あらすじ
『独立愚連隊』等で知られる鬼才、岡本喜八。発掘された若き日の日記を紐解き、その実像を通して戦中派の心情に迫るノンフィクション。
岡本喜八は一九二四(大正十三)年生まれ。
『独立愚連隊』『日本のいちばん長い日』『江分利満氏の優雅な生活』など、
戦中派の心情をそこかしこに込めた映画を撮り続けた職人肌の監督として知られる。
陸軍予備士官学校で終戦を迎え、戦後映画界に復帰すると、
戦争、時代劇、SF、青春群像など、バリエーション豊かで喜劇性にあふれた作品をつくった。
喜八が生涯を通じてこだわり抜いた戦中派とは何なのか。
新たに発掘された若き日の日記をひも解きつつ、映画監督・岡本喜八の実像と戦中派の心情に迫るノンフィクション。
はじめに
第一章 米子
第二章 なぜ死なねばならないのか
第三章 早生まれ
第四章 戦中派
おわりに
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Posted by ブクログ
前半少しだるかったが、後半、そこで得た時代背景や状況をベースに、喜八の心情や作品の解釈へと迫っていく筆致に感動を覚える。
自分が何故、喜八に惹かれるのか、自分が何を大切にしたいと考えているのかを明らかにしてくれる。
様々、この本を読んで、喜八の姿勢を身に着けたいこと、考えること・探究したいことが出てくる。
【喜八から学びたいこと】
・「喜劇っていうのは、だから、本当に痛烈だなって思う。見ているときは、可笑しくて仕方ないんだけれど、おかしゅうて、やがて悲しい・・・、とそういうものを、どうしてもやりたい」
・人の心の中にあるものを、手艇的に大事にしてくださる方でした。それは相手が二十歳そこそこの青二才であっても、人のこころを絶対に否定しようとはならなかった。
・監督さんは、その場にいる立場の一番弱い人のことをずっと気にかけていらっしゃいます。常に一番弱い人の味方をされましたので。
・五木寛之の喜八論(p340):岡本さん、温かいところがあるからね。人間に対して絶望的な、皮肉な眼をもてない。
・妻みね子さんの評:彼の喜劇は、人を笑わせようとしているのではなく、一生懸命やっていることがおかしいってこと。(中略)彼は根本で、人間の苦しい時の素直な姿や、人を温かく見ていたから。人間の一生懸命やっている姿は立派なものではない。戦争がそうでしょ。
そのほかにも、同じ戦争を経験している人達の間にも、ジェネレーションギャップが、より深刻なギャップがあったことを知れたことも、大きな収穫であった。今の若手と我々のギャップなどという気持ちと、世代間のギャップがあることは当たり前という観点を得る。
筆者が、戦中派の祖父の思い出や思慕を元に、戦中派への関心を持ち、そして、祖父の語らなかった心情を喜八作品を通じて感じていると述べている。私も祖父がシベリア抑留を経験した戦中派の人だったので、まさに同じ慕情と喜八作品への愛着、喜八の眼差しに惹かれているのかも知れない。そして、この著者への大きな共感を覚える。
良質なノンフィクション。
社会学でのフィールドワークを元にした、エスノグラフィとルポタージュとの関係などを学んだ上で、こうしたノンフィクションのアプローチも学びたい。
Posted by ブクログ
まさに、「戦中派」についての本である。
この本が興味深いものになったのは、岡本喜八の学生時代の日記が発見され、著者がそれを読むことができたことが大きいようだ。例えば、この日記により、ある映画を山田風太郎が同日同劇場で観ていたことが判明する。
この日記何とか書籍化されないものですかね。
個人的な事ですが、私の父は岡本喜八より一月前の生まれ、即ち同学年の同級生よりも一年遅れで徴兵検査だった。このため、海外の戦地に行かされることなく、千葉県で本土決戦要員として訓練中に終戦になったという経験だった。これにより、私もこの世に存在することができたという事らしい。