あらすじ
美しき街への痛切な愛を謳う傑作トルコ文学。
イスタンブルの地下牢獄の一室に、学生のデミルタイ、温厚なドクター、気難しい床屋のカモが閉じ込められていた。苛烈な拷問を待つあいだ、彼らは互いに物語をして時を過ごす。そこに激しい拷問を受けたばかりの老人キュヘイランが加わる。彼は幼い頃から父が影絵で物語ってくれたイスタンブルに憧れていた。彼らはまるで疫病を避けて家に閉じこもり物語をし合った『デカメロン』のように物語り合い、空想の世界でお茶を飲み、煙草を味わう。やがて彼らの過去が少しずつ明らかになり、と同時にそれぞれがまた拷問へと連れだされていく…。
2018年EBRD(欧州復興開発銀行)文学賞受賞。東西が溶け合う美しい街と、その地下で彼らを襲う残酷な現実――クルド系トルコ人の作家がイスタンブルへの痛切な愛を謳う傑作トルコ文学。
(底本 2023年9月発売作品)
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Posted by ブクログ
イスタンブルの地下牢に収容され、拷問を加えられている政治犯、ドクター、学生のデミルタイ、床屋のカモ、キュヘイラン爺が、拷問の合間の牢で語る話。暗い話は禁止、空想の中でラクを飲みタバコをふかしながら、笑い話や自分の家族の話を語る。拷問でボロきれのようになりながら、そしてまた拷問に連れて行かれるのではないかと足音に怯えながら語る話は、岡真理の戦争の対義語としての文学の話や、寓話で鶯は養えないと言いながらもラーゲリで生きるために物語をしていた捕虜たちの話を思い出す。夢想する地上の美しいイスタンブルと、囚われている地下牢のあるイスタンブル。でもその地上のイスタンブルとて、政治犯を捕らえようと罠が張り巡らされ、パンを得るためには奴隷になるしかない、どうしようもない現実がある。その現実を変えるために革命を求め、捕えられて地下牢で拷問されている彼らや、彼らを拷問する人々から、人間の際限のない残酷さと、悲惨極まりない現実の中でも物語ることで希望を得ていく無限の想像力と、なんというか人間の限界と無限性みたいなものを感じた。極限状態を描きつつどこか黙示録的というか。