あらすじ
人間の業を映す独自の作家活動を続けた森崎和江は、日本統治下の朝鮮に生まれた。大邱、慶州、金泉、現地で教師を務める父、温かな母と弟妹、そして「オモニ」たち――歴史的背景を理解せぬまま己を育む山河と町をただひたすら愛した日々に、やがて戦争の影がさす。人びとの傷と痛みを知らずにいた幼い自身を省みながら、忘れてはならぬ時代の記憶を切に綴る傑作自伝。
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Posted by ブクログ
この一年半ほど、
「まっくら―女坑夫からの聞き書き―」1961、
ラジオ「にっぽんの子守唄~出稼ぎの女たち(F面)」、
ラジオドラマ「海鳴り」「いのちの木の方へ」「産湯の里」、
現代詩文庫の「森崎和江詩集」、
「からゆきさん」1976、
とぼちぼち読んでいる。
本書は1984。
作者の著作は膨大なので全容を把握するのは難しそうだが、本書は作者にとっての根っこを描いているので、読んでよかった。
まずは朝鮮植民二世としての、原罪意識。
これだけなら辛さ一辺倒になりかねないが、さらに、生きて在ることのエロスを文章の端々から感じる。
これは例えばこうの史代と片渕須直の「この世界の片隅に」や、おざわゆきの漫画「あとかたの街」に通じる、少女の目から戦争を証言する作品だと思った。
作者は他の著作でいわゆる証言文学をものしているが、本書は自分の声を散文で残した証言文学でもあるだろう。
「からゆきさん」の感想で、以下のように書いた。
・
一人の少女が、成長過程で得た根拠地を引き剝がされた後、得たり失ったりした挙句、回顧するときどう思うか……その機微にまで、さすがに一読者は至れない。
が、当人や関係者から話を聞いた森崎和江は、身が震えたのだろうな。
・
これはおヨシさんという女性の話を森崎和江が書いていることを受けての感想なのだが、このときの「震え」は自分自身のものでもあったのだろう、と感想が深まった。
また、以下のような詩がある。
・
おはよう!/おはようと夜明けの空がこたえた/うれしくてからだがふるえたの/でもその空/にほんが攻めこんだくにの空でした
・
これはそのまんま。
所謂ポストコロニアル文学としても拡大して考えたい作品。
それにしても、お父さんの偉大さに敬服。
(森崎庫次についての研究論文が検索するとヒットする。)
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■序章 007
■第一章 天の川 012
■第二章 しょうぶの葉 072
■第三章 王陵 110
■第四章 魂の火 169
■余章 226
■あとがき 247
◇解説 松井理恵 252