あらすじ
記念すべき第1回音楽本大賞の「大賞」&「読者賞」をダブル受賞!
「録音」が開く、聴覚の新たな地平
木々のざわめきに、都市の喧騒に、民族音楽の背後に、固体を伝う振動に、水中の音環境に、私たちは何を聞き取ることができるのか?
実践と鑑賞を通じて、音の可能性を拡張する画期的音響文化論!
2000年代以降、小型軽量で廉価なデジタル・レコーダーの登場、そしてSNSの台頭により、フィールド・レコーディングという言葉を目にする機会がますます増え、「音」や「聴くこと」について人々の関心が高まりつつあります。
フィールド・レコーディングは、現代音楽やサウンド・アートの文脈、60年代末からつづくサウンドスケープと環境音楽、90年代では音響派ブームのなかで取り上げられる機会の多かった音楽ジャンルであると同時に、人類学・民族音楽学などの学術の領域での研究手法として、また電車や野鳥の録音をするような趣味としても広くおこなわれてきたものです。しかし、こうした文脈をまとまった形で取り上げ解説される機会は多くはありませんでした。
フィールド・レコーディングには響きとしての音楽的な面白さだけでなく、その音が生じる場所の歴史や生態環境、録音者の視点といった文脈が深く結びついています。本書は、こうしたフィールド・レコーディングが歩んできた様々な文脈を統合したうえで、その全体像を捉え直し、歴史、理論、実践方法を1冊で知ることができる内容となっています。現在的な視点からフィールド・レコーディングを網羅的に紹介し、そのすべてが理解できる国内で初めての1冊です。
★フィールド・レコーディングより深く知るためのディスク&ブックガイド付き
★柳沢英輔×佐々木敦(思考家)×角田俊也(サウンド・アーティスト)による鼎談を収録
ブックデザイン:大田高充
カバー写真:エレナ・トゥタッチコワ
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
「フィールドレコーディング」というものを、正直この本を読むまで知らなかった。
ただ、書評を何年か前にちらっと見たのと、表紙の雰囲気で買ってしまった。
しかし、読んでみて、知らなかった世界がそこにはあったなと思う。
フィールドレコーディング
自然音や環境音、民族音楽、あるいは、人間に聞き取れない超音波や個体振動など、
スタジオレコーディングとは違い、その場で音を録音することだと言えると思うけれど、
著者はこの行為をその音の置かれた文脈を含めて、その録音者の視点(主観)から録音することだという。
写真がそうであるように、録音という行為は、その音がある場所、背景をふまえて、録音者がそれをどのように捉えて切り取るかということなのだと思う。
しかし、録音は映像と違って、画面という枠(フレーム)がなく、その場360°をおさめるところに、録音ならではの魅力があるらしい。
また、録音をしてみると、普段耳で聞いているのとは、音がずいぶんちがって聞こえるらしい。
ふつうは、聞きたい音、聞くべき音を無意識に選別して聞いているが、マイクは無分別に音を拾うからだという。
録音をしながら、モニターをしていると、その場の音が自分の中からわいてくるような、音と一体になったような感覚がすると著者が述べていたのも興味深い。
本書では、フィールドレコーディングの作品例の解説と合わせて、著者自身の作品の録音の経緯とともに、特設サイトで著者のそれら作品の一部を聞くこともできる。
これまで触れてこなかった、自分にとっては新しい聴く体験を教えてくれる1冊だった。