【感想・ネタバレ】紛争地の看護師のレビュー

あらすじ

戦場を照らすルポルタージュ。

2010年「国境なき医師団」に参加以来、20回近い海外派遣を経験した著者による生と死のドキュメント。

イラク、イエメン、南スーダンなど紛争地で看護師として活動した著者は、戦禍の市民に寄り添いながら為政者の愚かさを思う。医療で戦争は止められない――思い立った著者は一時はジャーナリストへの転身を考えるも、シリアで手術後の患者の笑顔に接し、自らの使命を確かめた。

単行本上梓後は現場から退き、採用などに携わる事務局職員となった。しかし、2021年、米軍撤退とともにタリバンが復権したアフガニスタンに渡ることに(文庫版新章)。

自分の命を危険にさらしてまで紛争に巻き込まれた人々の治療に当たってきた白川さんのこの本は、これからの世界を築くことになる子供たちにも読んで欲しいです。世界中で蔓延する暴力の連鎖を断ち切らないことには人類の未来は真っ暗です――ピーターバラカン氏推薦

彼女たちの存在と活動によって確実に救われる人がいる。救われる命がある――青木理氏が解説

※この作品は単行本版『紛争地の看護師』として配信されていた作品の文庫本版です。

(底本 2023年10月発売作品)

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Posted by ブクログ

国境なき医師団の看護師として、世界各地の紛争地へ赴任した著者による自身の体験をまとめたノンフィクション。
国境なき医師団が活躍しているエリアと言われると、”現状は停戦協議などで戦闘自体は休止している”ようなイメージでした。シリア、南スーダン、アフガニスタン、ガザ地区などが本書に登場しますが、本書を読むとそのイメージは覆ります。

政府側・反政府側が内戦状態になっている国では、政府が入国を許可して活動をしていても、反政府側からは”敵対勢力(政府側)の手助けをしている”とみなされ、医療活動拠点に向けて銃撃や空爆が行われています。
本書冒頭で、敵対勢力のメンバーを捜索に来た民兵が侵入してくるシーンは、こちらの態度次第では命を奪われかねない緊迫感のある情景でした。紛争地の活動において「怖いと思う者は帰国した方が良い。ただし、怖さに麻痺してしまった者は一番に帰国させなければならない」という言葉が紹介されています。”怖さ”に麻痺する人が出てくるほど、日常的に危険と隣り合わせであることが伝わってきます。

著者はそのような地域に20回近くも赴任しています。空爆の音が響く中で手術をし、一方で果てしなく次々と運び込まれる患者。そこで著者は「紛争自体を止めなければ、意味がないのではないか」と感じ、ジャーナリストへの転身を考えます。帰国して相談したジャーナリストは「ジャーナリストになっても紛争は止められない。あなたは看護師として目の前の命を救えるのだから、その役目を全うした方が良い」と諭されます。ジャーナリストは取材する現地で亡くなっていく人たちを前に、その命を救う事が出来ないもどかしさを感じているのでした。

戦場と呼んでも良いエリアで救命活動に従事する女性と言われると、ものすごい精神力や博愛、タフさを兼ね備えた人、というイメージが浮かびます。しかし著者自身が赴任期間の間に帰国した時、日本での安全で快適な生活に触れて生じる「この生活を手放したくない」という気持ちと、次の赴任を打診された時に「自分が行かなければ、現地のスタッフや医療を求めている現地の人を見捨てるのか」という気持ちのはざまで葛藤することを吐露していて、そこは非常に著者に共感できる部分でした。

内戦や戦争が起こると、市民生活はどういう状況になるのか、著者の視点から非常にリアルに描写されています。またそういうエリアでの活動を経て、上述のような著者自身の気持ちの変化なども赤裸々に描かれています。また、著者が国境なき医師団に応募しようとした動機や、採用されるまでのキャリアと経緯を詳しく述べた章も興味深く読めました。

日本にいては分からない、戦場となった国の市民生活の現状がダイレクトに伝わるノンフィクションでした。

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2025年10月23日

Posted by ブクログ

看護師を目指してる身として大変勉強になった。
私も将来、紛争地に赴き現地の人々に寄り添いながら看護をしたいと思う気持ちがいっそう強まった。

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2025年05月29日

Posted by ブクログ

 高校の時、世界史が好きだったからだろう。パレスチナは第二次世界大戦が積み残した悲劇で、不勉強な高校の時でさえ、先進国全体が一致して向き合うべき紛争だと思った。今でもこの思いは変わらない。
 この本では中東やアフリカの紛争地で国境なき医師団として活動した著者の素直でまっすぐな記録が読める。
 ロシア、中国、北朝鮮、有事をあおる政治家たち。せめて我々市民は、このような書物を読み、戦争をしない決定に向けてクリエイティブな思考を働かせる必要がある。私は殺されたくないので、殺さない判断ができる国の一員でありたい。

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2024年09月22日

Posted by ブクログ

国境なき医師団に憧れて看護師になり、英語圏で海外経験を積んでから、実際にMSFから紛争地に派遣されるようになった著者。彼女の人生や、彼女が実際に紛争地で見たものや出会った人々について綴られる。

まっすぐな使命感と情熱、でも人間として当然ある安全を求める気持ち、平和なオフィスでの仕事のやりがい、恋人や家族に心配をかけたくない気持ちなど、相反する要素の中で揺れ動く気持ちについても言及されている。ジャーナリストにキャリアチェンジしようとしたことなども触れられていて、それでも看護師として紛争地に行くことを選び続けることに感銘を受ける。

イラク、シリア、イエメン、ガザなど様々な現場での活動について記録されている。シリア内戦でやむを得ず銃を選ぶ元薬学部学生の若者の姿。自発的に献血に協力してくれるシリアの市民の姿。現地のローカルスタッフの人生、喜びや悲しみ。南スーダンでの国連への避難、撤退せず市民の治療に従事したこと。ガザには高学歴な若者が意外にも多いが、職がないこと。2名の清掃員の募集に300名の応募があり、家族や親戚からの後押しの電話が大量にかかってきたこと。

南スーダンでは、政府軍トップが「街の片付けと復興はNGOたちにお願いする」と言っていたという。そのような国家観の人間にとって、市民の命とは何なのか。何のために政府があるのか。海外からの支援が国家の自立を妨げているかのような状況。医療だけでは紛争は止められない。人道援助の取り組みはもちろん必要である一方、紛争の調停や平和構築についてもきちんと介入しなければ、紛争はなくならず、最も脆弱な人々の苦しみには終わりが来ないということを考えさせられる。

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2024年06月05日

Posted by ブクログ

こんなにも情熱的な女性がいたのか…!と、感銘を受けた。

自分の暮らしがいかに恵まれているかを再確認しつつ、今の日本の実情を思い、人の幸福とはなんだろう?とも考えてしまった。

自分の視野を広げたい!と思われる方に、強くお勧めしたい1冊。

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2024年01月11日

Posted by ブクログ

瀬谷ルミ子さんの本を読んだときも思ったけど、自分も命の危険にさらされるところに行って、他の人の命を救う仕事をしている人には、頭が下がる。
私を含め、ほとんどの人はできないことだ。
著者がいくら有能で強い人であっても、凄まじいストレスであり、帰国するたび呼吸困難が一ヶ月ほど続く、とある。現地では気を張りつめているから、ほっとしたとたんに発症するのだろう。
そして、こうして実情を伝えてくれることで、私たちは世界を知ることができるし、どうしたら命が奪われない世界を作ることができるのか考えることができる。その程度しかできないのが申し訳ないけど。

安心して勉強できる日常を取り戻すために銃を取ったシリアのムスタファ。
父を殺され、自分も足を打たれた10歳の少年が、退院したらすぐに(仕返しに)「殺しに行く」という世界。
大学を出ても60%は仕事がないガザの若者。
これらの人たちを忘れないでいたい。
満足な設備も薬も、ときには水さえ足りない中、文字通り命がけで治療に当たっている医療関係者がいることも。
読める人には全員読んでほしい本。

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2023年11月30日

Posted by ブクログ

「為政者たちのさまざまな思惑によって国と国、民族と民族の衝突は止まることはありません」が「世界のどの紛争地でも、政治上は対立しているはずの市民同士が、実は心を通い合わせているという場面を何度も見てきました」(あとがき)という白川優子さん。
「平和を願う市民たちを支える一員であり続けたい」との生き様に大きく拍手する。
ガザで驚くほどの惨状を生み続けるイスラエルに心を寄せる日本の為政者よ。恥を知れ!
生命を奪われた人がたった5日で1万1千人を超え、4割の4500人が子どもだ。どうして止めずにいられるのか、どこまでアメリカの犬であり続けるのか。

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2023年11月12日

Posted by ブクログ

世界の紛争地域で看護師として働く著者白川さんが現場で経験したことをまとめたノンフィクション作品。まあとにかく読みやすい。読みやすさのあまり、各地での出来事が淡々とつづられているけど、そこで目の当たりにする作者の計り知れない憎しみ悲しみ、ときには喜びもあり、感動のルポルタージュになってます。
ぜひ、ご一読を。

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2024年01月20日

Posted by ブクログ

 「国境なき医師団」の手術室看護師として、20回近くにも及ぶ海外への派遣をつとめた白河優子さん、派遣先は、シリア、南スーザン、イエメン、パレスチナ…等の紛争地…。水も電気も充分に使えず、そもそもの医療提供体制が整っていない地ばかり…しかも、いつ空爆がはじまるか不安と恐怖を抱えながらの医療活動…もう何て言ったらいいのか、言葉もありません…。

 この作品では医療活動の過酷さだけでなく、紛争地で生きる住民の様子も描かれています。高学歴なのに、女性であるがゆえに、仕事に就けず将来に不安を抱える若者、空爆のない夜間にそれとは知らず時限爆弾で遊び負傷した子どもたち、負傷してもなお早く退院して親の仇を打つために殺しに行きたいと言う10歳の子ども…。

 現在勃発しているハマスとイスラエルの戦闘でも、ガザ地区の病院が破壊されました…。ガザ地区での死者は2万人を越え、うち8000人は子どもだと…胸が痛いです。本当は、誰も戦うことを望んではいないのに、一部の為政者の思惑に翻弄されているかのように感じます。平和を願わない人はいません…どうか、世界中どこにいてもすべての人が安心して生活できるような社会に変わっていきますように…。

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2023年12月23日

Posted by ブクログ

「怖いと思う者は帰国したほうが良い。ただし、怖さに麻痺してしまった者は一番に帰国させなくてはならない。」
どんな戦地にも赴いて活動している国境なき医師団。
戦場を恐れない勇敢な人たちのイメージだったけど、彼ら彼女らも恐怖を抱えながら活動しているんだなと。そうか、そりゃあそうだよね。なんて強いんだろう。そして戦地と平和な日常を行き来するってどんな感覚なんだろう。

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2023年11月29日

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