あらすじ
〈あらすじ〉
22歳の美也子は津軽塗職人の父と、デイトレーダーをしているオネエの弟との三人暮らし。母は、貧乏暮らしと父の身勝手さに愛想を尽かして出て行った。美也子はスーパーのレジ係の傍ら、家業である津軽塗を手伝っていたが、元来の内向的な性格と極度の人見知りに加え、クレーマーに苛まれてとうとうスーパーを辞める。しばらくの間、充実した無職ライフを謳歌していたが、やがて、津軽塗の世界に本格的に入ることを決めた。五十回ほども塗りと研ぎを繰り返す津軽塗。一人でこつこつと行う手仕事は美也子の性に合っていて、その毎日に張りを与え始める。父のもとで下積みをしながら、美也子は少しずつ腕を上げていき、弟の勧めで、オランダで開催される工芸品展に打って出ることに。
青森の津軽塗を通して紡ぐ、父娘の絆と家族の物語。
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Posted by ブクログ
映画は見ていないが、津軽塗りを知るには映画がいいかもしれない。私が読んだ本には、口絵に作中に出てくる小物を思わせる津軽塗りの写真があり、巻末には漆塗りの用語などがあったので、検索しなくてもすんだ。
私がこの作家に惹かれたのは、これが青森県の、そこに住む人の物語だったことが、いちばんの魅力だったかと思う。他県ならどうかというと、そこはわからないが、青森という地元に密着した物語は、そこに住む人にしかわからないリアルを持っている。それが今の自分にピッタリくるのかもしれない。
前半は、美也子とその家族や職場の、ちょっと行き詰まった場面が多い。美也子は人との関係がうまくいかないと思っているし、気の弱さからつけ込まれることもある。しかし、母親との関係、父親との関係においては、美也子はどちらも大切に思い、家族としてできる限りのことをしている。それでもどうしようもないことがある。弟(妹?)のはっきりした性格は羨ましいが、彼もこの社会の中では特殊と見られる状況下におかれている。
物語が進むにつれ、だんだんと登場人物が増えていき、それぞれの人とのつながりが増え、美也子は漆の修理を頼みにきた瀬戸のおばあちゃんや、安達さん、仙三さんに誠意を持って対応していく。漆に関しては、美也子も臆せず話すことができるのだ。吉田のばあちゃんに頼るところも大切だ。関係はそこから始まる。家族の関係も変わっていくが、それぞれの人生が新しい方向へと向かっていく。ユウも自分の力で人生を切り開き、美也子は自分の仕事について悩み続ける。めでたしだけで終わらないところがまたいい。
新版には、5年後の物語も。