【感想・ネタバレ】ザリガニの鳴くところのレビュー

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Posted by ブクログ 2024年05月12日

湿地帯に静かに佇んでいる小屋があり、そこに貧しい一家が住んでいたのだが、父親の暴力から逃れるようにして、母親を筆頭に6歳ほどの少女を残して兄妹も家を捨て去った。
小屋に一人取り残されたカイアと呼ばれていた少女は、自分の本名すら知らなかった。
少女は優しかった母親から教わった僅かな家事の知識を頼りに、...続きを読む孤独な環境で必死に生きて行く。
そんな孤独な少女に、湿地の自然だけはとても優しく接してくれた。
貝や魚の恵みを与えてくれ、そこに生息する鳥たちの美しい羽根は少女の孤独感を慰めてくれていた。
少女の移動手段は小さなボートであり、当初は湿地帯で迷ったりもしたが、徐々に地形も覚え、操船も身につけて行く。
海で得たムール貝と干物にした魚は、優しくカイアに接してくれたジャンピンとメイベルの黒人夫妻が買ってくれ、ボートの燃料代を賄った。
尚且つメイブル夫人は、衣服などをカイアの自尊心を傷つけることのないようにして与えてくれた。
そんな夫妻にカイアは絶対の信頼をおき、実の父母として慕っていた。
そしてもう一人、ボートで迷ったカイアを救った歳上のテイトは、それを機にカイアに文字を教え、そして多くの書物をプレゼントしてカイアに知識を与え続ける。
その知識を基に、カイアは湿地帯の植物や生物の並々ならない膨大な知識と生物絵画の術を身につけて行く。
カイアが23歳の1969年、沼地にチェイスという青年の死体が横たわっていた。
その青年と、カイアはいっ時付き合っていて、青年は結婚話さえ持ち出していたことがあった。
がしかしチェイスは遊び人で、カイアは結果的に遊び相手に過ぎなかったのだ。
その彼を殺害した犯人がカイアではとの疑いが掛けられてしまう。
地元の人たちはカイアを教養のない野人の如く考えていて、責任感のない野次馬のような感覚でカイアを見ていた。
そしてカイアは逮捕される。
文句なしの圧巻の一冊だった。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年05月08日

自然の精緻、カイアの孤独の描写がとても美しかった。
ただ「景色が美しい」などという陳腐なものではなく、複雑に絡み合った生態系、生存政略をめぐらせた生物の残酷な美しさまで描き出している。
野生動物の生態、人間の生態…全く異なるように見えて、全く違いはないのだろう。

良くも悪くも、カイアは人間社会から...続きを読む切り離され、自然と生き、自然の一部となっていた。
だから自分が生きるために他者を殺すことに罪悪感も後悔も存在していない…ということに読後に気付かされた。鶏小屋のニワトリを殺すイタチのように、"事件"そのものに興味もないのだと。
独房におけるカイアの心境が描かれてもいるにも関わらず、人間社会の枠組みから人間としてカイアを見つめるからこそ、彼女の善性を信じるからこそ、我々はカイアの無実を信じてしまう。
自然には善も悪も存在しない。生き残るための戦略だけが存在しているというのに。
結局、彼女を正しく理解し、全てを受け入れていたのは干潟の自然だけだったのだろう。
「差別をなくそう」という意識は概ね正しいが、その意識が正解を導くとは限らないのだと思い知らされる。
とても面白かった。

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Posted by ブクログ 2024年05月05日

読み終わったあと、ちょっと言葉が出てこない壮絶にやるせない物語
まっとうに人生を終えるべきでない人物がきっちりと無惨な死を迎えている点のみに救いがある

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Posted by ブクログ 2024年04月29日

貧しい主人公の生い立ちや環境が感情移入しやすく、頁を捲る手が止められないくらい続きが気にって一気読みした。また、過去と現在の章立てになっていて、読者を上手く惹きつけるように考えられてるなと感じた。とにかく面白かったー。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年04月28日

なんというか、主人公の女の子の人生に吸い込まれる感覚を味わった。
この女の子ほど、「生」と向き合うことがあるだろうか。
結末は、女の子が自分の住む場所をどれだけ詳細にいたることまで熟知していたかを示すものだと思う。
殺人事件など法を犯すことはもちろん許されないが、彼女の人間らしさはとても美しく感じる...続きを読む

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Posted by ブクログ 2024年04月26日

本当の孤独に出会った一冊。湿地帯に生息する動植物の描写が緻密で、情景が目にまざまざと浮かびました。作者がアメリカの有名な動物学者と知り納得。69歳で執筆した初めての小説が驚愕の2200万部ベストセラー。美しく素晴らしい翻訳。原文と読み比べしたいけど、長編小説なので難しいかなぁ。

湿地帯で発見された...続きを読む青年の死体。村の人々から疑われたのは湿地の少女。物語は現在と少女の成長を交互に描いていきます。幼くして家族からも捨てられたカイアは、湿地帯で逞しく成長していきます。学校に通う事もなく、兄の友人から字を習いました。彼との淡い初恋。裏切り、愛と差別。辛い描写が多いですが、優しさと救いもありました。そして物語最後の詩。そこでは、自然界に残る本能と真実が残酷に表現されていました。カイアがどうなるのか気になって、読み進める手が止まりませんでした。

2022年に映画化されているので、そちらも観たいなぁ〜。

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Posted by ブクログ 2024年04月22日

分厚い本なので読み切れるかと思ったが、読み始めたら止まらなくなった。
主人公の少女がとっても魅力的。
風景を想像しながら読むのは、本ならではの楽しさ。

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Posted by ブクログ 2024年04月20日

本のグループでもかなり話題になってたこの作品。気になりつつ、文庫待ちして、やっと読みました。いやあ〜〜すごい!圧倒的な作品でした。素晴らしい!
著者が69歳で初めて書いた小説だというから驚きです。でも、豊かに流れるような自然描写を読んでいて、動物学者だというのが納得です。
映画化されてるのは知ってた...続きを読むけど、読んでから観る方がいいと思って控えていて・・・読みながら、もうすぐにでも映像が観たい!と密かに興奮しています。ちなみに、翻訳物でありながら、登場人物表を、ほとんど見ないでスイスイ読めました。これはちょっと珍しい。それだけ、キャラクターが際立っていていたのかも。

いろいろな意味で辛いお話だけど、どうしようもなく最悪な状況でも、やっぱり人は人に頼ったり、助けてもらったりしないと生きていけない。
そして『人生は長い』のだ。
信じられないような裏切りも、差別も偏見も暴力も、はたまた、知らなかった見えていなかった、優しさや、愛情や友情や、そういった全てのことが、時を経ていくことによって、形や色が変わっていく。

どうしても、カイアの目線・気持ちで読み進めてしまう。しかし、テイト、ジャンピン、メイベル、サラ、そういった人たちの心に、さりげない言葉に泣けてしまう。カイアが大人になってからのジョディとのシーンは特に泣けてしまいました。ああ〜〜〜人生というのは、後になって気づくことが、なんて多いことだろう。

印象に残ったところ少し…
ーーーーー
湿地は、彼女の母親になった。

これは人生の教訓よ。私たちはぬかるみにはまったわ。でもそんなときに女の私たちはどうした?楽しんで、笑ったでしょう。これそが姉妹や女の仲間がするべきことなの。泥のなかでも、いえ、泥のなかでこそ、そばにいて団結するのよ。

本物の男とは、恥ずかしがらずに涙を見せ、詩を心で味わい、オペラを魂で感じ、必要なときには女性を護る行動ができる者のことを言うのだと。

死ぬこと自体はさほど気にならなかった。この影のような人生がおわるからといって、何を恐れる必要があるだろう。ただ、他人によって自分の死が決定され、日程が組まれ、殺されるというのはあまりにも理解し難い状況で、想像するだけで息が止まりそうになるのだった。

心を
軽く見てはならない
頭では想像もつかぬことを
人はできてしまうのだ

たとえ自分の異質な振る舞いのせいでいまがあるのだとしても、それは、生き物としての本能に従った結果でもあった。
ーーーーー
ああ〜映画、早く観たいなあ!

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Posted by ブクログ 2024年04月15日

母親、兄妹、父親にもさられ1人で生活する少女、学校にも馴染めす、いかず、湿地でかもめや鳥たち自然とともに生きていく。一人ぼっちの暮らしの中でのさびしさ、人恋しさ、心の機微の表現にひきこまれていった。
そして、衝撃のラスト!
これって、サスペンスの要素もあるんですかね!
人間関係、環境、愛情、色んな要...続きを読む素が絡み合ったすごい作品でした。
この作者の本をまた読んでみたい!

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Posted by ブクログ 2024年04月14日

2024のベスト3の一冊はもう決まりました。
評判通り、いや評判以上に良かったです。
あまり外国文学を読まないのと、本の分厚さ、はじめに登場人物の紹介があったところから(これはややこしいのではという印象を持ってしまった)、本当に楽しめるかな…とびびってしまったが、どなたかのレビューにもあった通り、一...続きを読む章一章が短いので非常に読みやすかった。中断もしやすかった。
カイアの幼少期の話と事件のあった現在の話が行ったり来たりしながら進んでいく。
母親が出て行き、兄や姉が出て行き、酒乱の最低な父親も帰ってこなくなり、7歳で途方に暮れながらも試行錯誤しながら料理をし、お金を得るための方法を考え、生き抜いたカイア。幼いカイアの、家族一人ずつ減っていく心細さ、絶望感には心が締め付けられた。
ジャンピン夫妻がいて本当に良かった。テイトがいて本当に良かった。
訳者あとがきにもあったように、この本は、ミステリであり、成長譚であり、差別や環境問題を扱う社会派小説であり、自然や風土を描いた文学でもある。でも、全く詰め込み過ぎた感じがなかった。
最後の方は涙、涙。読み終えた時はものすごく大きな感動に包まれた。読んで良かった。

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Posted by ブクログ 2024年04月11日

とても面白かった。最初は結構読むのに時間がかかっていたが、途中から少女の成長を感じて面白かった。最後の一文まで見逃せない作品に初めて出会えた。
途中で出てくる差別や偏見など、考えさせられるものも沢山あって読んでよかったと思った。

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Posted by ブクログ 2024年04月03日

ラスト衝撃!
中盤まではカイアの孤独な湿地での日々をゆっくり時間をかけて読んでいたが、後半一気読み。
知識がないから全然違うかもしれないけど、湿地とか川とか想像しながら読んだ。面白かったー

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Posted by ブクログ 2024年03月30日

すべてに見放され、沼地に取り残された少女の一生を追った超話題作。差別や環境問題を扱う社会派小説、あるいは一人の少女の成長物語として極めて優れた作品だと感じました。

貧富の差、性別の違い、人種の違いによる差別という問題。それを直接読者に見せつけるのではなく、この作品の根底にある「動物行動学」になぞら...続きを読むえ、生存本能に従う動物や昆虫のあり方、あるいは主人公の境遇に照らし合わせたメッセージとして伝える構成が、非常に斬新で素晴らしかったです。


※以下、ネタバレ

終盤、それまでの主人公の境遇があまりにあんまりだったので、裁判の経過にはハラハラしっぱなしでしたが、結果が出た時には登場人物と一緒に喜びで崩れ落ちました。まあ、ラストを見るとなんともなんですが、これについても、これまでの動物行動学に沿った展開を思えば、個人的にはとても納得できる結末でした。

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Posted by ブクログ 2024年03月24日

生態学であり家族譚でありラブストーリーでありミステリーであり差別の物語でもある。
湿地に暮らし、湿地に育てられた少女の成長はたくましさを感じさせました。でも同時に、沼地のように見抜けない少女の奥底が、常に正体を掴ませない不気味さを漂わせる作品でした。

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Posted by ブクログ 2024年03月21日

アメリカでベストセラーになり映画化もされたミステリー小説。日本では2021年本屋大賞の翻訳部門で第1位に輝いた。主人公の少女カイヤは家族に見捨てられ、湿地の小屋でひとり生きている。学校にも通えないカイヤの楽しみは、湿地の大自然、ザリガニの鳴くところできれいな鳥の羽を集めたり、生き物をスケッチすること...続きを読むだった。
あるとき湿地で男の死体が発見され、カイヤに疑いが…。
美しくて深くて、そして衝撃的な結末。読み応え充分な中高生以上におすすめしたい一冊。

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購入済み

静かな波が立つ作品

2024年02月16日

なんでしょうね。波は立たないストーリーなのに、読後、ココロが揺さぶられてしまいました。ジャケ買いっぽく買いましたが、正解でした。

#切ない

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Posted by ブクログ 2024年05月09日

過去と現在が交錯され進む物語。ミステリー要素を含みつつ、雄大な自然とそこで一人ぼっちで生きていく女性カイア。貧困と差別、様々な要素が含まれており、湿地に住む動物たちの描写も素晴らしかった。

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Posted by ブクログ 2024年05月05日

その舞台となるのは、ノースカロライナの湿地帯。
多くの生物達が生息しており、豊かな自然の中。
人が生きてゆくのは厳しい。

主人公カイアが7歳の時母親が家を出て行く。
兄姉達も次々家を出る。
残された父も酒に溺れ、カイアの面倒は見ないのに、10歳の時、出て行ってしまう。
「湿地の少女」と呼ばれ差別さ...続きを読むれながらも、一人強く生きて行く。
学校に行かないカイアの唯一の友人テイトに読み書きを習うけれど……

読み続けるのも嫌になるほど過酷な人生の連続。
しかし、後半からのミステリー部分、やめられなくなる。

最後の最後は圧巻!
読み終えてから、何日も何日もつい考えてしまった。

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Posted by ブクログ 2024年04月22日

鳴くをsingとしていたり最後の詩であったり主人公のメタファーであると思わせられる。自然とは何か思い知らされる。とても良い。

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Posted by ブクログ 2024年04月18日

湿地で1人生きるカイアの人生が自然とともに綴られており、かなり読み応えがあった。
途中の詩のところは飛ばして読んでたけど、最後の詩は2度見した。
全体的に暗い雰囲気ではあるけれど、洒落感のある文章で惹きつけられる話だった。

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Posted by ブクログ 2024年04月16日

文庫版の帯に文章を寄せている三浦しをんさんからの問いにまず答えると、特殊な環境の元で生まれ育ち、周囲の人々とほとんど関わらず孤独な生活を営んでいた主人公が、ある出会いをきっかけにして徐々に心を開いていく様子を描いた成長小説・青春小説として私は読んだ。
もちろんミステリとしても読めるんだけど、途中から...続きを読む地の文で結構あからさまな作為が見られるので、勘のいい読者であればその時点で事件の真相はおおよそ見当がつくかもしれない。
物語の途中から重要な局面で、アマンダ・ハミルトンという名もなき人物が書いた詩がインサートされる。初読時は読み流し気味だったんだけど、こういう意味を持っていたとはちょっと気付かなかった。なるほど後で改めて読み返すとなかなか印象深いものがある。
個人的にはメインのストーリー展開がちょっとオーソドックスすぎるように感じられた点、時々語りの視点にブレが生じていた点、本書全体を通して描かれる「偏見」の扱いに既視感を覚えた点が気になったので、絶賛一辺倒だった世間一般の評価よりは少し落ちるんだけど、それでもいい作品だとは思う。

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Posted by ブクログ 2024年04月16日

殺人事件の容疑者となった沼地の少女の話。
時系列を行き来したがら少しずつ真実が明らかになってゆく。最後までハラハラしながら読んだ。

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Posted by ブクログ 2024年04月14日

著者が動物学者だからか生き物の表現が繊細で豊かで素晴らしかった。こんな文章描けるようになりたいな。
小学生の時、ハリーポッター読んだ時に感じていた自分が本の中にいるような没入感を久しぶりに味わえて楽しかった。

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Posted by ブクログ 2024年04月10日

“なぜ傷つけられた側が、いまだに血を流している側が、許す責任まで背負わされるのだろう?“

湿地で青年の遺体が見つかり、容疑は6歳で家族から見放され1人で暮らしていた女性に疑いがかかることから始まるフーダニットミステリー。

作者が動物学者ということもあり、湿地とそこに生息している動物たちの描写が詳...続きを読むしく描かれ動物好きとしてはとても興味深く読んだ。

長編だが、章が短いので読みやすい。

少女の生い立ちや差別が蔓延している時代背景が、美しい自然の風景とは対象的に人間の醜さが引きたっている。

その中で登場する、自分が生き残りまた子を産むため今いる子を棄てる狐の話や、蛍が偽りの信号を出して誘い別種の雄を捕食することなどの様々な動物の生存戦略が、一見不思議かと思えるものの人間にも通じるものがあるなと思った。
むしろ、理性がある人間の方がタチが悪いともいえる。

動物学に興味がないと斜め読みしてしまうかもしれないが、犯人を考察する伏線にもなっていて、ラストを読み終えたときにはゾッとした。

ミステリー好きだけではなく幅広い方に読んで欲しい一冊だ。


こんな人におすすめ.ᐟ.ᐟ
・ミステリーが好きな人
・動物が好きな人
・自然の美しい描写が好きな人
・文学が好きな人
・社会派が好きな人


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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年04月07日

良いとか悪いとか単純な言葉で終われないくらい一冊の本を通して色んな感情が生まれた。
結末に向かうにつれて少しずつ闇が迫ってくるような感覚。貝殻が見つからないといいな、このまま真相は闇のまま読者にお任せします、カイアはずっと孤独で不幸だったけど最後は満たされてましたで終わってと思いながら読み進めたけど...続きを読む残念ながらそうはならなかった。
500ページかけてカイアの一生を見たので今は大切な人を失ったみたいな気持ち。
ザリガニたちの鳴くところで美しい羽根を集めながら活き活き暮らすカイアが頭に浮かぶ。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年03月30日

ノース・カロライナの湿地で一人暮らす少女カイア。1969年、村の青年チェイスの死体が発見され、カイアはその容疑者となる。

本作は600pほどの長めな翻訳小説となっている。あとがきにも書かれているが、本作のジャンルは非常に難しい。チェイスの死をめぐるサスペンス。6歳から一人で貧乏白人〈ホワイトトラッ...続きを読むシュ〉として差別に晒されながらも湿地で生きてきたカイアの成長譚。差別を扱った社会派小説。湿地の自然を描いた文学作品等の要素を持っている。
これらの要素の中でも特段光っていたのは自然の描写である。物語が始まる1952年の6歳から2009年の64歳没までカイアは常に湿地と共に暮らしてきた。暴力と酒に溺れた父を見限って家を出て行った兄弟と母親に捨てられても、その父にすら捨てられても、唯一対等に話してくれたテイトに裏切られても、人のぬくもりを知ろうと頼ってしまったジョディに捨てられても常に湿地がカイアに寄り添っていた。そのため描き出された湿地の豊かな自然描写は数知れず。その自然描写は非常に美しく、時に残酷であった。自然が癒したのはカイアの心だけでなく、それは読者にも伝わり、私の心境はちょうど本作の表紙のような静かな、今にも波の音や葉が擦れる音が聞こえてきそうな落ち着いたものにさせてくれた。

本作で印象に残る人物は、テイトである。
テイトは読者の私に言葉の凄さを改めて教えてくれた。一人で生きるカイアは当然学校に通っていない。そのため言葉の読み書きができない。テイトはそんなカイアに本を与えて言葉を教えるのだ。そして次第に言葉を覚えたカイアはなんと本を執筆し、お金を得るようになるのだ。そのおかげで生活の質は向上し、光源は蝋燭から電気になり、食事も十分取れるようになった。言葉は生活を豊かにするのだ。

本作は一般的な小説よりも少し長めだが、ぜひ最後まで読んでほしい。なぜならラストには二つ重大なことが書かれているためだ。
一つはカイアが作中にたびたび取り上げられる詩人アマンダ・ハミルトンであったこと。夫であるテイトですらカイアの死後になって判明した事実であり、カイアは新聞にも掲載されるくらい自由に豊かに言葉を操る人物だったのだ。
二つ目はジョディ殺しの犯人が無罪放免となったカイアであること。これは多少予測もしていたが、まさか本当にそうだとは思わなかった。しかしカイアがジョディを殺すには十分だったのだ。その理由はカイアが生きるためにである。ホタルが別種のホタルを誘って食べるように、雌カマキリが交尾した雄カマキリを食べるように、差別される側のカイアが村でチヤホヤされるジョディに性的暴力を振るわれたなど訴えられるはずもなく、安全に生きるために必要なことだったのである。法が支配する村では許されないことでも、自然が跋扈する湿地では許される、いや許す許さないの天秤にすら乗らないごく普通なことなのだ。そこに悪意はない。だからカイアも死刑を嫌がり、ジョディ殺しの真実を墓場まで持っていくことができたのだろう。

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Posted by ブクログ 2024年03月27日

著者略歴で動物学者と知って納得。
なぜこんなに酷い設定にするんだろうと不思議だったけど、だからこその自然との近さで、生物としての魅力が備わって、雄とのなんやかんや、が描けたんだろう。
しかも思いがけず結末は爽快。強い雌、自立した雌、賢い雌は飾り立てるだけの中身のない雄に負けない。

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Posted by ブクログ 2024年03月21日

これまで読んだどんな本とも違った。
湿地でしか生きられない少女が、外の世界を嫌いながらも誰でもいい、自分と言葉を交わしてくれる相手を切望する。恋もしたが、カマキリやホタルの交尾と同列におくようなあまりの冷静な視点にも、彼女がほんとうに愛したのは作られたものではなく「ある」ものだと思わせられる
(なる...続きを読むほど作られたものは偽物ばかりだものね)
差別を受け続けたカイアを見守りつづけた黒人ジャンピン夫妻との関係だけが曇りなくあたたかく、それだけに彼らにハグすら許されない時代の
、差別の重層構造が切なかった

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年05月10日

ずっと頭の中に行ったこともない湿地の光景が浮かびながら読み終えた。
やるせない。でも、愛を知って幸せを知って大好きな地で静かに亡くなっていったカイア。大きな秘密を抱えたままに。
ずっと自然が教えてくれた本能や摂理、それがカイアにとっての教科書で自分を守る全てだったのだから納得なのだけど、やっぱりやる...続きを読むせない。

とても揺さぶられた作品だったけど、翻訳ならではの英語的な文章(?)に少し読みにくさを感じてしまったので星3。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年05月01日

オーディブルにて。
オーディブルではかなり評価が高かったから読んで見たけど、純文学9.5割、ミステリー0.5割って感じ。
確かに綺麗な情景を表す文章だったけど、私には合わなかったかなー。

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Posted by ブクログ 2024年03月21日

このミスとか色々賞を取っていたとのことだけどミステリ要素はほんの少し。
湿地で1人生きる少女カイアの成長物語。
著者が動物学者とのことで自然の描写が素晴らしい。
湿地なんて行ったこともないし知らない動物のこともいっぱい出てきたけど、読んでいると例え湿地の豊かな自然を知らなくても「こんな感じだろうか」...続きを読むっていう想像がどんどん膨らむ。
戦争だとか人種差別だとか貧困差別だとか人間の愚かな部分の描写もあるからこそ、厳しくもある自然の美しさがより際立つお話でした。
細かく章が区切られてたのも読みやすかった。

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