あらすじ
中国人民解放軍の“実力”を徹底解剖
中国は本当に台湾に攻め込むのか?
メディアを賑わせる「台湾侵攻シナリオ」を名物軍事アナリストが一刀両断、数々の疑問に答える!
「今後6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」
2021年、米インド太平洋軍司令官(当時)のフィリップ・デービッドソンによる発言を契機に、中国による「台湾侵攻」への警戒感が世界的に高まっている。
日本でも2023年7月、民間のシンクタンクが台湾有事を想定した机上演習を実施し、国会議員や元政府高官らが参加。
今にも中国が台湾に攻め込むかのごとく、議論が進められているのだ。
こうした風潮に異議を唱えるのが、軍事アナリストの小川和久氏だ。
小川氏は「日本国内における台湾有事の議論は多くが的外れなもの」だと指摘し、中国の軍事力を正しく把握したうえで議論を進めるべきだとする。
「台湾有事は2027年までに起きるのですか?」
「中国軍が武力行使するのはどんな場合?」
「中国はなぜ軍拡を進めているの?」
本書では「台湾有事」を巡る数々の疑問に、小川氏がQ&A方式で分かりやすく解答。
中国の人民解放軍の“戦争力”を解剖したうえで、今後の日本の安全保障戦略についても考える。
●目次
第1章 台湾侵攻シミュレーションを検証する
第2章 日米の報告書が描く人民解放軍
第3章 人民解放軍の実力を解剖する
第4章 日本はどう備えるか
第5章 中国の野望をいかに挫くか
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Posted by ブクログ
「中国が台湾に侵攻するのではないか」という危機感が高まる昨今、本当のところはそのリスクはどうなのかと考えた時、「中国人民解放軍の実力は台湾侵攻を実現できるレベルに到達しているのか」という点に帰着します。その点についての客観的な分析はなかなか新聞、テレビでは報道されない中、私自身が”この人の発言は説得力ある”と思っている著者の小川氏による現状分析がこの本です。いくつか要点を抜粋します。
1)中国海軍は相次いで空母を就役させているが、空母が本来の機能を発揮するには、艦載機の運用ノウハウが重要で、夜間・荒天時の発着艦などのノウハウはまだまだアメリカ軍に及ばない
2)空母を安定して運用するには空母を護衛する対潜水艦作戦が重要だが、日米の対潜水艦作戦能力に中国は及ばない
3)中国空軍の戦闘機配備数はアジア地域でアメリカ軍を凌駕しつつあるが、戦闘機を安定的に運用するために必要な給油機、早期警戒機等の配備数が少なく、バランスを欠いた状況になっている
4)台湾首都台北を制圧するために必要な武器・弾薬・人員を台湾に上陸させるだけの輸送力は確保できているようだが、それだけ大規模な上陸作戦を展開する能力については、上記の中国海軍・空軍の能力から判断して現状では不可能
確かにここ数年で人民解放軍の装備はかなりの近代化が進みましたが、ハードの整備が進んでも、それを運用するソフトが伴わないとカタログデータ通りの能力は発揮できない、というのが著者の主張です。
という感じで、数年の間にこれらの状況が一気に変化するとは考えにくく、”今すぐ”に台湾侵攻があるというのは考えにくいようです。しかし著者は人民解放軍自身が上記のウィークポイントを認識しており、それを解消する努力を重ねている点については「侮れない」と評価しています。
一方、もっとお粗末なのが日本の防衛に対する姿勢で、どのような危機を想定し、それを防ぐためにどのような装備を整備するのか、という長期的な視野が欠けている上、特にサイバーセキュリティに関する対応のお粗末さは「各国の笑いもの」レベルとの事。
中国人民解放軍、アメリカ軍、自衛隊の現状とその能力について、非常に分かりやすくまとめてあり、過度に危機感を煽ったり、楽観論に偏ったりせず、説得力のある内容だと感じました。