【感想・ネタバレ】[新訳]大転換―市場社会の形成と崩壊のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年12月29日

経済人類学の始祖カール・ポランニーの名前を知ったのは25年以上前、栗本慎一郎を通じてだが、その代表作である本書を読んだのはつい数年前のことである。労働、土地、貨幣という本来商品化に馴染まない生産要素の商品化が社会の存立基盤を掘り崩し、社会の自己防衛としての対抗運動を生み出す。それがファシズム、社会主...続きを読む義、ニューディールという三つの形態をとって表れた今世紀初頭までの歴史を描いている。

市場経済へのこの三つの対抗運動はいずれも国家主導によるものである。資本主義の暴走に歯止めをかけ、社会を防衛できるのは最終的には国家しかないのだ。これはいかにも逆説的だ。なぜならポランニー自身が指摘するように、資本主義は国家(正しくは近代国民国家)と手を携えて発展してきたからである。つまり資本主義とは国家の嫡出子であると同時にその鬼子でもあったわけだ。してみるとその矛盾がもっとも先鋭化するのは、それが自らを生んだ国家のコントロールを超えて肥大化していくグローバル資本主義と化す時であるのも当然である。この点で本書は今まさに最もアクチュアルな課題に関わってくる。ピケティの本が随分売れてるようだが、本書を読んでからでも遅くはない。

ポランニーにとって「大転換」とは市場社会の崩壊であり、以後経済システムが社会に命令することを止め、経済システムに対する社会の優位が回復されるはずであった。「産業文明を新たな非市場的基礎の上に据え直すこと」にいささか楽観的に過ぎる展望を語って本書は閉じられる。ソ連崩壊の半世紀前に書かれたという時代的制約は止むを得ないとしても、いったん市場が社会を覆い始めると、逆に社会が市場の自己調整機能に依存するようになり、単なる市場への対抗運動だけでは社会の優位は回復されないことを銘記すべきである。「スピーナムランド法」(18世紀末の一種の救貧法)によるベーシックインカムの保障が逆に賃金の下落を招き、その反動で堰を切ったように自由放任に流れて行った歴史を知るポランニーはそのことを理解し得たはずだ。

この関連で回顧的余談になるが、岩井克人が『ベニスの商人の資本論』の中で、パンダの親指のように進化の過程で退化したものを研究しても、現在の課題解決に直接役に立たないという趣旨の経済人類学批判をしたのに対し、栗本慎一郎が『意味と生命』の中で、岩井の「不均衡動学」こそ経済学と物理学の直結によるケインズ理論の復活であり、まさしく「ザ・リバイバル」だと猛反撃していたのが懐かしい。この点は経済人類学のアキレス腱であるに違いない。

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Posted by ブクログ 2023年07月03日

歴史的名著だが、難しいです。
でもなかなか面白い。19世紀の長い平和から一気に対立と混迷を深めていく20世紀以降の世界についての考察が明快で引きこまれる。

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Posted by ブクログ 2023年03月21日

星5つでも足りない、歴史的な名著。
19世紀100年の平和がなぜ破られ、2つの破滅的な世界大戦が起きたのか。
それはふたつの大転換によるのだとポランニーは言う。
ひとつは産業革命と資本主義の運動により、これまで社会の中に埋め込まれてあくまで社会活動の一部であった経済が自立化し、本来商品として存在して...続きを読むいるものではない労働、土地、貨幣が擬制商品として自己調整的市場原理に委ねられる(という大転換)ことになった。しかしそれは社会的な存在としての人間が耐えうるものではなく、そのムーブメントに対して人間を保護する動きが必然的に生じた。そのひとつが社会主義運動であり、いまひとつがファシズム(という第二の大転換)である。
自己調整的市場原理vs人間保護の運動。これは現代の新自由主義=グローバリズムvsコミュニタリズムあるいは伝統回帰、反グローバリズムという対立図式にも符合する。
今リアルに起きていることを明晰に理解する上でも、参照するべき書物である。

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Posted by ブクログ 2020年07月19日

歴史的名著をようやく読み終わった。経済社会をとらえる視点が斬新かつ明晰で、現代文明を批判する視点は極めて貴重である。

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Posted by ブクログ 2015年05月26日

院生時代から積読本。やっと読んだ。
市場と国家の関係について深い洞察がされている。
また読みたい(∵難解だったので…)。

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Posted by ブクログ 2011年12月25日

大転換は、経済の大転換、経済学の大転換、環境問題の大転換のさまざまな意味がある。
ポランニーは、社会経済学の先駆けで、玉野井芳郎が取り上げてきた。

槌田敦の資源経済学とともに、エントロピー学会の理論的な源泉の一つ。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2011年07月25日

現代資本主義がどのように生まれてきたかを述べる、ポラニーの大著。
A・スミスなど古典派は、「人間には交換性向がある」としたが、ポラニーは未開人の「互酬・再配分・家政」などの文化から、人間の交換性向は、後付に依るものだと結論づける。

ポラニーはマルクスの唯物史観を一定程度評価しているようだが、マ...続きを読むルクスが分析したイギリス資本主義でさえ、一定程度の社会保障が存在したことは、ポラニー曰く「分析されていない。」とする。エリザベス救貧法に代表される、貧民への給付である。これは自由主義者などから批判はされつつも、存続した。資本主義はつねに単独で存在するわけではなく、社会との密接な関連の中で生まれていた。もちろんマルクス研究者の中には、上部構造の反作用性を主張する者もいるが、どれほどまで、マルクスはプロレタリアの革命を期待したのか、少し疑問に思った。

またポラニーは「労働・土地・貨幣は擬制商品である。」という。本来売り買いされるものではない。むしろ生産の本元要素である、とする。囲い込み運動で労働者が大量に吐き出されたことも特筆されがちだが、土地もこの時期に売り買いされるようになった。

ポラニーは、このように「経済と国家の密接な関連」を紐解くことによって、その資本主義の「後天性」「植えつけられた物」であるとする意見を声を大にして云っている。新自由主義の台頭によって国家の経済への不干渉を主張するが、その不干渉の政策もまた国家によるものにほかならない。そもそも経済は国家の営みの中で生まれてきたかのようにも思えるし(未開経済)、そんなことは不可能なのかも知れない。認識を根底から改める必要性が、あるように思える。現に、ニューディール政策やファシズムの台頭は、自由主義経済への不安から生じた。
もう一度、その「資本主義の特殊性」のヴェールを取り、どのように成立していったのかというのを、読み取る必要がこの本からありそうだ。

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Posted by ブクログ 2009年10月13日

本書は、「19世紀に全盛となった市場経済というひとつの特殊な経済システムのもつ社会的な意味をあきらかにすること」(マッキーバー) にある。その結論は、近代の市場経済的資本主義は、人間の本源的要素である土地・労働・貨幣を商品にすることによって、市場に従属させた。それは、人間関係を解体し、自然を破滅させ...続きを読むるものであった。今日の市場主義をすでに半世紀前に批判していた書    

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Posted by ブクログ 2011年07月19日

新訳、ですって。はたして、それに価値があるものなのかどうか?栗本慎一郎にそそのかされて、経済人類学なるものに手を染めたのは、若気の至りというのは、少し言い過ぎかもしれませんが、結局は経済学なんて無能で、何の役にも立たないんだと諦観してしまったのは、あまりにも性急だったかもしれません。マルクス主義経済...続きを読む学とケインズ経済学という相容れないものに惹かれて・・・・その両方でも片付かない現代の問題は、いったいどうするのだという問いに誰も答えてくれないで、ただ誤魔化している情況の時に、ポラニーの語り口は魅力的でしたが、切り口は面白くてワクワクしたものでしたけれど、実際にはあまり役に立った覚えはありません。その後も、さじを投げたにもかかわらず、ガルブレスやシュンペーターやスーザン・ストレンジなどと、気ままに興味を示してきましたが、やはり大学で講釈される死体の分析などというものは、それだけでしかないということです。つまり、1929年の経験があって人類の英知を集めた様々な試行錯誤の研究が行われたにもかかわらず、何故79年を経て去年のリーマンショックやサムプライムローンの問題で世界的大恐慌が再び起こったのか、ということです。ひょっとして、株式や金融に携わる人々、経済学者はもちろん独占資本家やありとあらゆる関連する者たちが、いま現在の資本主義の動向をとらえられなくなっていることの証左であるのでは?あっ、ひとつ断っておきますが、私は大学などという強制された制度へは行っていません。授業中に5分間に一度くらい笑わせてくれるものや、受けたい教授の講義を全国から寄せ集めてくれるのなら行きたかったのですが、それは無理というもので私の方から拒否しました。国公立や有名私大4つを受験してすべて合格しましたが、私の方から不合格を突きつけてあげました。そのかわり私自身がプロデュースして、私自身の大学を作りました。関心のある分野の、現代において最高の教授陣を揃えて、たったひとりの自主講座です。とまあ恰好つけていますが、要は独学ってことですね。決まった授業時間や試験もなんにもないのですが、やったからには完璧に近い形にしないと気が済まないので、機会をつくって他流試合というか、各分野の詳しい人と話したりして自分の力量を試していますが、今のところひどくガッカリしたということはなかったので、概ね成果は出ているのかなと思っています。考えてみると、これって、偶然にも安藤忠雄がやったことと同じなんですね。

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Posted by ブクログ 2024年01月03日




東洋経済新報社 カールポラニー 「 大転換 」

自由主義経済(市場主義経済)を批判した国際経済学の本。訳者の解説や註解も充実しているが、かなり重厚な本

自由主義経済により、人間が市場により処理され、環境が破壊され、貨幣不足から企業が清算し、人間と社会が破壊されるという論調


自由主義経済...続きを読むにより、経済のなかに社会が取り込まれている現実を見ており、人間や社会は自由を喪失していることを 批判している


著者の結論は、政治主導や計画経済を道具として使うことを 複合社会における自由としたもの。人間の自由が確保された社会のなかに経済を機能させるということだと思う



「十九世紀文明は崩壊した」から始まり、十九世紀文明下の四制度(バランスオブパワーシステム、金本位制、自己調節的市場、自由主義的国家)が 機能不全であることをテーマとした衝撃的な内容


市場の自己調節を自由にすることにより、市場が労働・土地・貨幣を商品とみなして支配し、人間が市場により処理され、環境が破壊され、貨幣不足から企業が清算し、人間と社会が破壊されるという帰結


著者の結論は、複合社会における自由の確立〜豊かな自由を創造する意志により、権力と計画化を道具として使うこと


ファシズム、社会主義、ニューディールなど社会的な大変動の源泉は、自己調節的な市場システムを打ち立てようとした経済的自由主義のユートピア的試みによるものと批判


ファシズムの根源は市場経済システムの機能不全にあるとし、ファシズムは、民主的制度の破壊を伴う市場経済の改革であった〜人間の自由と平等、人間相互の連帯は破壊されるとしている


十九世紀より前の時代に、生産と分配が秩序が維持された行動原理
*互報〜対称性に助けられて機能
*再分配〜中心性をもつ場合に機能
*家政〜閉ざされた集団で機能


十九世紀文明
*1815年から1914年まで100年間の平和という現象を生み出した〜バランスオブパワーの成果
*十九世紀の歴史は、市場の拡大とそれに対する社会の抵抗という二重の運動
*十九世紀文明の崩壊は自己調節的市場とそれに対する社会の基本的な要求との葛藤〜社会が経済システムに優位に立つ

 
ロバートオーウェン
*人間は市場社会に存在する悪を取り除かなければならない
*悪を取り除くためには、何らかの強制が必要〜それは人間の自由には限界があることを意味












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Posted by ブクログ 2013年09月23日

本書は近現代に至るまでの自由市場を批評した政治経済学本である(但し、ここで言う政治経済学は、経済学の中の一分野である政治経済学ではなく、政治と経済を論じる学問という意味での政治経済学である)。たくさんの歴史的な実証から、筆者は自由市場というものを批判している。
結構知らない事だらけだったので概ね楽し...続きを読むく読めた。しかしながら、欲を言えば、(本書の趣旨ではないのかもしれないが)自由市場のもたらした良い面などについてもしっかり評価した上で、自由市場がなぜダメなのかを論じてほしかったと思ったりもする。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2013年02月13日

この時期読み返してみました。

本書は、19世紀文明(自己調整的市場を母体にバランス・オブ・パワー・システム、国際金本位制、自由主義国家)の誕生とその興隆、そして20世紀前半におけるその滅亡の物語です。
ボリューム/お値段とも半端では有りませんが、内容は「目からウロコ」、編集は「良」です。

【「目...続きを読むからウロコのご紹介】
○滅亡の原因を「自己調整市場」という考え方がまったくの「ユートピア」であったとしている。
○自己調整市場の制度は、社会の人間的存在と自然的実在を壊滅させること無しには一瞬たりとも存在せず、「経済人」に依拠する人為的な社会は、19世紀のイギリスが生んだ突然変異であるとしている。
○自然で生来的な社会は、「互酬」「再分配」「家政」「交換」の4つの原理で経済をモデル化する必要があるとしている。
○近代の経済学は、擬制商品(労働、土地(自然環境)、貨幣)が本来商品と全く同じように機能すると言う間違った前提に立っているとしている。

最近の「経済学の教科書」にはお目にかかれない「着眼点」です。

大変難しくボリュームのある本なのですが、「序文」「紹介」「訳者のあとがき」だけでも全容が把握できます。さらに各章の先頭ページに良くまとまった「訳者による梗概」が有ります。

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Posted by ブクログ 2012年07月25日

グローバル化とともに拡大する自由。しかし、自由の拡大に見合うだけの幸福感を手に入れているか。実感としてはいつも余裕なく急き立。てられ、人と人の関係もぱさぱさな殺伐とした味気ないものになりつつある。

カールポラニーは、共同体の牧歌的結びつきを解体していく市場経済を「悪魔のひき臼」(イギリス詩人ウィリ...続きを読むアム・ブレイクの言葉を引用)と呼んだ。

そしれ、われわれにとってのもうひとつの大きな重圧、猛烈に速い「変化のスピード」。市場のスピードにあわせて、組織も人間も変化することを求められる。それでいて、人は「不動の価値」を求める、愛や宗教・・・。変化を求めながら、変化しないものを求める・・というそう反する欲求に精神を引き裂かれている

(Refer from 悩む力)

文明が進むほど、人の孤独感が増し、救われがたくなっていく・・
「自我」「自由」「マネー」「働く」「知性」・・・
苦悩する人間、激流のなかで本質を見抜こうとする姿勢、そこに生まれたマックス・ウェーバーの社会学と夏目漱石の文学に学ぼうではないか。

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Posted by ブクログ 2009年10月04日

●未読
「週刊東洋経済2009.07.25号」ブックレビューで紹介

市場は社会に何をしたのか?
自己調整的市場のユートピア性と破壊性を文明史的に解き明かした政治経済学のモニュメント!
待望の新訳完成。

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