あらすじ
東京郊外の高級住宅が並ぶ丘の上を毎日観察する老人の狙いは何か?
また都心のデパートや地下街に出没するピエロの正体は?
そして江戸川乱歩の古い写真を持つ老女の素顔とは?
現代の東京に表出した奇妙な出来事はやがて四十年前の雪の北海道で起きた惨事の謎解きに結集する。
著者が周到に企みをほどこした驚異の野心作を改訂完全版として新装復刊、著者による巻末解説も収録。
2024年春公開予定映画『乱歩の幻影』を収録。
江戸川乱歩の知られざる秘密に迫る「乱歩の幻影」。
島田荘司のリアルな体験から発想された名作がついに映像化!
出演 結城モエ 高橋克典 山口大地 嘉島陸 小貫莉奈 高橋努 加藤雅也(友情出演) 常盤貴子
原作・脚本・音楽 島田荘司
監督・プロデュース 秋山純
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Posted by ブクログ
1987年に出た本らしい。
ということは、タイトルの「網走発」というのは、当時全盛だったトラベルミステリーを踏まえてということなのだろう。
ただ、この改訂版が出たのは、3話目(本の中では三章と表記)の「乱歩の幻影」の映画化がきっかけだったようだから。
であれば、これを機会にタイトルも「乱歩の幻影」にした方が時代に即してたんじゃないのかな?
もっとも、江戸川乱歩が関係したお話は、その「乱歩の幻影」だけだけど。
4つのお話で構成されている、この本だが。
それは、あるお話に出てくる登場人物が、別のお話の主人公になっていたりするからで。
だからなのか、第一話、第二話…ではなく、一章、二章、三章、四章という風に表記されている。
ただ、あくまで、あるお話の登場人物が別の章の主人公になっていたりするというだけで、一章〜四章全部を貫く何かがあるわけではないし、個々の章のテイストもビミョーに違う。
短編集というと、最近は連作短篇集みたいに最後のお話で全話がつながるカラクリが示される、“映え”る「芸」を持て囃す傾向にあるが。
個人的には、求めているのは面白いお話であって。
ツマンナイ映え芸に心血注ぐんなら、面白いお話を一つでも二つでも増やしてほしいんだけどな?と思っていることもあり。個々のお話のテイストがビミョーに異なる、この連作短篇集(著者としては一つの長編として捉えているのかもしれないけど)はよかった。
それこそ、「一章 丘の上」のテイストで全話通されたら、あまりいいイメージは持たなかったんじゃないかな?
そんな「一章 丘の上」だけど、こういう「短編」として読むんなら全然面白いお話だ。
ある意味、今風の「イヤミス」テイストのお話wなんだけどー、あ、「イヤミス」って、もしかしたらこういうのを言うんじゃないのかな?
日常の人間関係の中で感じる他人からの「圧」の煩わしさを描いたミステリーが「イヤミス」というんだとしたら、これは違うんだろう。
自分がこれを「なんか嫌な話だな…」と思ったのは、ストーリーの暗転(取り返しのつかなさ)にあるんだけど。
主婦が窓から毎日みかける近所のお爺さんが笹の葉を集めているという謎の行動に疑問を持つという、自分が最も好きなタイプのお話が悪い方に転がってしまうから嫌だなぁーと思うのもあるんだろう。
「二章 化石の街」も、新宿の地下街に出没するピエロがしていることに疑問を持った主人公がそのあとをつけていくと……、みたいな自分の好みのお話の始まり方なのだが。
これはストーリーもさることながら、出てくる所が全部知っている場所で(職場が都心にある人ならほとんど馴染みがある場所だと思う)。
ピエロがそれをしている情景がパッと浮かぶところがよかった。
「三章 乱歩の幻影」も舞台が馴染みの場所だったりするんだけど、これは最初の乱歩云々がちょっと長かったかな?
まー、「乱歩の幻影」だからしょうがないんだけど(^^ゞ
ていうか、中盤以降はすごく面白い。
「素人が壊せるもの?」とも思うけど、まー、それはそれw
「四章 網走発遥かなり」は、一章〜三章のお話と比べると、個人的にはイマイチかな?
いや、面白いのは面白いんだけどね。
あの辺は学生時代に行ったことがあるから、風景のイメージも浮かぶし。メロドラマの部分もいいと思う。
もしかしたら、トリックの部分がちょっとクドいと感じちゃったのかもしれない。
これは「改定完全版」で、最後に「改定完全版に寄せて」という23ページにわたる著者の解説がついているんだけど、これが興味深くて面白かった。
前に著者の『火刑都市』を読んだ時、当時流行っていた、旅情を売りのトラベルミステリーが求められるからこそ、著者が書きたい本格ミステリーとの兼ね合いで生まれた傑作(自分はそう思う)なんだと思うんだけど、そこにある東京という都市へのこだわりがイマイチわからなくて。
当時の変わっていく東京の風景と情緒への憧憬をミステリーに落とし込みたかったのかな?なんて思っていたんだけど、なるほど。著者は当時、都市論みたいなものに傾倒していたということなのか!
そういう背景がわかると、『火刑都市』がどんな風な構想のもとに書かれたのかも理解しやすい気がするかな?
その他、「改定完全版に寄せて」では結構愚痴が書かれていたり(^^ゞ
また、「乱歩の幻影」に出てくる本のことなんかは、江戸川乱歩のファンからしたらすごく興味を引く話だと思う。
Posted by ブクログ
世田谷区成城。世間では高級住宅街というイメージが強い場所だが、そのはずれ、〈私〉は、世間のイメージからはほど遠い建売住宅が密集した地域に住んでいる。成城学園前駅方向は小高い丘になり、丘の中腹から高級住宅街がはじまる。だから私は、荒んだ気持ちを抱えながら、そのあたりを『丘の上』と呼んでいる。〈私〉と同じように〈丘の下〉に住むとある老人がいて、認知症の疑いもあるその老人は奇行を繰り返していた。老人の真意とは――「一章 丘の上」
ということで、本作は独立した短編としても読める三つの短編と、その短編が繋がり、ひとつの大きな輪をつくる「終章 網走発遙かなり」の全四章で構成された物語になっています。一個の短編として一番印象的だったのは、謎めいたピエロの行動を追う「二章 化石の街」で、意外な犯罪計画が浮かび上がってきて、その大胆さも含めて、とても面白かったです。
そして、すべてが繋がり、終章にいたって、ひとりの人間の生きた証が立ち上がるラストは、鮮やかな情景とともに心を打たれるものがあります。
Posted by ブクログ
島田荘司氏の作品として突出した高評価ではないのですが、それでも★5とせざるを得ません。最大の理由は、圧倒的な文章力です。特別美しい言葉や巧みな表現が際立つ訳ではないのですが、実際はそれらが散りばめられているのにもかかわらず、余りに物語に引き込む力が強すぎて気が付きません。文脈、表現、句読点の位置などに不自然さや引っかかる所が無さすぎて、目から入った瞬間にイメージに変換されてしまうからです。
氏の作品には人の弱さや社会の影の部分を書いたものが多い印象ですが、それらをぶち壊す個性と魅力を持つ探偵を合わせることで万人に愛される作品へと昇華されているのが御手洗潔シリーズかと思います。それと比較すると、この作品の読後感はあまりいいものではないですし、読んでいる間の“やがては御手洗潔に癒される”という安心感もありません。それでもページをめくる手が止まりません。
もちろん★5なのは文章だけでなく、ストーリーやミステリとしても、しっかり楽しめます。また後味もそれほど悪いものでもないので、あまりネタバレに触れる前に読むのが正解かと思います。
Posted by ブクログ
4編の短編であるが、奇妙な行動を
する近所の老人、ピエロ、乱歩に魅
せられた女性の3つの短編が最終章
に繋がる。
乱歩のストーリーは、今年24年に
映画化されるという。
映画化に当たり、発表された俳優
をイメージしながら読むと、俳優
のイメージに合うか想像しながら
楽しめた。
一章の、家族が破滅に向かう描写
は、島田荘司独特の暗さがあって
良かった。
映画は、観ておこうと思った。
Posted by ブクログ
成城で完結する短編集かと思いきや、里美家のファミリーヒストリーみたいな話だった。というか笠井老人の人生の話?
乱歩の友人について書かれたエッセイが実在するのは驚いた。
Posted by ブクログ
文庫が再販されたことを契機に、再読。前最初に読んだ時から好きなストーリー展開。
化石の街は、最初に読んだ時池袋西武の書店の記憶がはっきり残っていたので特に印象深く覚えていた。街中が深海になる、という感性も好き。