あらすじ
冷戦とは何だったのか.大国同士の駆け引きや政治リーダーを主人公とする従来の物語とは一線を画し,無数の名もなき人びとの日常的な想像と行為の連鎖と,現実政治との影響関係から冷戦初期の歴史を描く.恐怖,不安,敵意,憎悪,願望……現実は人びとにどう想像され,それは増幅拡散してどのように新しい現実を生み出していったのか.※この電子書籍は「固定レイアウト型」で作成されており,タブレットなど大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています.また,文字だけを拡大すること,文字列のハイライト,検索,辞書の参照,引用などの機能は使用できません.
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Posted by ブクログ
今まさにウクライナにロシアが侵入して残虐な戦争が行われている渦中で読んだ。
第二次世界大戦直後の「冷戦」構造が形成される過程を独特の視点から洞察する大作である。
民族や国家そして政策を主導するリーダーと民衆の生活や思考、そうした歴史の捉え方そのものを考えさせられる。
「冷戦世界の本当の対立、本当の分断線は、東西陣営の間にあったというよりも、むしろそれぞれの社会の内側にあったのではないだろうか、そして、それらを乗り切るために、つまり社会内部での秩序と調和を保つために、グローバル冷戦という想像上の現実が必要とされたのではないだろうか」という序章での一文が象徴的。
Posted by ブクログ
本書は、冷戦とりわけ朝鮮戦争の勃発により「現実味を帯びてきた冷戦」が1950年前後の各国で大きなバックラッシュを生んだことは、指導者や政治家の影響は限定的で実は普通の市民(草の根社会保守)が起こした現象である、という新説を唱えるもの。この説が適用されるのは第二次世界対戦において被害のあった国々、具体的にはアメリカ、日本、ヨーロッパ、中国、フィリピン等になる。市民たちは「共産主義の脅威」を言い訳に、戦中台頭した女性労働者(銃後の勤労として)、異人種国民(兵士として戦った)、抑圧からの解放者(各地の元植民地原住民・農地解放された小作・社会運動家)等を押さえつける手段とした。為政者側はむしろ行き過ぎた「赤狩り」を抑制しようとすらしていた。市民にとっては実際に「共産主義の脅威」はあったにせよ、実際には戦前の伝統的保守的な生活に沿ってない者を排除する手段として「赤狩り」を行っていたというもの。
「反共」という言葉は米ソ対立から生まれたのではなく、終戦直後の黒人運動や女性運動に反対する保守の「敵の名前」として生まれた。国内の伝統や慣習を乗り越えようとする「敵」への蔑称だ。
つまり戦後アメリカ社会における「反対」運動とは「アメリカらしくない」人びとや行為を取り締まる一種の社会純化運動だ29
アメリカの朝鮮戦争参戦を希望するアメリカ国民は多数の手紙をホワイトハウスに送った。その内容は共産主義(ソ連)の脅威を訴えるとともに、動員や物価規制、そして増税にも喜んで賛成する、と書いてあった100
中国が朝鮮戦争に参戦した理由は国防やスターリンの指示などではなく、国内の世論や社会不安を退けることにあった。ここで参戦しなければ共産党統治社会は内部崩壊しかねないと懸念していた。参戦は一種「共産主義の正義」のための広報活動であった。160
20世紀中庸から現代までの政治指導者に求められるのは「自分自身の政治哲学を頑として固持するよりも、立場を柔軟に変えていくこと」。
現代の「指導者(leader)」は、自らが属する社会動静や大衆感情などを巧みに読み取る「読み手(reader)」であらねばならない162