【感想・ネタバレ】ボードゲームで社会が変わる 遊戯するケアへのレビュー

あらすじ

今流行するボードゲームこそが、属性や能力主義による社会の分断を乗り越える「共存の哲学」である? 気鋭の評論家が各分野の専門家を招き対戦しつつ、普及活動のパイオニアと共に考える。

三宅香帆、辻田真佐憲、安田洋祐、小川さやか、安田峰俊、三牧聖子、
豪華6名の各分野の第一人者による、ボードゲーム体験記も収録!

「そういえば、小さい頃『人生ゲーム』をやったっけ」
「最近、妙に色々なところで見かけるけれど、流行っているの?」で終わっては、もったいない!
プレイする束の間、「個人の属性」も「能力の違い」もリセットする、
遊戯(ゆげ)の力が、
必ずこれから、誰もが一緒に〈楽しめる〉社会をつくっていく。

ブームの深層を読み解くーー
「ボードゲーム哲学」、ここに誕生!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「「ボードゲームを思想にする」ために」(p3)作られたという本書。その言葉に違わず、「ボードゲームを思想にする」ための数々の試みが、書籍全体にちりばめられており、その切り口そのものが興味深い。
文化人類学者・小川さやかさんの『 ハイソサエティ』論や、歴史学者・辻田真佐憲 さんの『主計将校 』のプレイレポート)など、様々な分野の研究者・専門家がそれぞれのアカデミックな知見と文体で「ボードゲームをプレイする」経験を記述する第2章からは、「ボードゲームを思想にする」ために我々はいかなる言葉で、何を語ることができるのか、という問いを突き付けられる。
また、與那覇潤氏と小野卓也氏の二人が、それぞれに異なる言葉を重ねながら、ボードゲームをプレイすることの「本質」を語ろうとする対談(第1章・第3章)も面白い。與那覇氏が、自身のゲームプレイ経験に基づく経験を分類・整理しながら言語化すると、それが即座に、インド哲学者であり住職でもある小野氏によって、宗教的な実践と結びつけられその実践の意味が重層化されていく。もちろん、ボードゲームをプレイするときの経験を語るための言葉、それを抽象的に意味づけ価値づけるための言葉はさまざまだが、そのひとつのありよう、その可能性のようなものを垣間見せてくれているように思う。

***
もっとも印象に残ったのは、與那覇潤「ボードゲームはなにをわたしに考えさせたか――リワークデイケアでの体験から」(第4章)での、「人狼」についての考察だ。與那覇氏はリワークデイケアで何度も「人狼」のファシリテートをしてきた体験をもとに、本来、「遊び」であったはずの「人狼」が「必勝法」の持ち込みによって「作業」になってしまうことを指摘しながら、それを避けるために私たちができることのひとつに、「長くつづけること」を挙げる。つまり、同じメンバーで対面で集まりながら長く続けていくことによって、お互いのことがわかってくること、お互いのことを気にかけあうことで、みんなでみんなが楽しめるようなゲームプレイのありかたができあがってくる――それによって、私たちはもう一度、「人狼」を楽しめるようになる。
與那覇氏は、ここに、「社会思想としてのボードゲーム」の可能性を見出す。
このことは、同じメンバーで何度も何度も同じゲームをプレイする機会そのものが珍しいなか、どうしても見過ごされがちだ。嫌な思いをするプレイヤーがゼロになるように、ゲームシステムのルールを複雑にすることでみんなが楽しめるようにすることが、ベストソリューションだと短絡的に思われがちだ。でも、そんなかたちでファシリテーターに依存しなくても、私たちは、ゲームを自分たち自身で楽しめるようにするための場を、自分たち自身で作り出せるはずなのだ。
ボードゲームが、そんなかたちで、私たち自身がその場にいる人たちと皆で楽しみあえる場をつくる「練習場」になるのだとしたら、そういうプレイの場を易々と放棄するのは、あまりにももったいない。

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2024年01月10日

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