あらすじ
ホテル・アルカディアの支配人のひとり娘・プルデンシアは、コテージに閉じこもっていた。投宿していた7人の芸術家は、彼女を元気づけ、外に誘い出すべく7つのテーマに沿った21の不思議な自作の物語をコテージ前で順番に語りだした。この朗読会は80年たった今も伝説として語り続けられ、廃墟と化したホテル・アルカディアには聖地巡礼のようにして、芸術家たちのファンが何人も訪れる。80年前、あの朗読会の後、芸術家たちはどうしたのか、そしてひとり娘のプルデンシアはどうなったのか? かつて味わったことのない読書体験を保証! 第30回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作。
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Posted by ブクログ
ホテル・アルカディア支配人の娘、プルデンシアが突然コテージに引きこもってしまった。ホテルに逗留していた7人の芸術家たちは好奇心を惹かれ、扉の向こうに閉じこもるプルデンシアに向かって創作した物語を読み聞かせる。古今東西の文学にオマージュを捧げた連作短篇集。
多国籍な登場人物と翻訳風の文体をあやつり、新旧あらゆる作品のオマージュがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。それぞれの短篇にはっきりとした繋がりはないので、だんだん文体演習を読んでいるような気分にもなってくる。
行間から衒いのない「こういうのが好き!」という気持ちがとめどなく溢れだしていて、世界のアトラスというより著者の読書遍歴を辿る旅のようだった。それはそれで面白く、名前がでてくるものも匂わされてるものも好きな作品・作家が多かったのでニヤつく反面、ずっと表層だけでなかに入っていけないような感覚があった。それぞれの章のあたまに置かれた幕間のようなお話で語りの次元を毎回ひっくり返してくるのが面白かったのと、ナンセンスに比重を置いているところは好きだった。短篇で気に入ったのは耽美に見せかけてイジワルな「アンジェリカの園」と、家飲みの空気を再現した会話が気持ちいい「測りたがり」と、純文寄りで読みごたえのある「一〇〇万の騎士」。
最後は作中作「アトラス・プルデンシア」の結末を芸術家7人分読ませるオープンエンド。ヨウコ版を読んで、あっこの人ってオノだけじゃなくてオガワも混ざってるんだ、と気づく。軽い読み口でリーダビリティの高いメタフィクションだった。