あらすじ
再野生化する地球で、人類が生き抜くためには、経済・政治・社会の大転換が必要だ。
地球を人類に適応させる「進歩の時代」から人類が地球に抵抗し、自然界と共存する「レジリエンスの時代」へ。
世界的な経済社会理論家が描く、危機脱出のための処方箋!
【絶賛!】
「人新世の危機」を解決する、コモン型経済のリアルな姿がここに。
――斎藤幸平(『人新世の「資本論」』)
【自然の復讐を乗り越える、「共生」の経済システム】
これまでの「進歩の時代」において人類は、地球の恵みを収奪し、商品化し、消費を最大にして生きてきた。だが、無限の成長と超効率化を絶対視したせいで、環境危機と地球温暖化が発生。洪水、干ばつ、熱波、山火事、台風が、生態系とインフラを破壊し、人類の生存を脅かしている。
この危機を脱するために必要なのは、「レジリエンスの時代」への大転換。地球を人類に適応させるのではなく、人類を地球に適応させるのだ。自然と共感的に関わるためには、経済・政治・社会の見直しが必須。
科学技術にも精通した世界的な経済社会理論家が、未来への処方箋を示す!
【目次】
第1部 効率vs.エントロピー ――近代の弁証法
第1章 マスクと人工呼吸器とトイレットペーパー ――適応力は効率に優る
第2章 テイラー主義と熱力学の法則
第3章 現実の世界 ――自然界の資本
第2部 地球の財産化と労働者の貧困化
第4章 大転換 ――時間と空間の地球規模の囲い込み
第5章 究極の強奪 ――地球のさまざまな圏と遺伝子プールと電磁スペクトルの商品化
第6章 資本主義の矛盾 ――効率性の向上と労働者の減少と消費者債務の増加
第3部 私たちはどのようにしてここに至ったか ――地球上の進化を考え直す
第7章 生態学的自己 ――私たちの一人ひとりが散逸のパターン
第8章 新たな起源の物語 ――生命を同期させ、形作るのを手伝う生物時計と電磁場
第9章 科学的方法を超えて ――複雑で適応的な社会・生態系をモデル化する
第4部 「レジリエンスの時代」 ――「工業の時代」の終焉
第10章 レジリエンス革命のインフラ
第11章 バイオリージョン(生命地域)統治の台頭
第12章 代議制民主政治が分散型ピア政治に道を譲る
第13章 生命愛(バイオフィリア)意識の高まり
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Posted by ブクログ
【未知の未知にも複雑に適応することについての、大作。】
「レジリエンスの時代」は、これまでの「進化の時代」と対比して論じられています。
今、人間の営為を再構築する節目にいる、と。
脱成長やポスト資本主義や、などという論はよく聞きますが、
これまでの延長としての議論の枠組みを優に超え、
スケールが、細部への解像度が機を逸していたように思いました。
・・・
これまでの「進化の時代」が、
効率に焦点を当ててきたこと、
それは、先日読んだ『#アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』と重なる部分もありました。
しかし本書は経済学だけを語るのではなく、
科学、生態学が深堀され、
人間を物理、自然の中に位置付けて論じらていました。
レジリエンスは、「世界に対する働きかけの様式」。
CASES (complex adaptive social ecological system)という概念を紹介し、
世界を、社会と生態系が一体となっているシステムとしてとらえ、
複雑に、つまり理解の範囲を超える未知の変化を前提として、適応していくという考え方。
既知の未知のみならず、未知の未知、つまり分かっていないことさえ分かっていないことがあることを認め、そのような動きにさえ対応していくこと。
よって、
正確な未来予測の能力を要さずどのような未来にも対応するシステムを工夫する質的能力。
効率から適応への転換。
「進化の時代」のように効率を追求すると、全体のレジリエンスが犠牲になる。
「レジリエンスの時代」には、単独の動きは非効率になるが、協働することで大きな力を発揮する、と言います。
選択の余地を残す
局地ではなく局面で事象を眺める
不均一性を重視する
と書くと、とても抽象的な話のように聞こえますが、
生態学の原理を参照して語らていて、大変興味深いです。
適応と変異を社会や生物・生態学外にも当てはめて考える、『#進化思考』とも重なる部分がありますね。
出てくる話は多岐に及びます。
半導体、コロナ、科学的管理法、機械論的宇宙論、熱力学、エントロピー、デカルト、ニュートン、アインシュタイン、アダム・スミス、
負の外部性、市場均衡理論、供給の限界収穫逓減、消費の限界効用逓減、GDP、
緑の革命、土壌流出、ファストフード、薬剤耐性菌感染症、
ベネディクト会修道士、機械式時計、美術の透視図法、遠近法、ガリレオ、
ジョン・ロック、岩石圏、熱帯雨林、放牧、二酸化炭素、
バイオテクノロジー、特許、クリスパーキャス9、GPS、アルゴリズム、フューチャリング、
ショート・ターミズム、リーン生産方式、ゲーミフィケーション、
生物時計、光周性、遺伝子、電磁場、生体電気信号、
フランシス・ベーコン、客観的知識、生物群集、生態遷移、ジョン・デューイ、実用主義、
IoT、マイクロ型送配電網、レイテンシーファクター、フォグコンピューティング、シェアリングエコノミー、
バイオリージョン、エコリージョン、ピア政治、ポルト・アレグレの参加型予算編成、気候市民議会、
バイオフィリア、自然教育、市民科学、ゲーテ、共感。
ゲーテ!!!!!
Posted by ブクログ
効率化を追い求めすぎて変化に脆弱になっている。気候変動が猛威を振るう中で、それではうまくいかない。ローカルの環境やインフラ、生態系を維持しながら、協調していきていく必要があるという話。
参考になる話も多いが、今のアメリカの話はちょっと特殊な気もした。あと後半繰返しが多い。でも一つの考え方を示してくれている。
Posted by ブクログ
経済学者による資本主義的な「進歩の時代」から民主主義的な「レジリエンスの時代」への転換の必然性が書かれた本。
前半は科学的な記載が多く、生物学的・化学的・物理的な原理や過去の発明に基づきながら、現代社会の変化やそれに伴う警鐘を鳴らしている。
あくまでも個人の感想だが、あまりこの辺りは頭に入って来ず、経済社会を科学的に捉えるという新鮮さや合理性は強く感じたが、それを自分の論として取り入れるほど解釈することができなかった。
後半は、そういった時代背景も含めて、どのような社会がレジリエンスが高い社会なのかを具体的に述べている。
・クリーンエネルギーやIoTなどの発展、またそれに伴う監視と分散が実現する非中央集権的なインフラの構築
・自然災害などの身近に感じやすく、そこから生まれる生命地域主導のバイオリージョンに基づく統治形態及び生命愛に基づくバイオフィリア
・代議制民主正義の発展系である、ピア議会・ピア政治。より地域住民や市民が合議的な議論や権限を持って、行政を運営/意見していくような状態
これらの具体的な将来像が非常にわかりやすく、実現性の高い論旨になっていることに非常に感動した。
時代の変化とそれに応じて何が求められるかという点を哲学や宗教のみならず、科学や社会学などの観点からも論じている部分が刺激的であった。