【感想・ネタバレ】福島第一原発事故の「真実」 ドキュメント編のレビュー

あらすじ

東日本壊滅はなぜ免れたのか? 取材期間10年、1500人以上の関係者取材で浮かび上がった衝撃的な事故の真相。
他の追随を許さない圧倒的な情報量と貴重な写真資料を収録した、第一級のノンフィクションがついに文庫化。ドキュメント編は、事故発生の経過を緊張感溢れる迫真の筆致で描く

思いも寄らない真相が次々明らかに
真相1 吉田所長の英断「海水注入」はほとんど原子炉に届かなかった
真相2 1号機で唯一残された冷却装置は40年間にわたり「封印」されてきた
真相3 原子炉を救う減圧装置には、高温高圧になると動作しにくくなる弱点があった
真相4 2号機の消防注水の失敗が皮肉にもメルトダウンの進行を遅らさせて「最悪の事態」を防いだ
真相5 巨大な津波に備えて、津波対策に着手していた原発があった

東日本壊滅が避けられたのは偶然の産物だった!?
極限の危機。核の暴走を食い止めようと、吉田所長らは、爆発や被ばくの恐怖と闘いながら決死の覚悟で現場にとどまり、知恵を絞り出して、原子炉に水を入れ続けた。幸いにして、格納容器の爆発は免れた。当時の政府のシミュレーションでは、最悪の場合、福島第一原発の半径170キロ圏内がチェルノブイリ事故の強制移住基準に達し、半径250キロ圏内が、住民が移住を希望した場合には認めるべき汚染地域になるとされた。半径250キロとは、北は岩手県盛岡市、南は横浜市に至る。東京を含む東日本3000万人が退避を強いられ、これらの地域が自然放射線レベルに戻るには、数十年かかると予測されていた。
10年にわたる取材で、この最悪シナリオが回避されたのは、消防注水の失敗や格納容器のつなぎ目の隙間から圧が抜けたりといった幾つかの偶然が重なった公算が強い。この事故では、当初考えられていた事故像が新たに発見された事実や知見によって、どんでん返しのように変わった例は枚挙に暇がない。この極限の危機において、人間は核を制御できていなかった。それが「真実」である

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Posted by ブクログ

改めて読むと、これは天災ではなく人災と感じます。
上層部にキチンと物申すことのできない東電の体質。
無責任で、起訴された旧経営陣。
そして、自分の思い通りにならないと、喚き散らし現場を混乱にした菅直人元総理。
これらの人が落とし前を付けないと、無念の死で亡くなった吉田所長が浮かばれません。

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2024年02月24日

Posted by ブクログ

福島第一原発事故の詳細について分かりやすく書かれていた。
厳しい状況の中で奮闘した現場の方々には頭が下がる思いだが、原発という非常に有益かつ危険な装置を扱う上での危機管理が満足であったとは言い難い。日本は資源の少ない国であるため、電力を求めるのであれば原発も致し方ないとは思うが、人間の手に余る危険な装置を使うのであれば最低でも完璧と胸を張って世界に自負出来るような対策を施した上で使用を検討すべきであると思った。
当時、テレビからの情報でしか原発の状況は把握できず、不安も大きかったため、時系列に沿った詳細な状況を知ることが出来て良かった。

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2025年08月30日

Posted by ブクログ

福島原発事故において
現場、東京電力本店、政府がどのように行動、発言、判断していたのか、その記録

小説のようにとても読みやすい
データが無い中で判断しなければならない状況、指令系統複雑化、情報錯綜
複数ある原発の連鎖的な事故対応のなんと難しいことか

歯に衣着せぬやんちゃな発言

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2025年04月22日

Posted by ブクログ

東日本大震災、当時は高校生。自分のことで精一杯で何も理解していなかったけれど、一歩間違えれば今頃首都圏は壊滅だったんだということ。それを、表面的なことではなくて実際何が起こっていたのか、誰が何を考えどう判断していたのか、詳しく知れて良かった。私一人にできることは限られど、これが広く知られることが大切だと思った。子供が大きくなったとき、正しく語れるようにしておきたいなと。

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2024年09月06日

Posted by ブクログ

全電源喪失、連続する水素爆発、中央制御室と免震棟と本店。時系列で丁寧に描かれる恐怖の数日。事故直後には不明だったこと、今も不明なこと、直後に広まった俗説の誤謬等々、あまり一般的な「事実」として認識されているとは思えない事柄の多さたるや。このまま「検証編」も読まねば。

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2024年04月21日

Posted by ブクログ

総じて言えるのは、原発はひとたび危険な状態になると、内部を伺い知ることは至難の業であり、推測を重ねていくしか人間にはできないということ。
幸運も重なり最悪の事態は回避できたものの、ここに出てきたような問題が今解決できているのかと考えると甚だ疑問。

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2024年04月09日

Posted by ブクログ

リアルタイムでニュースにも接していたし、映画、Netflixなど映像化されたものもいくつか観ていたけど、ハラハラドキドキ。そして、知られざる真実も。
ホント、一手、間違えていたら、どんなことになっていたか…

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2024年03月14日

Posted by ブクログ

 NHKメルトダウン取材班の、10年に及ぶ継続・網羅的な取材を基にした貴重写真を含む膨大な情報量‥‥圧倒的でした。これまで報道されていない事実に驚き、時系列で進む緊迫感に引き込まれ、改めて悪寒が走るような恐怖を覚えました。

 事故後10年を経て単行本が刊行され、文庫化にあたり「ドキュメント編」と「検証編」に分冊して刊行。本ドキュメント編は、単行本の第1部を基に、新たに判明した事実を加筆修正したとのこと。

 本書では、東電の中央制御室・免震棟・東京本店と首相官邸に対象を限定し、どう対応したかを再現しています。新事実が出てきて真相が変わるなど、正確な事故像が提示され驚きの連続でした。
 東京を含む東日本3000万人が退避を強いられる最悪シナリオが回避されたのは、幾つかの偶然が重なった公算が強い、とのこと。恐ろしい事実です。

 今更原発事故の諸悪の根源は何?誰?といった不毛な問いを発しても詮ないことですが、喉元過ぎれば‥という国民感覚、変わらない国のエネルギー政策にほ甚だ疑問が残ります。
 「検証編」を読もうか思案中です。何せ、事故後13年経っても核燃料デブリを取り出せない等、まだまだ不明点が多く検証が道半ばだからです。

 この極限の危機において、【人間は核を制御できなかった】ということ、それこそが「真実」であることに異論はないでしょう。
 変化が激しく先が見通しにくいこの時代の想定外の危機に対して、どう備え、どう向き合うべきなのか‥。この問いは、今後も私たちに投げかけられますね。

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2024年03月04日

Posted by ブクログ

NHKメルトダウン取材班『福島第一原発事故の「真実」 ドキュメント編』講談社文庫。

2021年に刊行された単行本『福島第一原発事故の「真実」』をドキュメント編と検証編に分冊し、加筆修正、文庫化。

使用済み核燃料の廃棄問題も解決せず、安全対策も不十分なままに見切り発車で始まった原子力発電が天災と人災により、大きな危機を迎えた。

ドキュメント編と言うだけに文章と写真や図解から恐ろしいまでのリアリティが伝わり、手に汗握った。

原子力発電所の安全神話が瓦解し、日本全国に点在する原子力発電所が核兵器にしか見えなくなった大事故。東日本大震災による津波により、全交流電源を喪失した福島第一原発は1号機、3号機、4号機が次々と水素爆発を起こし、東日本の滅亡の危機に直面する。実際には爆発しなかった2号機から漏れた放射能が最も多かったようだ。

電源を喪失したことにより原子炉格納容器、原子炉圧力容器の内部の状態が監視不能に陥り、まさに手探り状態で対応に当たるしかなかった。そんな中、危機管理の甘さ、情報伝達ミス、状況判断ミスなどが重なり、綱渡りでの対応が続く。そこに東京電力本店、さらには政府の横槍が入り、事態は一層深刻化していく。

吉田所長を始めとする福島第一原発の所員や関係会社の社員が最後まで最悪の事態を回避しようと知恵を絞りながら、被爆の恐怖と闘い、必死に原子炉に注水を続けたことは称賛に値する。

果たして人類が原子力を使用して良かったのかという疑問が付き纏う。原子力発電所の火災に備えて消防車を配備しているが、社員に消防車を運転出来る人間が居なかったこと、電源が原子炉の下部にあり、津波による被害を免れなかったこと、原子力発電所内に予備電源が準備されていなかったこと、などなど原子力発電所を運用する資格など無いように思えるのだ。

東日本が滅亡せず、福島第一原発周辺地域が放射能に汚染されただけで済んだのは、偶然の産物に過ぎない。

今後、廃炉に向けて、溶け落ちた核燃料デブリの取り出し、原子炉の解体といった作業が待ち受けているが、核燃料デブリは1gも取り出せていない。従って、核燃料を冷やすための注水は続いており、放射能汚染水が原発の敷地を埋め尽くす程のタンクに溜められている。いよいよタンクを置く場所も無くなり、放射能汚染水から一部の放射能を取り除く処理をし、住民の了解も無く、海に流し始めた。この異常な行為はいつ終わるとも知れない廃炉まで続くのだ。

地震大国の日本で未だに稼働を推進する原子力発電所。次はどこの原子力発電所が福島第一原発のような大事故を起こすのだろうか。

定価935円
★★★★★

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2024年02月23日

Posted by ブクログ

怒涛のノンフィクション
自分がその場にいて、ごく限られた情報しかない中で人の命を左右する判断をしていけるのか。。
吉田所長始め現場で奮闘された方々に改めて感謝致します。

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2025年09月04日

Posted by ブクログ

NHK取材班10年間の成果。

震災当時稼働していた1Fの1〜3号機は発震直後の緊急停止は成功していたが、津波による電源喪失により冷温停止状態に持ち込めず、燃料棒が過熱、圧力容器、格納容器内の温度、圧力が限界値を超えて上昇していく。

停電の暗闇で計器も動かず、原子炉内の様子も掴めない中、状況を把握できていない官邸や本社から横槍が入る。
1号機、3号機、4号機と立て続けに水素爆発を起こし、散乱する瓦礫や線量に、死も覚悟しつつベントと注水に挑み続ける現場要員たち。

最悪の場合、原発から半径250キロ圏内の避難もあり得たということだが、現実的にはどうだったのか。

電源喪失がすべての始まりとはいえ、当時の装備で行い得た最善の対応と現実はどう違ったのか。
その差が、被害の拡大にどの程度つながったのか。
本社、官邸はどのように支援、監督すべきだったのか。

本書の目的とは違うかもしれないが、そういった検証なしにこの事故の総括はできないのではないだろうか。

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2024年06月18日

Posted by ブクログ

これは誰もが覚えておくべき惨禍の検証記録であり、たまたま最悪の事態に進展しなかっただけだったことを明らかにしている。3月11日夜福島第一原発の全電源喪失が伝えられてから、翌日12日土曜日午後3時36分に一号機が爆発するまで、掲示板上で交わされていた危機を伝えるやり取りを思い出す。その日の夜に東京に住む息子家族に今後も原子炉のメルトダウン、不測の爆発が起こりうると電話で話して、孫たちを4月新学期が始まるまで避難させた苦い思い出がよみがえる。福島第一原発事故が想定されるべき危険として共有されていなかったことがこの事故の原因であり、現在も断層直下にある敦賀原発、そして能登地震断層近くの志賀原発など日本の原発の立地とその危険性について未だに十分に評価されているとは言いがたい。ぜひ多くの人がこの記録を読み、自分の問題として原発の存在する意味を考えてもらいたい。

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2024年03月28日

Posted by ブクログ

吉田所長は、津波で電源を失った時、
メルトダウンという事態を頭に描き「もうこれは駄目かな」と覚悟を決めていた。

中央制御室からの報告を受けて
「もう何も見えねー、飛行機を計器もエンジンも全部消えた状態で操縦しろと言われているようなものだ」
と思っていた。

事故当日、原子炉の格納容器内に水があり、燃料棒の上まで満たしていると水位計は示していた。
が、実際は水はなくメルトダウンが始まっていた。
事故後、水位計が正しく機能していなかったことが明らかになる。

電源喪失の恐ろしさを感じた。

電気は常にあるのが当たり前と思っているが、停電すると酷いことになる。
4月末にスペインで大規模停電があったが、この時稼働していた4基の原子力発電所はすぐに自動停止した。
なぜ止めるの?と思うだろうが、原子力発電所で使う電気は外部から取り入れている。
外部電源がなくなると、原子力発電所の制御ができなくなるのだ。

今の世の中、電気が使えなくなると生活が破綻する。
夜は明かりが消える。
エアコンが使えない。
電車が止まる。
エレベータ・エスカレータも使えない。
パソコンやスマホが使えない。
インターネットが使えない。
キャッシュレス決済ができない。
工場で物づくりができなくなるので生活用品がなくなる。

「ベント」は初めて聞いた言葉だった。
圧力が増し、格納容器の損傷を防ぐために蒸気を外部に放出する。
これを行うのは世界で初めてなので知らなくて当然。
放射能を含む気体の外部への放出なので、最悪の事態でないと行わない。
吉田所長は、ベントできたかどうかは分からないと言っている。

大混乱の中、1号機の爆発に続き3号機も爆発。
建屋は壊れていないが、白い蒸気を上げる2号機が怖かった。
ところが、運転を停止していた4号機が爆発する。

格納容器破裂の恐れが最も高かった2号機は運よく爆発から免れている。
後に格納容器と配管の接続部分が高熱で溶融し隙間が生じ、そこから大量の放射性物質が放出されたという見方が出ている。
この放射能が浪江町や飯館村などにひどい汚染をもたらしたと言われている。

誰がどのような言動をとったのかは「真実」が明かされるが、原子炉の状態については「推測」でしかない。
地震と津波で何が壊されどんな状態だったのかは分からない。
放射線量が高すぎて調査ができなかったからだ。

水が入っていると思っていたが、配管のどこかで漏れていて給水できていなかったり、
4号機の使用済み核燃料は、爆発で冷却水が失われたと思っていたが、実際は運よく水があったり、
温度計や気圧計も壊れて正しい値を示していなかったり、
何も信用できない中で対応に迫られた様子がよく分かった。

死を覚悟した作業の何が功を奏したのか、無駄だったのか、むしろ事態を悪化させる結果になったのか。
きちんと分析できていないようだ。
責任者と思われる人物は誰も罰せられていない。
誰にも責任を取らせないために、事故の分析結果も曖昧にしているように思える。

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2025年06月12日

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