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Posted by ブクログ
題材
超常現象
テーマ
人生は不思議な出来事に満ちている
最も伝えたかったこと
=テーマ
何が新しいのか
題材やテーマではなく、佐藤正午の書く文章そのもの
キャッチコピーは何か
「みんなには内緒な?〜人生は不思議な出来事にみちている〜」
「記憶の足音が聴こえる、数奇な半生の物語が再生される」
その他(心に残ったことなど)
すっきりする話ではない
謎に満ち溢れている
マルセイ、マルユウ、どっちがどっちなのかもわからなくなる
わからないことだらけ
でも、正午さんの文章が味わい深い、興味深い、ずっと読んでいたい
Posted by ブクログ
出来事だけを追うならーーUFOをめぐる子どもたちの空想、それが遠因となって起きた交通事故と、狂ってしまった彼らの未来ーー突飛とまではいかない、実際にありそうな筋書き。
しかし現実を一皮むいた裏側では、人智を超えた「不思議」が人生の歯車を動かしている。それを知ってしまったマルユウ、マルセイたち。彼らに何があったのか解き明かそうとする語り手・湊先生もまた奇妙な運命をたどる。
SFだと思って読むうちに、こんな不思議が本当にないとは言い切れない気もしてくる絶妙な浮遊感。
Posted by ブクログ
今年の冬、彼女はおまえの子供を産む
スマホに届いたメッセージ。
丸田君には、まったく身におぼえがない。
2人の丸田君のあだ名は、マルユウとマルセイ。
読み終えたいま、頭の中を整理して
再度、ページをペラペラとめくり確かめてみる。
やはり、ハッキリとしたことは見つけられなかった。
そこは曖昧でいいのかな。
変な言い方だが、曖昧が気持ちいい。
12章 その夏、
湊先生のエピソードがしっくりくる。
P364
〈凡人も、非凡な人間も、すべての人間が悲しかった〉
メモを見た先生。
〈なぜこれだけなんだ〉
そうなのだ。
私もこのひとことを言いたい。
(マルセイ、どうして)
すべて分かったと言わなくていい。
読み方は自由なんだ。
そういう安心感がある。
やはりいいな、佐藤正午さん。
今作も、待っていた甲斐があった。
Posted by ブクログ
『鳩の撃退法』では、どこまでが現実の話で、どこまでか小説の話なのか理解するのに苦労した。
『月の満ち欠け』では、誰が誰の生まれ変わりなのか理解するのに苦労した。
そして本書『冬に子供が生まれる』では、どれがマルユウでどれがマルセイなのか理解するのに苦労した。
でも仕方ない。作者がそういう風に書いているのだから仕方がない。小説は、一度で理解できるように書かなければいけないという決まりはない。あえてミスリードするように書いているとすれば、それは登場人物たちの混乱を、そのまま伝える意味もあると思う。
しかし、それでもやっぱり謎は残る。この小説の書き手である湊先生も真相は知らないし、マルセイとマルユウの証言も不明瞭だ。作者は古くからの文学の作法に則り、読者に解釈の余地を残してくれている。長くなるが、以下はこの作品に対する私なりの「考察」である。
〈要点整理〉
★マルユウ(丸田優)
子供のときから野球が得意
右利き左投げ
高校では野球部のエース
大学進学後、野球への興味を失う
現在は医療事務の仕事に就く
★マルセイ(丸田誠一郎)
ギターが上手く、高校で注目を集める
ワッキーと一緒にバンドを結成するが、上京後に突如脱退
大学を中退して職を転々とする
ビルの最上階から転落して死亡
〈考察〉
小学二年生(8歳)のとき、2人の丸田少年と佐渡君は、天神山でUFOを目撃する。それが地元の新聞に載り、ちょっとしたニュースになる。
(補足すると、新聞の取材は当然ながら目撃の当日ではなく、取材時に佐渡君は入院のため不在だった。だから写真には2人の丸田少年しか写っていない。)
高校卒業間近(18歳)、当時取材した記者が再び3人を天神山に連れ行く。しかし、そこで事故が起き、記者とバイクで先導した先生が死亡。3人だけが無事に助かった。
この事故のとき、マルユウとマルセイが「混線」した。明白な「入れ替わり」ではなく、本人たちも混乱していた。マルユウは真秀と親密な関係になりつつあったにも関わらず、大学進学後に高円寺まで尋ねてきた彼女を冷たくあしらった。そのときの彼の態度は明らかに「マルセイ」だったが、本人には自覚がないようだ。そのため、2人のやり取りはちぐはぐなものとなる。
マルユウが「マルセイ」になったとすれば、マルセイも「マルユウ」になっていたはずである。マルセイが突然バンドを辞め、マルユウも野球を辞めてしまった理由はここにある。そして「マルユウ」が乗り移ったマルセイと、真秀は結婚する。
マルセイが湊先生と再会したときも、彼は同時に「マルユウ」だった。しかし、本人はやはり混乱していて、「自分が自分じゃないような気がする」「マルユウの人生を代わりに生きてるんじゃないか」などと語る。
その後、湊先生を脳梗塞の危機が襲う。マルセイはそれを超自然的な力で救う。その力は右手首の痣がもたらしたものだった。この痣は、もともとマルユウのものである。それが18歳のときの天神山の事故で、マルセイに複写された。この痣には不思議なパワーが宿っており、マルセイはそのパワーを使ってバンドをメジャーデビューさせ、また真秀と結婚した。だが、パワーを使ったせいか痣は薄れていき、「マルユウ」は再びマルセイに戻っていく。
マルセイはその後ショッピングモールの駐車場から転落して死亡する。理由はわからない。事故なのか自殺なのかもわからない。ただ、マルセイは自分の死を予感していたようだ。
マルセイが語った「悪を成敗しました」というのも、何のことなのかはっきりしない。もしかしたら杉森先生が想像したように、真秀はN先生にレイプされ、子供を孕ってしまったのかもしれない。それを知ったマルセイが、ジェダイのフォースパワーでN先生を消し、お腹の子供を遺伝的な意味でもマルユウの子供に変えてしまったのか。それが冒頭の「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」につながるのか……。
いやいや、それは穿ち過ぎだろう。お腹の中の子供はマルセイの子で、マルセイは「マルユウ」でもあったのだから、「おまえの子供」でもあるという意味なのだ。そう思いたい。
この物語に正解はない。マルセイは死んではいなかったのか。そうでなければ、ボルボとメモの書き足しはどう説明すればいいのか。しかし、本文に書かれている通り、不思議というものはそれに気づいた者にとってのみ不思議なのだ。弁当箱の握り飯が柏餅に変わっていたとしても、「いやいや、自分が入れてきたのは柏餅だ」と言い聞かせてしまえば、不思議でもなんでもない。ボルボとメモ書きにしたって、他の人なら何か理屈をつけて説明してそれで終わりだろう。
人生は結局、無意味なのかもしれない。湊先生が誰に何をどう説明したところで、それを信じてもらうことができないとしたら、無意味ではないか。またマルセイやマルユウたちにとって先生は部外者でしかなく、真実を共有できる相手ではないとしたら、なんと無力なことだろう。しかし、無意味でも無力でも生きるしかない。それが人生なのだ。先生は、マルセイからそういうメッセージを受け取った。だから泣くしかなかった。シーシュポスのように、転がり落ちた岩を何度も押し上げるしかない。愚かしくも悲しい涙だ。
Posted by ブクログ
不思議な小説だった。
「僕は大事なことを忘れているかもしれない。〜そしてそのせいできっと誰かに歯がゆい思いをさせている。」p16
丸田君が自分の過去をうまく思い出せないように、登場人物の誰もが茫漠とした靄の中にいるようで掴みどころがない。
いっそすべて超常現象と言ってほしい。
大切な人に届かない手紙も、「おまえはいったいだれだ」p244 という父親の叫びも、母親の後悔も、教師の無力さも、何もかもUFOのせいですと言ってもらえたら、どんなに救いがあるか。
けれど、「不思議な出来事って〜手に取ってほらと見せられるようなものでもないです。たぶん普通の顔をしてもうそこにあるんですよ。」p354
どんなに言葉を尽くしても伝えきれない思い。理解されるはずもないと諦めている真実。他者に踏みこんでもらいたくない記憶。
人間は自分自身のことでさえも不確かだ。それでも誰かを理解したい、伝えたい、守りたい、と願うのもまた人間だ。
ラストの湊先生のとめどない涙は、そんな曖昧で不確かなすべての存在を「愚かしく悲し」p361 みながら、深く愛おしむ涙のように感じた。
朝日新聞
私の信頼する書評家、藤田香織さんによる紹介。
Posted by ブクログ
二人の登場人物を巡る数奇な物語。
周囲が同じ「丸田」という名前のしかも小学生まで似ていたという二人を混同しながら話すため、中盤くらいまで(わざとそのような書き方をしているのだが)どっちの話をしているのか混乱するような構成になっている。
いくら似ているからと言って間違えるのは流石にないでしょう、と思いながら読み進めると実は本当に入れ替わりのようなことが起きていた…という展開。
終始核心にはなかなか触れず、想像の余地を残したまま終わる。
SF的なテーマの中で、家族との別れによる孤独、虚しさといった苦しみが書かれているのが印象的だった。
Posted by ブクログ
著者独特の不穏な気配を感じさせながら、ストーリーが進んでいく。この感じが読み手(私だけ?)にはなぜか心地よい。
今回は名称が君で始まる捉えどころのない展開。
湊先生が登場して、ようやく輪郭が見えてくる。
マルユウとマルセイの不思議な同期と一人の女性を巡る愛の物語なのだ。
Posted by ブクログ
佐藤正午さんの作品を読むのは、“鳩の撃退法”を読んで以来の2作目でした。
まず第一に感じたのは、佐藤正午さんワールド!という感じでした。
小説を書いているのはこの物語の中の登場人物だという設定のため、これってこの書き手の主観が入っているのかな?とか、この書き手はどうやってこの情報を手に入れたんだろう、どこまでが確実な事実なんだろうということを考えながら読めるのが面白いです。
文中の、自分の人生ではなく他人の人生を代わりに生きている、というようなことが筆者のメッセージなのかなあと思いながら読みました。
惹き込まれる文章でおもしろかったです!