あらすじ
明治後期の北海道の山で、猟師というより獣そのものの嗅覚で獲物と対峙する男、熊爪。図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化……すべてが運命を狂わせてゆく。人間、そして獣たちの業と悲哀が心を揺さぶる、河﨑流動物文学の最高到達点!!
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Posted by ブクログ
'24年 第170回直木賞。初読み 河﨑秋子さん。
面白いかどうかは別なんだけど、すごい本を読んだ気がする。
直木賞も納得なのだけど、純文学のようでもあった。
明治初期、北海道白糠町の猟師 熊爪。来歴はほぼ不明。人との関わりは獲物を最低限の金品に換える時に下山する程度。野生のヒト科ヒト属ヒト。
生死を賭けた猟師と羆の戦いの物語かと思ってたら全然違ったw
第二部とも言える、町から貰った陽子の出産育児を通して描かれる後半に、熊爪というヒト⇒人の生命の哲学が。
目の治療をした場面と、赤毛を仕留めた後の射精が非常に印象的。「見えるのに見ない、楽に生きられるのにそうしない」「理解できない、面倒臭いものを遠ざけたい」この気持ちはよく分かる。
熊爪の最期の選択は生物 ヒトとしての父性でもあったような気もする。
突き詰めると、一皮剥けば獣も人もほとんど同じで、寧ろ熊爪の方がずっと人としての大事な物を持っていたのかもしれないな。
Posted by ブクログ
明治時代頃の、北海道の山奥で1人暮らす猟師の話。人と関わらずに1人で静かに、たまに町で獲物を売りその金で鉄砲の玉や米や酒や女を買って暮らす。が、暴れっぽい熊とそれにやられた男、九死に一生の経験から違う人生を考え始める。山の王である熊と死ぬこともできず、女と山奥で暮らすことを選ぶ。が、殺された。人間は他の動物とは違うようで、結局同じなのかもしれない。
Posted by ブクログ
「愚か者の石」と「森田繁子と腹八分」を読んで北海道小説河崎秋子に注目、追いかけてみようと読んだ3作目がこの本。いやいや、またまた全然違うテイストの小説。
人間と獣の違いってなんなんやろ?どこからが人間でどこからが獣なんやろって、読んでる最中は夢中でも、どこかに境界線を意識させられている。
主人公熊爪の生き様は、単純明快。生きて猟をして飯を食って排泄して、時々町に出て肉や毛皮や山菜を売った現金で米や調味料を仕入れて、女を買う。
猟のことや山で生きていくことの手間は惜しまないが、人間らしい面倒くさいことは極力省略したがる。壮絶なミニマリズムライフである。
中盤以降、熊爪の生活に迷い熊と盲目の女という2つの違和感が入ってきたことの連鎖反応がなんとも凄い。怒涛というかとんでもないラストに向けての物語のスピードアップも心地よい。
いやー、すげー小説やわ。直木賞受賞らしいが、この本の熱エネルギーなら当然やろなぁとも思う。
Posted by ブクログ
想像もつかなかった猟師の世界を赤裸々につづっていた。大自然の中で生きる男の生き様。街の生活と小屋の生活が対比されていたが、自然の中が行きやすい熊爪は、街で生きる女に命を絶たれた。
Posted by ブクログ
明治後期、人里離れた山中で犬を相棒に狩猟をして生きていた熊爪。ある日、血痕を辿った先に負傷した男をみつける。男は冬眠しない熊「穴持たず」を追ってきたというが…。
熊爪の生活、「穴持たず」「赤毛」との戦い、不思議な少女。緊張感のある山での生活だけでなく、里の変化が不気味で怖い。熊だけではなく人間も怖い。
Posted by ブクログ
明治後期、北海道の奥山。獣のように生きる猟師・熊爪は、熊との死闘や人との出会いを経て、「自分は何者か」という問いに向き合う。
自然の中で生き抜く研ぎ澄まされた感覚が凄まじい小説だった。
熊爪は猟師の養父に拾われ、山で暮らす術しか知らない。街との関わりは、獣の皮を売るために馴染みの商店を訪れる程度。判断基準は自分や山の生き物の観察から得たもので、人間よりも獣に近い。
ある日、熊に襲われた男を助けたことが転機となる。見捨てなかったのは、自覚はなくとも養父に助けられた経験が影響したのだろう。その後、穴持たずとの闘いで最強の熊・赤毛と遭遇し負傷する。人間社会で助け合う経験を経た熊爪の思考は、人間らしい悩みに満ち始めた。
炭鉱夫への誘いもあったが、彼の最終的な判断は獣のそれであり、赤毛との死闘に挑む。赤毛を倒し、自分が死場所を求めていたと悟る姿は、人間にも獣にもなれない哀れさを帯びていた。
その後、人のぬくもりを求めて盲目の少女・陽子を攫い、擬似家族のように暮らすが、穏やかな生活はしっくりこない。死場所を求めて熊に挑むような男が、道理に外れた行いをしてのうのうと生きられるはずがない。
やがて、道理外れの象徴のような陽子に命を奪われ、熊爪は本望だったのだろう。近代化の進む日本で、彼なりの幸せな最期を迎えたのではないか
Posted by ブクログ
電子書籍で最初に読み、引き込まれた。
途中から本で読みたくなった。
こんな動物的な生き方があるのか。
なんとも言えない生臭い表現がちょっと怖かった。
ともぐいってどういう意味なのかと
読後も色々な妄想をした。
母として子を守るために陽子もまた動物的な選択をしたんだと思った。
なんとも言えない終わり方で熊爪の幸せと言うより
陽子の強さを感じた。