【感想・ネタバレ】中世の覚醒のレビュー

あらすじ

12世紀の中世ヨーロッパ、一人の哲学者の著作が再発見され、社会に類例のない衝撃を与えた。そこに記された知識体系が、西ヨーロッパの人々の思考様式を根底から変えてしまったのである。「アリストテレス革命」というべきこの出来事は、変貌する世界に道徳的秩序と知的秩序―信仰と理性の調和―を与えるべく、トマス・アクィナスをはじめ、キリスト教思想家たちを激しい論争の渦へと巻き込んでいった。彼らの知的遺産は、現代にどのような意義を持つのであろうか。政治活動の発展と文化的覚醒が進んだ時代の思想を物語性豊かに描いた名著。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

中世は暗黒ではなく現代科学に連なる葛藤の時代。プラトン思想を取り入れたアウグストゥティヌス的なキリスト教思想が下地にあるなか、アリストテレスの自然哲学が西洋に流れ込んだ。神学と自然哲学の間にある矛盾を調停しようと、信徒たちが様々に思想を展開する。革新的な思想は慣習からの距離ゆえに忌避され、時を待って政治的社会的文化的な土壌が整って初めて受け入れられる。そうして時間をかけて、理性と信仰は棲み分けが進んだ。社会に通底する正しさは宗教から科学に取って代わり、信仰は個人的な領域に追いやられた。しかし、科学と宗教の境界に位置する心の領域には、未だ科学では手が届いていない。共通の理念が失われ、科学が十分に及んでいない範囲にある政治や法や倫理の分野には、信仰を復活させる必要があるのではないか。個人個人が持つ信条を対話により互いに折衷していくことで、共通理念を形成することはできないか。そのためには、各人がそれぞれの持つ理念を自ら分析して科学や他者の理念と調和させる、すなわち、個人の領域内に神学的な態度を持ち込む必要があるのではないか。中世の思想家たちの歴史に胸を打たれるだけでなく、現代を生きる自分にとっても大きな学びが得られる本だった。

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2025年03月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

これは面白い!中世ヨーロッパにおけるアリストテレスの再発見と受容の話なんだけど、中世と聞いてイメージするステレオタイプの「信仰と迷信に支配され、合理的・科学的思考のない時代」を覆すストーリーを展開する本。あまりに魅力的で異端的だったアリストテレスの自然哲学を、あくまで教会内で、信仰という土台の上でどう消化し、カトリックの中のものとするのかという数百年にわたる論戦(ときに暴力)を時々の登場人物にフォーカスして語る。異端思想の源泉として警戒・禁止されつつも、押したり引いたりを繰り返しながらカトリック神学の中心に咲き誇り、そして時代の権力や経済力が教皇の手を離れていくに従い、教会の枠を離れていく複雑な流れをわかりやすく書いてくれてとても面白かった。翻訳も自然で読みやすくて良かったと思う。著者は中世も神学も専門でないのに、こんなに書けるなんてすごいなあ。

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2022年07月10日

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