【感想・ネタバレ】文豪と女 憧憬・嫉妬・熱情が渦巻く短編集のレビュー

あらすじ

無垢な少女から妖艶な熟女まで一一。鴎外、花袋、荷風、漱石、谷崎、安吾、太宰たちが、憧れ、翻弄された女性たちを描く。女性は思春期を経て、恋愛・婚約・結婚に。悩みや荒みを抱えながら、やがては倦怠または不倫へと至ることも? 時代の変化に応じて、社会的自立や自覚が芽生えた主人公の生き様からは、近代日本の「女の一生」がみえてくる。
(収録作品)
森鴎外「杯」
田山花袋「少女病」
立原道造「白紙」
永井荷風「庭の夜露」
山川方夫「昼の花火
泉鏡花「雪の翼」
夏目漱石「硝子戸の中」
中島敦「下田の女」
谷崎潤一郎「青い花」
芥川龍之介「なぜソロモンはシバの女王とたった一度しか会わなかったか?」
高見順「強い女」
堀辰雄「辛夷の花」
坂口安吾「いずこへ」
久生十蘭「姦」
太宰治「葉桜と魔笛」

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Posted by ブクログ

ネタバレ

ファム・ファタールだとか運命の女だとかいって、悪女とか、男を破滅させる魔性の女とかのニュアンスを持つが、なに、冷静に考えれば女と男は同時に転げ落ちるのであって、どちらがどちらを向上させもしなければ、どちらがどちらを引き摺り落としもしないはず。
が、「サロメ」をはじめ、19世紀末から20世紀初め頃の世紀末芸術で大々的に取り上げられたからには、その影響下にある文豪が、限られたフレームワークの中で、実人生と夢幻が切り結んだ際に、こういう作品をものしたことは、2025年に安易に切って捨てるべきではない。
編者の詳細な解説とともに、楽しめた一冊。

■森鴎外「杯」
目を瞠るようなお耽美。象徴、寓話。
■田山花袋「少女病」★
マジキショワロタ。
他人事ではない……。
しかも作家自身への言及が過酷で、マゾっぽくてまたキショワロタ。
さすがフトニスト。
発表は同年らしい。
この自己対象化コメディセンス、意外と西村賢太に通じるのでは。
■立原道造「白紙」★
美しすぎる散文。詩。
■永井荷風「庭の夜露」
かなりマイナーな作品らしい。
茫洋とした短編だが、確かにこの本のこの部分に位置するのはふさわしい。
■山川方夫「昼の花火」★
中島らもいわく、〈だから「あいつも生きてりゃよかったのに」と思う。生きていて、バカをやって、アル中になって、醜く老いていって、それでも「まんざらでもない」瞬間を額に入れてときどき眺めたりして、そうやって生きていればよかったのに、と思う。あんまりあわてるから損をするんだ、わかったか、とそう思うのだ。〉
作者にとって額に入れておきたい瞬間だったのでは。
ホロニガ抒情、読者へのお裾分け。
■泉鏡花「雪の翼」
文意が読み取れず、集中できず。
■夏目漱石「硝子戸の中」★
6~8回の抜粋。
既読なので再読のはずだが、忘れていた、にもかかわらず、ひどく感動してしまった。
たぶん、初読の二十歳ごろにはタナトスに接近していたのに、中年に入った今は身近な人にあてられて生のほうを向いているから、「そんなら死なずに生きて居らっしゃい」が染み入ったのでは。
■中島敦「下田の女」
作者18歳で、初めて活字になった作品。
振り回されたい……。
■谷崎潤一郎「青い花」
女に服を買ったというそれだけをここまで。文体芸。
語り手の岡田と、あぐり。
2年後に「痴人の愛」へ。プロトタイプ。
■芥川龍之介「なぜソロモンはシバの女王とたった一度しか会わなかったか?」
編者の解説にもあるが、かなりハイコンテクストに読める作品。
■高見順「強い女」
たった3ページ。
■堀辰雄「辛夷の花」
マジで好きな小説……と嬉しくなったが、実は12年前に「大和路・信濃路」(新潮文庫)で既読なのだった。
■坂口安吾「いずこへ」
再読。
デカダンスとエシカルの綱渡りのような両立!
■久生十蘭「姦」
2020年に、河井克夫の漫画化「久生十蘭漫画集 予言・姦」で既読のはずなのに忘れていた。
■太宰治「葉桜と魔笛」
再読。
◇解説 長山靖生
25ページに渡る、力作。

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2025年05月14日

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