【感想・ネタバレ】ヘーゲルにおける理性・国家・歴史のレビュー

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Posted by ブクログ

ヘーゲル哲学の核心に三位一体論の独特の解釈が位置していることを浮き彫りにしながら、その思想が悪名高い<歴史哲学>と<法哲学>、さらには『精神現象学』に至るまでの初期ヘーゲルの思想を貫いていることを丹念に論じている。内容は大きく三部に分かれている。第一部では歴史哲学がテーマとなる。『歴史哲学講義』のテキストの成立過程を検証して、ヘーゲル本来の神学的歴史解釈の視点を異質な文化同士の接触による文化の変容であることを指摘している。現在流布している単線的歴史発展史観としてのヘーゲル歴史哲学とは異なる歴史哲学を打ち出し、その現代的意義をも問うという内容になっている。第二部では国家論がテーマとなる。まず、ヘーゲルをプロイセンの御用学者だとする戦前の一般的解釈、アリストテレス以来の実践哲学の伝統とフランス革命の諸原理との融合(「市民社会」論)に意義を見出すリッターやリーデルらの解釈を適切に批判しつつ、とりわけ戦後の研究では看過されがちだった国家主権論の問題がメイントピックである。しかもその際、フランス革命を古代共和主義の復活ととらえた青年期のヘーゲル、『ドイツ国制論』における神聖ローマ帝国改革によるドイツの復興を企図するヘーゲル、『法哲学綱要』における立憲君主政論者としてのヘーゲルが、古代的国家モデルと近代的国家モデルを総合しつつ新たな国家像を打ち出そうとする苦闘の様が描き出されることとなる。また第6章では、イルティング以来根強い、本来のヘーゲルの政治的立場は講義録で表明されており、公刊された『綱要』では検閲への配慮からそれが消去されたとする解釈について、従来の研究の論点を整理している。今後のヘーゲル政治思想の研究を系統立てて理解するためにも、このような論文があるのはありがたい。第三部では、若きヘーゲルの思想形成過程が、狭義の政治思想の枠内にとどまらず、神学や超越論的観念論との関連で捉え直されている。結果として、『精神現象学』のヘーゲルを従来よりも「反省哲学」(カントとフィヒテ)に接近させて理解するべきだとのテーゼが提出される。とりわけ、ヘルダーリンやシェリングの合一哲学への接近とそれからの離反の過程を踏まえれば、主体の意識による反省を重視するヘーゲルの論理がカント哲学やフィヒテ哲学の内実に近いという主張はきわめて説得的である。

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2014年03月19日

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