かし、この⼀連の政策はあくまで表⾯のことにすぎない。是清がなぜデフレ不況の根 本治療をおこなえたのか。その核⼼は次の⾔葉に集約されている。⽈く「⼈ の働きがすなわち富である。⼈の働きをあらわすものが物資である。物資の⾼くなる のはすなわち⾃⼰の働きが⾼くなることである。(中略)この働きにいかにして相当な ところの価をもたせるかということの政策が根本政策である」と。今、これをきちん と⾔える政策担当者はいるのであろうか。

※『産経新聞』2024年7月14日朝刊書評欄に掲載いただきました。なお書評の内容は下巻も合わせてのものです。

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2024年08月21日

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